第69話 ピンクのふにふにが……見つかってしもたでござる!

 結局、トゥチョ=トゥチョ族の村を出発したのは、ウドゥンキラーナとの和解の日から一週間後のことでした。


 その間、カレーやビーフカルパスを村人たちに気前よく振る舞ったことから、村を出る時には大半がなくなっていました。


 それでも、村人たちから送られた食材や道具等で、村に着いたときと比べて倍の荷物になってしまっていました。


 これにはさすがにキンタにとって容量オーバーだったようで、村の出入り口に到着するまでにすでに疲れが見えていました。


「主たちには、我が愛し子たちがよう世話になった。これは妾からのささやかなお礼じゃ」


 そう言ってウドゥンキラーナがキンタの額にそっと手を添えました。すると淡い光がキンタを包み、その光がキンタの体に吸収されていきました。   


「んもぉぉぉおおお!!」


 先ほどまで足が小刻みに震えていたキンタが、急に元気になって鳴き声を上げました。ウドゥンキラーナの加護によって、キンタのステータスが倍化されたのでした。


「これでこのロバも、お主たちの荷物を余裕で運ぶことができるでありんす。あとこのロバには妾の加護が付与されておる故、他の魔神や竜には、これを連れているお主たちが妾と縁あるものと理解して良くしてくれる……かどうか分からんが、少なくとも悪いようにはせんでありんすよ」


 こうして、キモヲタ一行はトゥチョ=トゥチョ族の村を後にし、次の目的地であるカナン王国を目指すのでした。




~ 村を出て三日後 ~


「それで、どうしてまだ我輩たちについて来てござるか?」

 

 キモヲタたちが森の中の街道を北へ進む中、エルミアナやセリナと雑談しながら付いてきているウドゥンキラーナに、キモヲタが呆れて尋ねました。


「ん~、付いてくるもなにも、まだこの辺りは妾の領域でじゃからの。庭みたいなもんでありんす。主らが庭から出るまでは見送るでありんすよ」


「付いてくるにしても、普通に歩くことはできないでござるか? それ怖いのでござるよ!」


 ウドゥンキラーナは、村にいたときの姿で歩いてキモヲタたちについてきているわけではありませんでした。

 

 歩きながら目に入ってくる森の木々や藪、蔓や草が、突然ワラワラと蠢いて女性の形を取り、ウドゥンキラーナの声で話始めるのです。


 人間にはシミュラクラ現象として知られる、3つの点を見たときにそれを人の顔として認識してしまう脳の働きがあります。ウドゥンキラーナは、その現象を拡張した方法で、キモヲタたちに自分の姿を見せているのでした。


「森の中のどこみても、その顔が浮かんできそうで、とにかく怖いのでござる!」


「主はなんと酷いことを言うのじゃ。それは常に妾に見守られておるということじゃろうが、村を出てから森の危険な獣や魔獣に遭遇しておらんのは、誰のおかげじゃと思うておる」


「そうですよキモヲタ殿。ここが魔の森とも呼ばれていることを忘れていませんか? ウドゥンキラーナ様は、私たちを陰から見守ってくださっているのですよ」


 エルミアナがキモヲタを振り向いて、ウドゥンキラーナを擁護します。


「陰から守るなら、ずっと陰にいればいいのでござる」


「おやおや、もしや主は昨日のアレをまだ怒っておるのかえ?」


「ちょっ、おっ、それはっ!? 反則でござろうが!」


「お主が昨日、川に流したのはこのピンクかえ? それともこっちのピンクかえ?」


 そういってウドゥンキラーナは、手に持ったピンクのふにふにと柔らかいものを二つキモヲタに見せました。


「あっ! それは昨日、川に洗濯にいったときに流されてしまった『エルミアナたん』と『セリアたん』!」


 ウドゥンキラーナが手にしていたのは、アダルトなグッズ。箱のパッケージの絵がなんとなく当人に似ていることから、名前を付けた二つのピンクのふにふにでした。


「えっ!? ナニソレ! 何なのキモヲタ! 食べもの? 美味しいの?」


 キーラが興味津々で、ウドゥンキラーナの手にしているものに目を輝かせます。


「さて、妾は主がこれがどのようなものなのか、昨日の晩に見せてもろうておるのじゃが……どうじゃキモヲタよ。なんだか妾に跪きたくなったのではないかの?」


 秒速0.03秒でキモヲタはその場に土下座して、ウドゥンキラーナを称え始めました。


「麗しき森の女神ウドゥンキラーナ様、どうぞそのピンクのふにふにはそのまま川にお流しくださいますよう。伏してお願い申し上げますですのでござる」


「ねぇ! 何なの!? アレ何? キモヲタ教えて! ねぇねぇ!」


 ウドゥンキラーナは、ピンクのふにふにを手に取ろうとするキーラを制止ながら、キモヲタに答えました。


「くくく。その真摯な態度を忘れぬようにな。よかろう、このピンクのふにふには妾が責任を持って川底に沈めておこうぞ」


「ははぁ……ありがたき! ありがたき!」


 キモヲタの願いを聞き入れて、ウドゥンキラーナがピンクのふにふにを木々の中に隠してしまったため、キーラもそれ以上はキモヲタに詰め寄ることはありませんでした。


「ふぅ……危ないところだったでござる」


「何が危ないところだったのですか?」

「今すぐ殺す。マジ殺す」


 汗を拭って立ち上がったキモヲタの前には、エルミアナとセリアの恐ろしい形相がありました。


「あの怪しげなものに私たちの名前を付けていた理由を聞いても?」

「キモヲタ、今すぐ殺す。マジ殺す」


 真相を白状させられたキモヲタが、自分自身の命を救うために、自分自身に【足ツボ治癒】を行うまで、あと5分……。




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