第3話 細部へのこだわり

粟井潤はその朝、例によって倉庫に早く到着した。朝の一番の空気は、彼にとって一日の準備を整える大切な時だった。今日は特別なプロジェクトが彼を待っていた。倉庫の一角に積まれた大きな木製のパネルを裁断する仕事で、これは通常の紙やシールを扱う仕事よりも遥かに複雑で、精度が要求された。


プロジェクトの指示を一読し、潤は深く息を吸った。木材の裁断は彼の専門外だが、誰もが知っているように、彼の手にかかればどんな材料も精密に扱うことができる。彼は慎重にノコギリをセットし、木目を確認しながら、裁断ラインに目を凝らした。この仕事には、完璧な集中が求められた。


裁断作業が始まると、潤の周りは木の削りくずで少しずつ覆われていった。彼はそれぞれのカットに全神経を集中させ、一切の誤差も許されない精密作業を進めた。時間が経つにつれて、彼の周りには形が整ったパネルが積み上げられていった。一つ一つが芸術品のように美しかった。


昼休み、彼はふとした疲労を感じながらも、達成感に満ちていた。彼のウェブサイトにログインし、今日のプロジェクトについて書き記すことにした。彼は裁断の技術だけでなく、新しい挑戦への自分の心構えについても綴った。彼の書く言葉は、自分自身に対する確認でもあり、未来の誰かへのアドバイスでもあった。


午後になり、作業は最終段階に入った。潤は最後のパネルを慎重に裁断し、全ての作業が完了したことを確認した。彼の精密な仕事ぶりに、たまたま倉庫に来ていた取引先の代表から感謝の言葉が述べられた。彼らにとって、潤の仕事は単なる裁断以上のものだった。それは信頼と品質の証だった。


夕方、潤は倉庫を後にした。今日の仕事が彼にとってただの一歩であったとしても、それは自己成長の道の重要な一歩だった。彼は自分が取り組んだ細部へのこだわりが、大きな違いを生むことを知っていた。影で支える彼のスタイルは、今日もまた、彼自身の美学を高め、他人の期待を超える結果をもたらしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る