呪いじゃなくて神の加護!?世界を救った残りの人生は好きに生きろと言われたので、一目惚れした人と幸せな家庭を築きたいので国盗りします!~女神様は無限ループしてるけど廃ゲーマーだから逆に燃えています!?~

穴の空いた靴下

第一話 生まれた罪

 どうしてこんな事になったんだ……


 失われようとしていく意識が、激しい頭痛とともに引きずり起こされる。


 もう、止めてくれ。


 腕や足は燃やされているような痛み、筋肉が弾け飛ぶほどの力を強制的に引き出されている。


 痛い、痛い、痛い。


 肺や心臓はすでに限界を超えており、呼吸をするだけでも、ただソコで存在しているだけで苦痛を与えてくる。


 苦しい、苦しい、苦しい。


 眼の前の魔物の首が飛ぶと、短剣が魔物の魔力を吸い上げる。

 気持ちが悪い。満タンになった魔力の器に無理やり魔力を詰め込まれているようで吐き気が止まらない。満たされているはずなのに、飢えが止まらない……


 首飾りが魔力を飲み込み、傷ついた身体を癒やしてしまう。

 膨大な魔力が一気に吸われるのは詰め込まれるのとは別の苦痛を伴う。

 ボロボロの筋肉が、骨が、心肺機能が、無理矢理に癒やされてしまう。


 もう、止めてくれ。


 魔物は眼の前にいくらでもいる。

 腕輪が鈍く光ると、身体は自分の意志と関係なく周囲の魔物を次の目標と定めて襲いかかってしまう。


 お願いだ。俺を、殺してくれ。


 魔物に懇願する俺の意識とは裏腹に、肉体は暴力的な力を振るって魔物に襲いかかっていく。

 手に持つ短剣と禍々しい杖を振りかざし、滅茶苦茶な攻撃、魔法で魔物を討ち滅ぼしていく。

 そして、また魔力と生命を吸い取って俺を動かす原動力としている。

 休息を求めて強制終了する意識は無理やりに引きずり戻される。

 強大な魔法を行使できる代わりに睡眠することが出来なくなり、使用者の精神が破壊するまで止まることのない呪具 不眠の叡智。

 倒した相手の魔力と生命力を奪い自らの糧にするが、猛烈な飢餓感が使用者を襲い決して満たされることはない、底抜けの欲望。

 魔力が存在する限り使用者の傷を癒やし続けるが、その苦痛は死に値する、絶命の回復。

 魔法の威力を爆発的に高める代わりに魔力を毎回根こそぎ奪いとる、使い捨ての大砲。

 周囲の存在を敵とみなし、狂ったように戦い続ける。感覚が鋭敏になり、かすり傷一つでも身体を粉砕されたような痛みに襲われる、破壊の代償。

 どれも超級と呼ばれる呪具だ。

 一つでも使用すれば使用者はあっという間に発狂して死ぬ。

 では、なぜ今俺はこうして戦っているのか……

 それは、俺自身が生まれながらに呪われた呪人間だからだ。


 呪い人形。


 俺の呪いにつけられた名前だ。

 周囲の幸運を奪い取り、不幸を巻き散らかす代わりに、呪具への強い耐性を持つ。

 耐性を持つと言っても立派なものではない、どんな呪具の力によって即死しない。

 ただそれだけだ。

 しかし、その力に目をつけた各国の王は、俺に各国最高の呪具をつけ、そして、大災害カタストロフィに放り込み、彼らの生存権を守ろうとした。

 その目論見は大成功だった。

 現在、俺が行っている、行わされていることは、間違いなく滅びる運命だった世界を救っている。


 大災害、世界最大の迷宮 悪魔の深淵で起きた魔物の氾濫、いや、大氾濫。


 戦争中だった国も含めて、全ての人種が協力して世界崩壊を食い止めるために力を合わせることになったその事件。

 無限とも感じられる魔物に対して、人種は必死に抵抗するも、時間とともにその力は削られていた。


 追い詰められた人種たちが選んだことは、呪具による人間の使い捨てによる戦略兵器の運用だった。


 呪人間。


 なぜか人間種にのみ現れる呪われた人間は、呪具を使うことができる。

 世界にとってなんの意味もなく人の命を奪う呪具を、人種のために用いることができる、そして、人種にとって忌むべき存在でしか無い呪人間を、人種を救うために使うことができる。

 普通の人種にとって、一石二鳥、いや、三鳥の案はすぐに採用された。

 低レベルな呪具を使っても戦況を変えるほどの成果を生んだ。

 もっと、もっと、どんどんと使われる呪具が強力になっていく。

 呪人間にもレベルがある。

 使える呪具のランクは周囲を不幸にする力が強ければ強いほど高くなる。


 ……俺は、呪人間の中の呪人間とも呼べる存在だった……


 どんな呪具をつけて戦場に放り込まれても、生きて帰ってしまう。

 幾度もの死線を超えても、俺という呪人間の処分は出来なかった。


 大氾濫から30年、迷宮深部の魔物が溢れるようになって、状況が変わった。

 そんじょそこらの呪具では魔物に対応できなくなってしまったのだ。


 そして、俺が選ばれた。

 根本的な解決のために、各人種の王が持つ最高の呪具を身に付けさせられ、悪魔の深淵に撃ち込まれたのだ。本当に、砲塔に入れられ撃ち込まれた……


 それから、気が狂いそうな時間、俺は戦い続けている。

 いや、すでに、気は狂っていると思う。何度狂ったかわからない。

 ただ、その壊れた精神さえも、無理やり治療され、また壊れるために直される。

 憎らしいほど完璧に直してくれるので、身を粉にして轢き潰されるかのような痛みも何度でも敏感に感じることが出来る。肉体的な苦痛も精神的な苦痛も、何度も何度も何度も、毎回新鮮な刺激として、俺の心と精神と、体と身体を破壊してくれる。

 世界のことなんて、考えられない、1秒後に襲い来る苦痛しか俺の頭にはない。

 いつまで続くんだろう……

 お願いだから、どうか、俺を、殺してください。


 その願いは、ついに叶うことはなかった。


 自分の意志と関係なく、魔物が溢れる迷宮の奥へ奥へと、遅々として進まない歩み、しかし、確実に深淵へと向かって、進んでいく……


 犬を殺す。

 子鬼を殺す。

 鳥を殺す。

 竜を殺す。

 獣人を殺す。

 死体を殺す。

 巨像を破壊する。

 大鬼を殺す。

 霊体を滅す。

 複合獣を殺す。

 魔人を殺す。

 龍を殺す。

 魔獣を殺す。

 石像を破壊する。

 動く鎧を破壊する。

 上級魔人も殺す。

 精鋭魔人も殺す。

 超級魔人も殺す。

 魔王も殺す。

 魔人も殺す。魔人も殺す。魔人も殺す。

 合成生物を殺す。

 闇を司る龍も殺す。

 断絶の門番も殺す。

 大魔王も殺す。

 魔神を殺す。

 大魔神も殺す。

 異界の手先も殺す。

 異界からの侵略者も殺す。

 異界への扉を護る存在も消し去る。

 世界を司る一柱の存在を取り込む。


 全ての呪いは俺となり、全ての経験が今、止まっていた俺の身体に流れ込む。


 大災害の終焉。


 外界ではすでに500年の時が流れていた。

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