第11話 魔族捕虜収容所
キモヲタたちを乗せた馬車が収容所の中へと入って行きました。
収容所と言っても、平地の上に檻が並べられただけの簡素な造りです。数多ある檻の中には、魔族軍の捕虜たちが閉じ込められていました。
収容所のある平地の三方は高い崖で囲まれており、崖の上には監視の為の砦が立っています。もし翼を持った魔族が飛んで逃げようとしても、あるいは捕虜たちが暴動を起こしたとしても、この砦から雨の様に矢が注がることになるのです。
キモヲタたちの乗った馬車が収容所で停止しました。その後、一人ひとり馬車から降ろされて、それぞれ個別の檻へ移されました。
キモヲタは、まるで自分が保健所に入れられた野良犬になったように感じていました。移送中も檻の中でも、自分が人間であることやユリアス隊長への取次を訴え続けましたが、収容所の人間の誰一人としてキモヲタの言い分に耳を傾ける者はいませんでした。
しかし、キモヲタ本人はそれほど悲観はしていませんでした。檻の外を歩く収容所の人々を見ながら、
「ま、まぁ、これでも良いでござる。きっとユリアス殿が気がついて、我輩を助けに来てくれるはずですからな。その時になったら、ヒラ謝りするこいつらにザマァしてやるでござるよ。フカヌポー」
そう言って、キモヲタは狭い檻のなかに寝そべってリラックスタイムに入るのでした。狭い檻でしたが、キモヲタは前世ではプロのヒキニーターだったため、まったく気になりません。
幸いなことに左右の隣の檻には、狼獣人ロボと、同じ移送馬車に乗っていたオーガの少年だったので、彼らとの会話で退屈を紛らわせることができました。
キモヲタたちはお互いの境遇を話し合ったり、彼らから魔族語を習ったりして時間を過ごしました。
ところが数日もすれば来てくれると思っていたユリアスは、一週間たっても姿を見せませんでした。さすがにキモヲタも、ユリアスが自分を見捨てたのではないかと不安になってきます。
「お、おかしいでござる……もしかしてユリアス殿は、我輩のことを忘れてしまったのでござろうか……」
キモヲタの予想とは違い、ユリアス本人はキモヲタのことを忘れてはいませんでした。ただキモヲタが不安を感じ始めていたころ、ユリアスはカリヤット南方の戦場にいて、魔族軍とあいだで激しい戦闘を繰り広げている最中だったのです。
仲間たちの遺体を回収に向ったユリアスは、迎撃隊を率いてキモヲタと出会った場所へ戻った後、再び魔族軍と遭遇。
一進一退の激しい戦いを続けているうちに、とうとう魔族軍と人類軍が今まさに激突している戦場へと踏み込んでしまいました。
そのまま人類軍と合流することになったユリアスたちは、それからずっと戦場で足止めをくらっていたのです。
人類軍の陣営で休むユリアスは、夜空に浮かぶ二つの月を見ながらキモヲタのことを考えていました。
「あぁ、今頃キモヲタ殿はどうしているだろうか。エルフリーデは『きちんと部下に任せていますから』と言っていたが……」
それと同じころ、キモヲタも夜空の月を見ながらユリアスのことを考えていました。
「クッコロ……やはりユリアス殿のクッコロは捨てがたいでござる……」
相思相愛の二人なのでした。
~ 収容所生活 ~
キモヲタが収容所に入って二週間も過ぎるころには、キモヲタも簡単な魔族語の日常会話が話せるようになっていました。
何せ一日中、話すことくらいしかやることがないこともあって、かなりのスピードでキモヲタは魔族後を習得していったのです。
もしかすると異世界チート能力の働きによるものだったのかもしれませんが、なんであれキモヲタは綿が水を吸い込むように魔族語をマスターしていきました。
さらに退屈しのぎで、周囲の檻仲間に、妖怪と人間が仲良くする系のアニメの話を聞かせているうちに、魔族捕虜たちのあいだでキモヲタに対する評価がストップ高。おそらくこの時代、この大陸において、魔族が人間に対して持ちうる最高の好感度を獲得していました。
特に狼王ロボとオーガの少年シンクローニとは、お互い軽口を叩けるくらい仲良くなっていました。
「なぁ、キモヲタ。もう一回、あのフルーティーマスカットの話を聞かせてくれよ。そんな健気な人間の女の子なんて本当にいるのかよ」
「だからアニメの話だと言ってござろうが!」
「僕は冬目友人帳がいいな!」
「お主らときたら、ものごっつい面してるくせにセンチメンタルなお話が好き何でござるな!」
「うっせぇ! お前に言われたかねー!」
キモヲタは彼らとの話から、現在のこの世界の大陸の状況について、かなりのことを知ることができました。
「なるほど、あの空の裂け目はこの異世界においても異様なものだったのですな」
そう言って見上げる異世界の空には、黒い裂け目が浮かんでいました。それは、この世界で見える二つの月よりも、やや大きい程度のものでした。
自分のいる場所から空の裂け目までどの程度の距離があるのか、キモヲタには測りようがありません。ですがそれでも、その裂け目がとてつもなく巨大なものであることだけは分かりました。
人類軍と魔族軍の戦争については、魔族軍をまとめていた帝国の皇帝が倒されてしまったために、魔族軍は混乱状態に陥っており、多くの人々が人類軍の勝利は時間の問題だと考えているようでした。
狼王ロボは言います。
「あの邪悪な皇帝が倒されたのは俺たち魔族にとっても朗報ではあるんだ。大陸のどこかにいる魔王様を立てることさえできれば、まだまだ逆転のチャンスはあるんだがなぁ」
その言葉を受けてオーガの少年シンクローニが言いました。
「そうだよ! 本当の魔王様が王の指輪を掲げれば、今は中立を保っている魔族たちだってひとつにまとまることができる! そうすりゃ人類軍なんてあっという間に蹴散らせるんだ!」
これまで人間からはオーク扱いされてきたキモヲタは、囚われた魔族たちとずっと一緒に過ごしてきたこともあって、魔族たちに同情的な気持ちを抱くようになっていました。
キモヲタは二人の話にうんうんと頷いて同意を示した後、気になっていたことを尋ねました。
「と、ところでロボ氏、ラミア族には美しい女性しかいないということでしたが、それは本当でござるか? デュフコポー」
その関心の大半はモンスター娘のことでした。
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