第58話 毎度おなじみの~、山賊出現でござる

 森に入った街道を進むキモヲタたち。


 高い木々が日光を遮り、昼なお暗い道には人気もなく、ここ数日はすれ違う旅人や馬車もありませんでした。


 こういう場所では、山賊や魔物の出現に注意しなければなりません。


「全員止まりやがれ! 有り金を全部置いていってもらおうか!」


 まぁ注意したところで、出る時は出るものです。


 頭がモヒカン刈りの、獣皮のジャケットを着込んだ男が、キモヲタたち一行の前に踊り出てきました。


 同じような格好をした六人男たちが、街道脇の茂みから姿を現します。それぞれが手にしている色々な武器を見せつけながら、キモヲタたちを取り囲むのでした。


「おいおい、今日の俺たちはツイてるなぁ。色っぽい姉ちゃんたちが、三人も相手してくれるみたいだぜぇ!」


 男たちは、露出が多い服装のセリアたちを見て、ヒューっと口笛を吹き始めました。


「俺は、あのゴスロリメイドの女を頂くぜ! 大きな女は嫌いじゃない! あの黒いドレスを破って抑え込んでヒィヒィ言わせてやる!」 


 山賊の中で一番ガタイの大きな男が言いました。


「あの金髪のエルフは、オレが一番にやるからな! あの長い耳を舐めまわしてぇ」


 そう言って男は、長い舌を突き出して、エルミアナに見せつけます。


「わしゃ、あの黒髪のじゃ! あのヘソはわしのもんじゃ! 邪魔するやつは、頭かちわるからな!」


 ずんぐりとした男が、セリナを見つめて言いました。


 彼らの言葉を聞いたユリアスたちは顔をしかめて、山賊たちを睨み返します。


 ゴスロリメイドのユリアスが、クレイモアを手に取って大男の山賊にその大きな刃を見せつけました。


「この下衆が! お前になど私の身体に指一本触れさせるものか! 私に触れて良いのはキモヲタ様だけだ」

「さすがくっころ姫騎士でござる!」


 胸元が大きく開いたミニスカOLスーツのエルミアナが、舌の長い山賊に向けてレイピアを抜き放ちます。


「オー……キモヲタより気持ち悪い人間がいるなんてね」

「酷い! というかまたオークと言いかけたでござるな!」


 セリアは、腰にある刀の柄に手をかけて、ずんぐりした山賊に向かって言いました。


「キモヲタと同じその大きな腹回り、一撃で両断できるか一度試してみたかったの」

「怖い!そんなこと思ってたでござるか!?」


 体操服姿のキーラが自分を指差してジャンプしながら、山賊たちから声が掛かるのを待っていました。


「ねぇ、ボクは? ボクを襲うのは誰? ボクは誰をやっつければいいの?」


 ピョンピョン。


 ……自分を指差してジャンプしてアピールしていました。


「……」※山賊

「……」※山賊

「……」※山賊

「……お、おい……」※山賊

「……えっ、俺? 無理無理、うちの娘よりガキだぜ……」※山賊

「……」※山賊

「……」※山賊


 山賊たちはお互いに視線を交わした後、最初の山賊がコホンッと咳払いをしました。


 そして、


「おいおい、今日の俺たちはツイてるなぁ。たちが、相手してくれるみたいだぜぇ!」

 

 言い直しました。大事な部分では声量を倍にして言い直しました。


「えっ……」

 

 のけ者にされたキーラが、今にも泣きそうな顔になって、キモヲタの方を振り返りました。


 それを見て、その場にいる全員の視線がキモヲタに向けられます。


 もちろん、キモヲタはその視線の意味を正しく理解し、皆の期待に応えることにしました。


 そっと手を上げて「なら我輩が……」と前置きしつつ、


「そこの犬耳美少女は、我輩が頂くでござるよ! 押し倒して耳をペロペロして、尻尾の付け根に鼻を押し付けて力一杯クンカクンカするでござる!」


 キーラの顔がパーッと明るい笑顔になりました。


「キモヲタありがと! 今日はちょっとだけボクノ尻尾を……その……許したげる!」


 はしゃぐキーラの姿を見た、ユリウスたちと山賊全員の顔にホッとした表情が浮かびました。


「ふぉおお! キーラたんに尻尾クンカクンカの許可を戴きましたぞぉおお!」


 はしゃいで奇妙な踊りを舞い始めたキモヲタに、キーラが真っ赤な顔になって言いました。


「ちょっとだけ! ちょっとだけだからねっ! あと舐めるのは絶対駄目!」


「ふぉおおお!」


 あまりのキモヲタの喜びように、山賊たちも思わず苦笑いを浮かべたところで、


「ハッ! ヒヤッ! フォッ! ヘアッ! ホアッ! アタッ! ヤッ!」


 キモヲタは踊りながら、山賊たちに向って【お尻かゆくな~る】を発動したのでした。


 ユリウスたちは、森の大木に必死でお尻を擦り付けている山賊たちの意識を刈り取った後、その身ぐるみを剥ぎました。


 金目の物は慰謝料に、服はその日の野営の焚火燃料になったのでした。


「そ、それじゃ約束だから……は、はい!」


 その日の夜、焚火の番をしていたキモヲタの下に体操服のキーラがやってきて、紺色の短パンのお尻をキモヲタに向けました。


「ふぁ!? 本当にいいのでござるか!?」


「や、約束だし、ちょっとだけ! ちょっとだけだからね! はいっ! 早くして!」


 短パンにはキーラの尻尾用に穴が開けられています。キーラはその付け根をキモヲタに向けてクィッと突き出しました。


「ふぉおおお! では遠慮なく頂きますでござる!」


 一瞬の躊躇もなく、キモヲタはキーラの尻尾の付け根に顔を近づけます。


 ぴとっ。


 キモヲタの鼻がキーラの尻尾の付け根に触れ、そこから肺一杯に息を吸い込もうとしたところで――


「はい終わり!」


 そう言ってキーラはキモヲタからバッと飛びのきました。その顔は焚火の灯りのせいなのか、真っ赤に火照っているように見えました。


 一瞬でお預けをくらったキモヲタでしたが、その一瞬でキモヲタは十分でした。


 それ以降、キモヲタは、鼻の先に残っていたキーラの尻尾の付け根の感触を思い出しては、一瞬で幸福な気分に浸ることができるようになったのでした。

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