キモヲタ男爵奮戦記 ~ 天使にもらったチートなスキルで成り上がる……はずだったでござるよトホホ ~

帝国妖異対策局

第1話 転移直後のヒーロームーブでござる!

 とある森の奥深く。


 エルフの女剣士が大木にもたれかかり、疲れ切った表情で荒い息をついていました。


 オークの一団が、彼女を取り囲んでじりじりとその包囲を狭めます。


 エルフの金色の髪は千々ちぢに乱れ、白い肌にはいくつもの傷が刻まれ、そこから血が流れ出ていました。


「はぁ……はぁ……み、みんなは……無事かしら……」


 近づくオークにレイピアを向けて威嚇しながら、彼女は冒険者パーティの仲間のことを心配していました。


「ブヒッ! ブブブブヒッ!」


 ついに獲物を追い詰めたと確信したオークたちはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、下卑た声をあげながらエルフへとにじり寄ります。


『オークは捕虜にした他種族の雌を凌辱りょうじょくしてから喰らう』


 これは冒険者にとって常識として知られていることでした。


 オークに襲われた犠牲者たちを見たことがあるエルフは、それが自分に降りかかる前に自死するか戦いのなかで死ぬかの決断をしようとしていました。


 そして彼女が選んだのは、自分の舌を噛み切って最期まで戦いに身を投じるというものでした。


 オークたちを睨みつける彼女の口から、真っ赤な血が溢れ出てきます。


 これまでに何度もエルフを襲ってきたオークたちは、いま彼女が何をしたのかを察知して一斉に襲い掛かりました。


 エルフの女性が人生最後の戦いに臨むために、レイピアを構えてオークたちに突進します。ですが多くの血が失われていた身体は重く、普段なら軽くかわせていたオークの棍棒をまともに喰らってしまいました。


「ぐはっ!?」


 大量の血を吐きながら、彼女は地面に倒れ込んでしまいます。


(あぁ、ここで私は終わってしまうのか。オークにこの身体をけがされても、祖たるエレンディアは私を迎えてくれるだろうか)


 伸し掛かってくるオークの醜く歪んだ顔を睨みつつ、エルフはついに訪れる死を覚悟するのでした。


 彼女に跨ったオークが興奮した声を上げながら、その服を乱暴に引き剝がします。


「グブブッ! グビグブブブブッ!」


 幸いなことにエルフの意識は薄れつつあり、痛みの感覚も鈍くなってきていました。


 そしてついに彼女の瞳から光が失われようとした、


 そのとき――


 ピカァァァァァァァ!


 突然、目の前に大きな光の球が現れました。


 ぼんやりとした意識の中で、エルフはその光の球を見ていました。


 プシュー!


 蒸気が吹き出すような音とともに光が消失すると、そこにあったのは真っ白な肉塊。


「なんだオークだったか……」


 その肉塊を白いオークだと思ったエルフは、そのまま意識をまどろみの中へと沈めていくのでした。


 しかしオークたちといえば、肉塊に対して油断なく警戒していました。何故ならその白い塊は、仲間でもオークでもなかったからです。


 白い塊がヌボッと立ち上がると、何やらブツブツと音を発しはじめました。


 その音はオークの言葉でも豚の泣き声でもありませんでした。


「ククククッ! 今まさに美少女がモンスターに襲われている場面に転移させるとは、あの天使様もよくわかっておられるようでござるな! デュフコポー」


 白い塊と見えたそれはオークでも豚でもありませんでした。


 たった今、女神ラーナリアの導きによって異世界ドラヴィルダに転移した日本人だったのです。


 フルチンの日本人だったのです。


「グギギギッ! グギッ! グギギッ!」


 エルフに群がっていたオークたちが、いきなり現れた不審者に警戒心を剥き出しにして威嚇してきました。


「グフフフ。このキモヲタ、すでにチートスキルの使い方は完璧にマスターしておりますからな。お主らごとき雑兵、我輩の指先ひとつでダウンですぞ!」


 オークたちが、敵愾心てきがいしんを剥き出しにしてキモヲタに襲い掛って行きます。


 それに対してキモヲタは、奇妙な掛け声を上げながらオークたちを指さしていくのでした。


「アチョ! ホチョ! ハッ! ヒッ! ワタ!」


 するとどうしたことでしょう! 


 キモヲタに指でさされたオークたちが、次々と地面に倒れ込んで悶絶し始めたのです。


「ぐふふ! 我輩にはお主たちの言葉は分からぬでござるが、お主たちが何を言っているかは分かるでござるぞ!」


 両手を腰にあててふんぞり返ったキモヲタは、オークたちを見下ろして言いました。


 フルチンで言い放ちました。


「お前たちはこう言っているのでござろう?」


 キモヲタは両手で頭を抱き込むような奇妙なポーズを取ります。

 

 フルチンでポーズを取ります。


 さらにキモヲタはオークたちに向かってポンとお尻を突き出すと、


「お尻かいぃぃぃぃのぉぉぉぉぉ!」


 と大きな声を張り上げました。


 そしてオークたちをドォンと指をさしながら、


「だ!」


 と、フルチンでフィニッシュポーズを決めるのでした。


 オークたちといえば、もはやキモヲタのことなど眼中になく、ひたすらお尻の痒さに苦しめられていました。


 地面にお尻を擦りつける者。大木にお尻を擦りつける者。二人でお互いにお尻を擦りつける者。棍棒で必死にお尻を掻こうとする者――


 とにかくお尻が痒くて、それを解消すること以外に何も考えられないようでした。


「この隙に美少女を救出して感謝されて、そのままただならぬ関係に陥って、あわよくば我がハーレムのメンバーに……げふんげふん……お友達になるのが異世界の定番ですな!」


 ブツブツとつぶやきながら、倒れている女性に近づくキモヲタ。しかしその足は途中で止まってしまいました。


 倒れていた女性は衣服を乱暴に破かれ、口から吐き出された大量の血によって顎から首元まで真っ赤に染まっていました。元々は美しかったであろうその姿は、いまや見るも無残なものとなっていたのです。


 ブチンッ!


 頭の中で何かがキレる音を聞いたキモヲタ。


 女性の傍らに転がっていたオークの棍棒を手にとると、お尻の痒さに悶絶しているオークたちに向って歩き出しました。


 そして――


 ドゴンッ! ボカンッ! ガコンッ! ガンッ!


 オークたちの頭に強烈な棍棒の一撃を叩き込んで回ったのです。


 すべてのオークに止めを刺した後、キモヲタは再び女性の下へと近づいていきました。


「エッ、エルフ!?」


 倒れている女性がエルフであることに気がついたキモヲタ。彼女の胸が微かに上下していることに気がつきました。


「まだ生きてる! 生きていたでござるか!」


 キモヲタは大きなお腹をタプンタプンと揺らしながら、あわててエルフの傍らに駆け寄ります。


「良かったでござる! まだ命が失われていないのであれば、我輩のチートスキルが通じるでござるよ!」


 キモヲタはエルフの足元に座り込み、彼女の足裏を丁寧にマッサージし始めました。


「スキル【足ツボ治癒】!」


 キモヲタが叫ぶとその両手から優しくて暖かな緑の光が広がり、それがエルフ女性の全身に広がっていくのでした。




※天使の資料1

【お尻かゆくなーる】

・お尻に猛烈なかゆみが生じ、お尻を掻くこと以外何も考えられなくなる。効果は使用者の念の込め具合によって異なるが、およそ1時間から24時間継続する。


【惑星ドラヴィルダ映像館】

・物語の舞台や登場人物の画像をこちらでご覧いただけます。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861519102524/episodes/16818093076393910874


※面白いとか続きが気になるとか思っていただけましたら、ぜひ★レビューをお願いします。

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