非日常で繰り広げられる強烈な体験。

〈マンション・瞑の部屋〉


――廃工場を後にした俺達二人は、チラチラと雪が舞う寒空の下、寒い寒いと話ながら歩いた。


感動的なシーンは一瞬だけ。あの1ページを残し、一気に寒さにやられ、急いで帰路についたのだ。


【燈馬】

「ったくよ……寒いったらありゃしねぇや――」


――バサッ……。


【瞑】

「いや……寒いとか言っといて、真っ先にコート投げてるじゃないのよ?」


【燈馬】

「あぁ……重いんだよこのコート」


無駄に格好良くて、そしてなにより分厚いのだ。


俺には、こんな立派なコートを着たことは無かった。


いつも、安物のペラッペラな、コートを着ていたことを思い出す。


【瞑】

「確かにね……それに、重いと体調崩すしね?」


【燈馬】

「あぁ……そうだ。だから寒い時期は嫌なんだよ」


瞑のいう通り、寒い時期は着込むと具合悪くなりやすく、そして、着込まないと寒くて仕方がない。


二重の意味で苦行だった。


【燈馬】

「それで……? 来たはイイけど、どうするの?」


瞑は俺にナニかを伝えたくて、部屋まで呼んだのだろう。


それがナニカは分からないが、とりあえず聞くことにしていた。


【瞑】

「ふぅ……単刀直入に聞くわね?」


【燈馬】

「お……おう? どうした……?」


俺には思い当たる節があると言えばあった。


でも……あまり突っ込まれたくない内容で、少しだけ身構えていた。


【瞑】

「燈馬……アナタ――“月宮さんとヤッタ”よね?」


――ドキィイィ!! ドッドッドッドッ!!


【燈馬】

「あ……いや〜〜、その――えと……なんだ?」


俺の心臓はドッキドキを遥かに超え、バックバクだった。


申し訳無さに加え、聞きたくない話題が飛び出し、そのまま、心臓が飛び出しそうになっていた。


【瞑】

「誤魔化さないで……“正直に話してよ”――」


瞑は悲しそうな表情を浮かべていた。


だから俺は――。


【燈馬】

「ふぅ……悪かった。“月宮雅”と……“ヤッタ”」


どうせ、後でバレることだった。そう思った俺は、隠すことをやめ、正直に話した。


【瞑】

「やっぱり……それで? どうだったの月宮さん」


【燈馬】

「……いや? それ今聞くこと?」


俺はそう来るとは一切、思っていなかった。


メチャメチャ詰められて、怒られると思っていたのだ……。


しかし、話は違っていた。


【瞑】

「イイから答えて、“月宮さんはどうだった”の?」


瞑は物凄く真剣な目で俺を見据えた。


部屋の中は、エアコンのシャーーっと言う風の音だけが滞り、それ以外はまるで無音だった。


厭な緊張感が俺を襲っていた。


【燈馬】

「……怒らないでよ? なんか……“スンゴかった”」


語彙力が1ミリもない返答だが、それが今の俺に出来る100%の回答だった。


【瞑】

「へぇ……? “どんな風に”……?」


瞑はやたらソコを気になる様子だった。


スゥ……と、目を細め、薄ら嗤いを浮かべながら、俺の言葉を待つ。


【燈馬】

「そんなに気になるのか? 本当に怒らないでよ?」


念の為、俺は二回、同じことを言った。


こっから、修羅場に発展して、鋭利なナニかでヤラれても困るのだ……。


某、美少女ゲームの主人公みたいな末路はゴメンだった。


【瞑】

「いいよ、今のアナタに記憶は無いんだから……」


【燈馬】

「そうだな……うん」


【瞑】

「でも……もし、記憶があったら――“ヤッてるよ”」


ガンッ――ガタガタッ!!


俺はソファーに座りながら、ガタガタと震えていた。


非常に危なかった。本当にそんなゲームのような展開も、もしかしたらあったかもと……。


【燈馬】

「ふ――ふぅ……それじゃあ教えようか……」


【瞑】

「えぇ……うふふっ――教えて? た〜くさんね?」


瞑はなんだか、ニコニコしていた。


両手を自分の頬に当て、厭に思うほどニッコニコだった。


食事処で、たまに見るカップルの彼女。


彼氏が食べている姿を、今のような姿で愛おしそうに眺める、そんな彼女とは違うのだ。


今の瞑は……ちょっと異質で危険な香りがした。


なんと言うか……言葉を一つでもミスったら――。


一発バッドエンド。


そんな危険な状況だった。


【燈馬】

「っごっくっッ――ふ、ふぅ……なんか緊張するな」


【瞑】

「ほらぁ……怒らないから、早く喋ってよ……?」


瞑の部屋にはソファーが二つあって、テーブルがその境界線を作り出している。


テーブルの先にはニッコニコな瞑の姿――。


俺は緊張のあまり、脂汗を流しながら……。


【燈馬】

「い――いや、もう……そりゃ“バルンバルン”で……」


【瞑】

「ふぅ〜ん……? 月宮さん“胸が大きい”もんね?」


瞑はどこかピクピクする様子を見せた。


瞑は自分の胸が、まな板なことを、気にしているのだろうか……。


【燈馬】

「いや、そんなコトよりもだな……うん――」


【瞑】

「なに……? “そんなコトよりも”って――?」


瞑はスゥ……と、俺に体を近づけてきた。


色々と圧を感じ、俺は本当にビクビクし、ひたすらその恐怖に耐え続ける。


俺にとっては、さっきの喧嘩どころの騒ぎじゃなかった。


怖い――恐い――ひたすらそれだけが、全身を駆け巡って、体がドンドン冷えていく感覚に陥る。


それでも、俺は決死の覚悟で瞑に伝える。


【燈馬】

「……凄く――えと……その……あの……“激しいんだ”」


これがフィニッシュだった。


これが今の俺に言える限界地点だった……。


【瞑】

「そっかぁ……燈馬は、た〜くさん――“楽しんだ”んだね?」


【燈馬】

「う――うん……そ――そうかも知れない……」


コクリと頷いた俺はぎこちなく、瞑に伝えた。


すると、瞑は……。


カタッ――スッ……タッタッタッ……ピタッ――。


……シュリシュリっ――サワサワァ〜〜。


【瞑】

「そっか――“激しいのがお好み”なんだ……燈馬は」


【燈馬】

「うぐっ――い、いや……ど――どうでしょ?」


瞑は幽霊かと思うくらい、すぅ……と、俺の背後まで足を運び、後ろから絡み着いてきた。


サワサワと、小さな手で俺の体を弄って……。


【瞑】

「……それじゃ――“私も”……“激しくしてアゲル”」


【燈馬】

「ふ……ふぇえぇ〜〜〜〜っッ?!」


――こうして俺達は……また……“戦闘”を始めた。


そう――“色んな”……戦闘を。


〈瞑の部屋・明け方〉


――あれから……色々あった。


それはもう……“月宮雅とのアレよりも”もっと――。


ずっと激しく――ずっと熱く……そして……。


体力が本当にスッカラカンになるレベルの戦闘。


俺の体はもう、そんな戦闘でボロボロだった。


【瞑】

「ふふっ……“どうだった”? 燈馬――」


そんな瞑の問い掛けに俺は――。


【燈馬】

「“死ぬかと思った”……」


【瞑】

「なにそれ――ふふっ……別の返答はないの?」


【燈馬】

「いや……無いね……もう――動けない……よ」


【瞑】

「えぇ……? もうオシマイなの?」


【燈馬】

「あぁ……後は好きに俺の体で遊んでくれ……」


【瞑】

「うっふふっ――それじゃあ……“まだ遊ぶね”……?」


【燈馬】

「あぁ……」


俺達は異様な部屋の中にいた。色んなモノが散乱し、もうグッチャグチャの部屋の中。


そんな中で、元気なのは瞑だけだった。


俺は、瞑に全てを任せ……眠った。

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