第79話 つまり言い換えればスーパーエステティシャン!

 キモヲタの部屋をこっそり訪れた宿の女主人サリサ。


 彼女の深夜の特別サービスを断ったキモヲタでしたが、サリサの話を聞いているうちに、彼女に対する同情心が沸き起こります。


 キモヲタは、サリサを慰めるためにハリボテをプレゼントし、さらに【足ツボ治癒】もしてあげることにしたのでした。


 ところが【足ツボ治癒】につい力を入れ過ぎて、サリサはベッドのうえで壮絶に喘いで悶絶。


 騒ぎを聞きつけたキーラたちが部屋に入ってくると、ベッドの上にいるキモヲタとサリサの壮絶な姿を目にするのでした。


「み、皆様、こんな夜更けに何用で?」


 ベッドの上でサリサの足裏を掴んだまま、キモヲタはキーラやユリアスたちに、なるべく平静を装って声を掛けました。


「キ、キモヲタ……その女の人に何してるの?」

 

 下着姿のキーラは、ハイライトオフした瞳に真っ赤な炎が揺らめいていました。


「オーク! いつかヤルとは思っていたが、まさか人を攫ってくるとは……」


 ネグリジェ姿のエルミアナは、手にしたレイピアを抜き放ちます。


「キモヲタ様! どうしても我慢できないなら、私を襲ってくださいまし! 私のお尻はあなた様だけのものですのに!」


 ネグリジェ姿のユリアスが、くやしそうな顔で涙を流していました。


を攫ってきて暴行を働くとは! キモヲタ殺す、マジ殺す! 今殺す!」


 下着姿のセリアが刀の柄に手を掛けていました。


「いやいやいやいや! 我輩、ただ女将に【足ツボ治癒】をしていただけでござる! なんで皆、そんなに殺気だってござるか!?」


 女性陣全員が一斉に、ベッドの上に倒れているサリサを指さしました。


「その女の人! いったいどこから攫ってきたの?」※キーラ

「オークの本性を現したわね!」※エルミアナ

「さすがに人さらいはマズイです、キモヲタ様!」※ユリアス

「キモヲタ殺す! マジ殺す!」※セリア


 どうやら彼女たちは、ベッドにいるのがサリサだと分かっていないようでした。


「はぁ!? これは女将でござる! 我輩はただこのババアに【足ツボ治癒】をしてやっていただけでござるよ!」


「はぁ!? これが女将さんなわけないでしょ! 女将さんはもっとお年を召した……」


 キーラが途中で言葉を呑み込みました。


 そしてマジマジとベッドで眠っている女性を見つめます。


「わっ! これ女将さんだ!」


 キーラの言葉を聞いて、エルミアナ、ユリアス、セリアが一斉に驚きの声を上げました。


「「「ええぇ!?」」」


 キーラ達が驚いたのも無理はありません。ベッドの上に眠っているサリアは、白髪交じりだった髪は、つやつやの赤髪に変わっていたのです。


 それだけではありません。たるんでいた肌にハリが戻り、ツヤツヤプルプルになっていました。弛み始めていた胸にハリと弾力が戻り、20代の女性と見紛うほどに若返っていたのです。


 キモヲタの必死の――必死で殺す気の――強烈な【足ツボ治癒】が、サリサの全身の細胞を完全にリフレッシュさせてしまったのでした。


 真っ先に事情を察したキモヲタは、さも知ったような顔をしてサリサの若返りを説明しました。これで皆の誤解も解けて、賞賛を受けること間違いなしと確信を持って説明しました。


「恐らく我輩の【足ツボ治癒】で、体中のあらゆる場所から疲れが取り除かれた結果、この女将本来の若さと健康状態を取り戻したのでござろう」

 

 ヴィィイイン! ヴィィイイン! ヴィィイイン! ヴィィイイン! ヴィィイイン! 


 しかしキモヲタの会心の説明も、サリサの右手でうねうねと動くぐりぐりぐり太くんが、完全に台無しにするのでした。

 

 皆のジト目が一身に注がれる中、キモヲタは静かにベッドを降りて、サリサからぐりぐりぐり太くんを取り上げると、そっとスイッチをオフにしたのでした。


「まぁ、まずはお片付けでござるな……」


 そう言うと、キモヲタはぐりぐりぐり太くんを箱にしまい込みました。


 その後、エルミアナとセリアとキーラが、眠っているサリサを彼女の部屋に運んで、その身体を綺麗に拭って着替えをさせました。キモヲタとユリアスは汚れてしまったベッドとシーツの後始末を行いました。


 そして一通りのお片付けが終わると、キモヲタは床の上にそっと正座して、自分を見下ろす女性陣に囲まれるのでした。


 いくら【足ツボ治癒】をしていたと言い張ったところで、女将が自分の部屋のベッドの上にいたという状況だったのは事実。


 もちろん、最初から説明すればキモヲタに何ら非がないことは明らかになるはずです。しかし、前世から数えてこれまでの経験上、こうした事態では、まず自分がズタボロにされた上でないと、誰も話を聞きゃしないということを、キモヲタは確信していたのです。


(幸いなことに、今の我輩には自分自身をも癒すことができる【足ツボ治癒】があるでござる。痛いのは最初だけ。まずは皆にボコボコにされた後で、話を聞いてもらうことにするでござるよ)


 そう覚悟を決めたキモヲタは正座したままで、改めて自分を取り囲む女性陣たちを見上げました。


(まぁ、こうして下から乳袋が拝めたことだけは……うん。悪くなかったでござるよな)


「キモヲタ……」※キーラ

「キモヲタ殿……」※エルミアナ

「キモヲタ様……」※ユリアス

「キモヲタ……」※セリア


 全員から睨みつけられたキモヲタは、自分の運命を受け入れる覚悟を決めました。


(美女に殴られたり足蹴にされるのは、ご褒美でござる! いくら痛くても辛くてもご褒美なのでござるよ!)


 これからくる衝撃に備えて、ギュッと目を瞑ったキモヲタ。


 そして、次の瞬間――


「キモヲタ凄い! 女将さんを若返らせちゃった!」※キーラ

「素晴らしいです! 女性の美しさまで復活させるなんて」※エルミアナ

「キモヲタ様はやっぱり素敵な御方でした!」※ユリアス

「見直したわ! ちょっとだけね!」※セリア


 縮こまっていたキモヲタの背中を、女性人たちが優しく撫でたり、揺すったりしながら、嬉しそうな声を上げてキモヲタを褒め称えるのでした。


「えっ!? えっ!? えっ!? えっ!?」


 女性陣の予想外の反応に、戸惑いを隠せないキモヲタだったのでした。

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