第95話 人生初の生裸体を拝めるチャンス! 絶対に逃さんでござる!
旅先で出会ったエレナと共に夜を過ごすことになったキモヲタ一行。彼女が女占い師であることが分かった途端、女性陣の興味が一気に高まり話が弾んでいました。
ただ世の中を斜め下から見ることにかけては定評のあるキモヲタは、すぐにエレナの占い師としての能力に疑問を抱いていました。
彼女とユリアスたちの会話を聞いていると、誰でも当てはまることを言って、それが自分だけのことだと思い込ませるバーナム効果や、質問の仕方でまるで心を読んだかのように思わせるコールドリーディングを駆使していたからでした。
「ユリアスさん、あなた最近、何か重要な決断を迫られたりしたんじゃない? そのことで少し悩んでいるようね」
「えっ!? わかるのですか?」
ユリアスの目が驚きで見開かれました。エレナはうっすらと笑みを浮かべて、その手を取ります。
「あなたって、とても真面目で責任感の強い人だわ。あなたは常に周囲の期待に応えようと努力しているのね」
「皆をがっかりさせないように努めているつもりです」
ユリアスをじっと見つめていたエレナの目がキラリと光りました。
「もしかして新しい任務や責任を任されたりして、そのことでプレッシャーを感じているんじゃない?」
「そ、そうなんです! どうして分かるのですか、エレナ殿!」
ユリアスは驚きと感動で声が震えていました。
「占い師だからね! で、あなたはそのプレッシャーに耐える力を持っているわ。過去にも同じような状況を乗り越えてきた経験があるのではないでしょう?」
「は、はい! そういった経験があります!」
「あなたの忍耐力と努力が、今回も必ず良い結果をもたらすはずよ。少しずつ自信を持って進んでいけば、きっと成功が見えくるわ」
「エ、エレナ……様! ありがとうございます!」
こうしてユリアスは落ちました。
(ユリアス殿……チョロ過ぎでござる! しかし、さすがに今のやりとりを見れば、他の女性陣たちはエレナ殿のうさんくささに気付いてしまうでござる……)
そう思ったキモヲタが、セリアやエルミアナ、キーラに目を向けると。
(皆、目がキラッキラッしてるでござるぅぅぅ!)
「エレナ凄い! なんでユリアスのことそんなに分かっちゃうの!?」※キーラ
「エレナ殿、素晴らしいです! 私は占い師というものを侮っておりました」※エルミアナ
「エレナ、凄い! 私のことも観て欲しい!」※セリア
そして、エレナのトークに惹きこまれていく彼女たちでした。
しかしキモヲタだけは、エレナを冷静な目で観察し続けていました。普段ならエレナのGカップを見ただけで、率先して騙されに行く勢いのキモヲタですが、今回ばかりは違いました。
なぜならキモヲタはエレナのことを乙女ゲーム『深淵の悪役令嬢』のサルミアちゃんと重ねて見ていたからです。
ゲームの中でのサルミアは、野心に溢れた自己中心的性格。見下す気持ちを隠そうともしない目で相手を見据えながら、すぐバレるような嘘を堂々と吐く悪辣ビッチなのでした。
(くくく。あのビッチなサルミアちゃんと同じく、ザマァされてどん底に落ち込んだところで、我輩が優しくして好感度を一気に天上越えするのでござるよ)
サルミアちゃん以上に悪辣なキモヲタでした。
「ねぇ、キモヲタさん?」
ふと我に返ったキモヲタは、エレナが自分のことをまっすぐに見ていたことに気が付きました。
「あなたは治癒師なんでしょ?」
「ど、どうして我輩が治癒師だと!?」
もしかしてエレナは本物の力を持った占い師で、自分の心が本当に読まれてしまったのかと焦るキモヲタ。心臓が大きく跳ね上がりました。
「国境で、あなたが女の子を助けたのを見てたからよ。あなた相当の治癒力を持っているみたいね」
「あっ! そ、そうでござったか……」
キモヲタが安堵する様子を見たエレナの表情が、にわかに真剣なものに変わりました。
「あれほどの怪我を完治してしまうとは、私が知らないだけで高名な治癒師なのかしら?」
「そ、それほどではござらんよぉー! 我輩がちょっと足裏揉むだけでどんな怪我でも即完治ですぞぉお!」
簡単に調子に乗るキモヲタでした。
「どんな傷でも治せるの?」
エレナの声も表情も、今までとは深刻なものとなっていました。そんなエレナの様子に他の女性陣も口を閉ざして見守るばかりでした。
「もちろんでござる! どんな怪我も元通りですぞ!」
ただ一人だけ空気を読めてないキモヲタに、エレナはもう一度問いかけました。
「どんな怪我でも? 例えば……」
エレナの瞳がキラリと光りました。そして一呼吸おいてから、エレナは言葉を発しました。
「食べられてしまった足も?」
「ギクッ!?」
魔物に食べられてしまったリリィの右足を復活させたキモヲタ。そのときは状況の混乱に乗じてうやむやに出来たと思っていたので、完全に頭から消し去っていたのでした。
「あの……そのですな……実は、我輩それほど大したことなかったといいますか、正直に言うとただのザコ治癒師でござって……」
エレナは静かに立ち上がると、あたふた言い訳するキモヲタの前に立ちました。
そのままエレナは静かに服を脱ぎ始めました。
キーラが慌ててキモヲタの目を塞ごうと飛び出しましたが、エレナの肌かをみてその動きを止めました。
「あなたになら、この傷を治すことはできる?」
人生初の生裸体を拝めるチャンスを逃すまいと、キーラの目塞ぎを全力で回避しようとしたキモヲタも、エレナの言葉で全身がフリーズしてしまいました。
服を脱ぎ捨てたエレナの身体には、
ただれた無数の傷痕が刻まれていました。
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