第90話 パパ気持ちひぃいぃのぉおお❤……治癒でござるからね!?

 国境の検問所で入国許可証の発行を待っている人々。そのキモヲタのことを「お兄ちゃん」と呼んで慕っているリリィとその家族がいました。


 リリィの父親が、ようやく明日には入国許可証が発行されると家族に話しているのを聞いたリリィは、キモヲタにお礼を言いに行くことにしました。


 その前に、キモヲタに花をプレゼントしようと、リリィはここで友達となった子供たちと共に、近くの森に花を摘みに行くことにしました。


 といっても、両親からも周囲の大人からも、あまり街道を離れてはいけないと言われていたので、ちゃんとその言いつけは守っていたのです。


 森に入っても、大人たちの姿が見える場所で、リリィたちは花を探していたのです。


 しかし、たまたま運が悪かったことに、人間の群れを観察していたクラグ・スティンガーがそこに潜んでいたのでした。


 牛ほどのサイズがあるサソリのような姿をしたこの魔物は、全身が緑色で、獲物が近づいてくるまで何日でも辛抱強く待ち続けると言われています。


 山や森で生活している人にとっては、クラグ・スティンガーの緑のカモフラージュを簡単に見破ることができるのですが、街の人間にとってはそうではありませんでした。


 目の前を通ったリリィに、クラグ・スティンガーはその大きな尻尾の棘を突き立てました。尻尾はリリィの足を貫き、彼女は悲鳴を上げて地面に倒れました。


「キャァアアアアアアア!!」


 リリィと一緒にいた女の子の悲鳴で、クラグ・スティンガーはその動きを一瞬だけ止めました。それを見た男の子が、勇気を振り絞ってリリィの身体を引き摺って逃げ出そうとします。


 獲物を逃すまいと、クラグ・スティンガーは大きなハサミでリリィの右足を掴みます。そして、リリィの足はそのまま引きちぎられてしまいました。


「イヤァァアアアアア!!」


 リリィの悲鳴が、森の中に響き渡りました。そして、クラグ・スティンガーがもう片方のハサミでリリィを掴もうとしたその時――


「ヤァァァッ!!」

 

 エルミアナのレイピアが、クラグ・スティンガーのハサミを何度も貫き、そして砕いてしまいました。


 怪物はその口から苦悶の音を発しながら、今度はエルミアナに向けて巨大な尻尾を突き刺そうと振り上げます。


「ハッ!」


 その瞬間、セリアが飛び出してきて居合抜きで、クラグ・スティンガーの尻尾を切り落としました。


「うらぁあああ!」

 

 さらに、ユリアスがクラグ・スティンガーの頭部にクレイモアを振り下ろして止めを刺しました。


「リリィ!」


 遅れてリリィの父親がやってきました。娘の痛々しい姿を見て、彼は悲鳴を上げながらリリィの元に駆け寄ります。


「ユリアス殿! 何事でござるか!?」


 さらに遅れてドタドタと走ってきたキモヲタ。クラグ・スティンガーの死体を見て一瞬怯んだ者の、その前で父親に抱かれているリリィの姿を見て驚愕します。


 右足は膝から先が失われていて、その太ももが赤黒く腫れあがっています。顔は真っ青に青ざめて、息絶え絶えの状態でした。


「クラグ・スティンガーの毒にやられたのでしょう。このままではすぐに死んでしまいます」


 エルミアナの言葉を聞いて、父親の顔が青ざめます。


「そんな!」

 

「キモヲタ殿、すぐに治療を!」


「わかったでござる! それでリリィの右足はどこでござるか!?」


 男の子が、クラグ・スティンガーの死体を指差して言いました。


「あいつがリリィの足を引きちぎって食べたんだ!」


「リリィ! うそっ!? うそうそうそよ! リリィイイイイイ!」


 全員が驚愕する中、リリィの母親が到着して、少女の惨状を見て絶叫し、そのまま意識を失ってしまいました。


 父親に抱かれたまま、リリィが閉じていた目をうっすらと開きます。その瞳には、もう何も映っていませんでした。 


「そんな! リリィ! まさか! そんな! リリィ! リリィ!」


 必死で父親が呼びかける中、リリィの唇から微かな声が漏れ出てきました。


「お兄ちゃん……お花……見つからなかった……ごめんね……」


 その言葉を最後にリリィは息を大きく吐くと、そのまま目を閉じ――


「ぬおおおおおお!」


 リリィの目が閉じらる前に、キモヲタはその左足を掴み、そして絶叫しました。


「【足ツボ治癒】フルバーストぉおおお!!」


 リリィの足を掴んだキモヲタの手から強烈な緑色の光が放たれ、それがリリィの全身を包み込みました。


「轟け雷鳴! 響け足裏! 我が必殺の【足ツボ治癒】!」


 グリグリグリンッ!


 キモヲタがリリィの足裏に親指を押し込むと、リリィの身体がビクンビクンと跳ね上がります。


 腕の中で暴れるリリィの身体を押さえながら、父親はその奇跡を目の前にしていました。


「足の腫れが消えた! 傷も消えてる!」


 絶叫する父親の腕の中で、リリィが目を開きました。


「パ……パパ……」


「リリィ! お前生きて! 生きてるんだな!」


「あなた! リリィ!」


 リリィの母親が目を覚まし、リリィと父親の傍に駆け寄ります。


「ご両親どの! 大変なのはここからですぞ! パパ殿はリリィたんをしっかりと支えるでござる!」


 グリグリグリンッ!


 リリィを包む光は一層輝きを増しました。とくに失われた右足に強烈な光が集まっていました。


「ひぎぃいいいいい❤ いやぁあああああ❤」


 絶叫して背中を逸らすリリィに、父親が真っ青になって叫びます。


「どうしたリリィ! 痛むのか!」


 リリィは一生懸命に首を振ります。


 グリグリグリンッ!


「違うのぉぉおおおお❤ パパぁおあああああ❤」


 リリィがアヘ顔ダブルピースで震えながら、父親に叫びます。


 グリグリグリンッ!


「パパ気持ちひぃいぃのぉおお❤ らめらめらめぇええ❤」

 

 アヘ顔ダブルピースで快感に打ち震えるリリィの姿を見て驚愕する両親と周りの人々。


 いつの間にかリリィの右足が元通りになっていることには、キモヲタ以外の誰も気が付かなかったのでした。

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