なんの変哲もない日常と非日常。
〈夢の中?〉
――いつもの日常が広がってみえる。ここは夢の中なのか、なんなのかは分からない。
ただ……。
目の前に広がる光景は、なんの変哲もない自分、そう――四季司郎の日常そのものだった。
【司郎】
「ふぅ……そろそろ、働かないとな……」
暗い自室の中、ひとり、パソコンの前に座り呟く。
仕事が長続きした経験がない。頑張っても何故か上手くいかなくて、気がついたら無職になっていた。
そんな俺は、いつまでも更新されないWEB小説のページを眺めていた。
【司郎】
「はぁ……こりゃ、一生更新されないWEB小説だな」
WEB小説にはよくある話だ。追っていた作品がいつの間にか更新されず、一生続きが描かれない。
ほんっと、よくある話なのだ――。
【司郎】
「ストーリーや世界観は悪くないが、いつまで経っても更新されなきゃ、台無しだ」
WEB小説の中には、大人気や超人気ではない作品であっても、たまに掘り出し物みたいな作品もある。
そして、“騙される”のだ……高確率で。
【司郎】
「ったく――“失踪”しやがって……」
俺は作品をエタらせて更新しない作者の事を失踪と評していた。作者自身になにがあったのかは分からない。
仕事が忙しくなり、書けなくなりそのままフェードアウト。もしくは単に飽きて書くのをやめてしまったか、病気かなにかで本当に書けないのか……。
理由はなんであれ、WEB小説ってモノは完結まで行かない作品も大量にある。
【司郎】
「惜しいなホントに……せっかく面白くなって来そうなタイミングで失踪決め込むとは……」
ただ――俺自身も、たまにWEB小説を暇つぶし程度に書いていた。完結させられた作品もあれば、例に漏れず、エタらせて失踪決めた事だってある。
【司郎】
「まっ……人のことはなんも言えないな俺も」
どうして途中まで書いていたWEB小説を、急に更新しなくなって失踪を決め込むのか。
理由は人それぞれあって、詳しいことは当の本人意外、知れないことだ。
よくある事は見切り発車で書いたはいいが、途中で終わらせ方を見つけられず、そのまま放置パターンだろう。
【司郎】
「それでも、俺は続きが見たかったな……」
いつまでも更新されない未完のWEB小説。人気なんて無い、よくある無名作者の作品だ。
確かに人気は無い作品だった。でも俺はそんな作品を楽しみにしていた。
ススッ……ゴロゴロ……。
悲しい気持ちを感じながら、俺はマウスホイールを動かし、未完のWEB小説の最後の場面をただ、眺める。
【司郎】
「しっかし……“凄い場面”で飛びやがったものだな」
それはどんな場面だったかと言うと、作中に登場する主人公達に迷惑を掛ける悪役……。
そいつが“何者かにヤラれた”場面で終わるのだ。
【司郎】
「とんでもねえ場面で失踪すんなよ……お前……」
【司郎】
「エグいって、普通に……これでお別れかよ?」
俺は悲しみと同時に怒りまで沸いていた。確かにその作者の作品は人気は無い。
知名度の欠片もない本当に無名の作者の作品だ。
それでも……この世界で一人や二人くらいは、楽しみにしている読者もいるものだ。
――そんな限られた超少数な枠に俺もいた。
【司郎】
「はぁ……なんかイライラしてきた。タバコ吸って来るか……」
いつか更新される、そんな幻想など無いのだ。
エタったWEB小説は基本的に更新されること無く、無数に存在するWEB小説達に埋もれていく。
【司郎】
「寒いけど、外に出て吸うか……それに面倒だが、お湯沸かしてコーヒー入れて持って行こう」
家の中は禁煙になった。理由は俺が家の中でバカスカタバコを吸って、煙くて仕方がないらしい。
季節は冬、今日はチラチラと雪が落ちる予報だった。きっと外はキンキンに冷えて寒いだろう。
冬は寒くて嫌いだ。それでも、このイライラを抑えるために俺は外に出る。
〈家の玄関前〉
【司郎】
「ごがッ――やっぱり寒いな……クソ――」
外に出ると、雪がチラチラと落ちて舞っていた。
ヒューーっと、冷たい風が頬に当たり、痛くなる。
シュシュッ――カチッ……ボボッ――ボッ!!
ズボンのポケットからライターを取り出し、口に咥えたタバコに火を着ける。
【司郎】
「っ――すぅ……ふぅ〜〜」
風に煽られながらもタバコに火が宿り、冷たい外の空気と共に、ほろ苦いタバコの煙が肺に入る。
乾き、冷たい空気の中で吸うタバコは格別だった。
【司郎】
「はぁ……美味いな。心にも身にも染み渡るこの感じ、堪らない……」
いつもの安タバコだ。でも、今日は一段と美味しく感じられた。
【司郎】
「……ズズッ――ごくっ、ゴクッ――んっく」
そのまま俺は温かいコーヒーを飲みながら、外でタバコを楽しんでいた。
――しかし、そんな幸せな時間も、この時を堺に……。
終わりを遂げる。
【司郎】
「――さて、部屋にもど――?!」
ズギィイッッ!! ギュウゥウゥウゥ〜〜ッッ!!
突然、心臓に鋭い痛みが走ると、一気になにかで締めつけられるような感覚が襲ってくる。
ザザッ――ドンッッ!! バタッ――。
【司郎】
「ゴガッ――い……息が――心臓……ガッ――?!」
心臓に走る鋭い痛み、そして物凄い圧迫感――。
そんなものに襲われて、俺は玄関前で崩れ落ちた。
そのまま俺は――。
【司郎】
「し……ぬッ――アガッ――あぁ゙……ァ――――――」
ガクッ――。
死んだ。
〈小説の中?〉
――ギシッ……ギシッ――ギッギッギッ!!
ベッドが軋む音が聴こえてくる。体もなんだか寒く感じる。
ピチャ……ピチャッ――ポタッ……ポタッ……。
それに……なんの音なのか、水滴のような音も聴こえてくる。
【燈馬】
「……んんっ――?!」
そんな音に目を覚まされた俺は、本当に目を疑った。
【瞑】
「ごめんね……はぁ――“無理だった”」
【燈馬】
「ゔッ――いっ――うそ……だよね?」
現実世界で、しょうもない死を迎えたらしい俺。
そして……。
未完のWEB小説の中では、さらにあり得ないことが起きていた。
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