第34話 シェンティ、それはこの異世界のパンティでござる!

 キモヲタとキーラが買い物を終えて宿に戻ると、宿の主人がキモヲタに声を掛けてきました。


「ついさっき、白バラ騎士団の騎士様たちがいらっしゃってな。アンタが戻ったら冒険者ギルドに顔を出して欲しいってさ」


「伝言ありがとうでござるよ」


 キモヲタは宿の主人に礼を言うと、そのままキーラと一緒に部屋へ戻りました。


「帰って来たばかりでお疲れでござろう。我輩はこれから冒険者ギルドに行ってくるでござるが、キーラ殿はお休みになられるとよいですぞ」


「全然疲れてないし、ボクもギルドに行くよ! でも服を着替えるから、キモヲタはちょっと外で待ってて!」


 そう言って、キーラはキモヲタを部屋の外に追い出すと、先ほど買ってもらったばかりの冒険者服に着替えるのでした。


 ドアの外にポツンと残されたキモヲタが、ブツブツつぶやきます。


「別に我輩が後ろを向いていればよいでござろうに、何も外に追い出さなくても……」


「それは駄目! キモイ! 生理的に無理!」


 犬耳族の聴力でキモヲタのつぶやきを聞きつけたキーラが、ドア越しに返事を返してきました。


「ひ、酷いでござる……」


 キーラの言葉がナイフのように突き刺さり、がっくりとうなだれるキモヲタ。


 とはいえ、キーラの声には、キモヲタに対する濃度高めの好感度成分が含まれていました。しかしそこはキモヲタ。キーラのウキウキして楽しそうな声の調子に微塵も気づくことなく、ただ言葉の額面通りに受け取ってしまいます。


 バンッ!


 と、キーラが扉を開いて部屋から飛び出てきました。


 そのまま空中でくるりと一回転して、スッと地面に着地すると、キーラのマントとスカートがフワッと舞い上がり、その後ゆっくりと降りて行きます。


「キモヲタ! この新しい服どうかな? ……って、どうしたのキモヲタ!?」


 キモヲタは地面にorzしていました。


「ひ、酷いでござる……キーラタソ、余りにも酷い仕打ちでござる……」

 

 泣きながら床を拳を叩きつけるキモヲタ見たキーラは、さきほど口にした言葉を思い出し、自分がキモヲタを傷つけてしまったことに気がついたのでした。


「キモヲタ、ごめん! ごめんね! さっきのは本気じゃないっていうか……その……」


「どうしてスカートの下に短パンを履いてござるかあぁ! 何のために市場で白のシェンティを買ったでござるかぁ!」


 ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ! 


 キーラから沢山のご褒美をいただいたキモヲタでした。


 ちなみにシェンティは、この大陸で一般的な女性の下着のこと。未来で生み出されるパンティの原型のようなものです。もちろん、パンティと同じく見られると恥ずかしいものでした。


 ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ! 




~ 冒険者ギルド ~


「キモヲタ様! 敵の襲撃にでもあったのですか!?」


 冒険者ギルドで合流したユリアスが、顔を腫れあがらせたキモヲタに見て、狼狽えながら声を掛けました。


「大丈夫でござる……ちょっと転んだだけでござるから」


「転んだだけで、そのようなお怪我をされるはずが……」


 なおも食い下がってくるユリアスを、キモヲタは手で制止します。


「これくらい治癒で簡単に治せますから、それより今日は我輩にどのようなご用事で? 出発は週明けと聞いておりましたが」


 キモヲタが治癒能力を持っていたことを思い出したユリアスは、落ち着きを取り戻して、自分の隣にいる女性をキモヲタに紹介することにしました。


「本日は、探索に同行する私の部下を、キモヲタ殿に紹介しておきたいと思いまして! 彼女がそうです」


 ユリアスの隣に立っている女性が、キモヲタにペコリと頭を下げました。


「はじめまして、キモヲタ様。私はセリア・アルトワイズと申します。この度は、私達の任務にご協力いただけるとのこと、心より感謝いたします」


「どどどどどうも、わ、我輩、キ、キモヲタと申します、けけけけケチな転移者てんいものでござる」


 相変わらず、美人を目の前にするとテンパってしまうキモヲタなのでした。


 セリアと名乗る女性は、東方の出身を感じさせる細い身体と整った目鼻立ち、真っ直ぐに伸びた長い黒髪の持ち主でした。その濃密な髪は白磁のような肌を引き立てています。


 その凜とした佇まいからは知的な雰囲気が滲み出ており、切れ長の瞳には強い意志が宿っているのをキモヲタは見て取りました。


 しばらくセリアの瞳を見ていたキモヲタが、突然大きな声を上げます。


「こ、この人、目が燃えてござるよ!?」


 キモヲタの言う通り、セリアの瞳には青い色の炎が宿っていました。それは言葉通り、青く揺らめく焔。


 驚いたのはキモヲタだけではありません。キーラも、セリアの目に宿る青い炎を見て怯え、先程まで足蹴にしていたキモヲタにしがみつくのでした。


 怯える二人に対して、ユリアスがセリアの目について説明を始めました。


「彼女は古大陸の出身でして、彼の大陸において魔法剣士というのは、その技を極める過程で、このような焔を宿すことがあるそうなのです。決して魔族ではございませんので、誤解のなきようお願いします」


 ユリアスが説明を終えると、セリアはキモヲタとキーラに向って静かに頭を下げました。


「驚かせてしまってごめんなさい」


 その綺麗なお辞儀の所作に、前世のアニメで見た黒髪清楚委員長系美少女の姿を重ねたキモヲタ。さきほどまでの怯えはどこえやら、自分の胸がトゥンクとときめくのを感じていたのでした。




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