恋する乙女、野球漫画にハマる


 二年前、あるアニメを観てハマったものがある。何を隠そう、小話タイトルの通り、野球漫画である。

 野球のルールを学ぶ前に、気が急いて〈スコアと記録のつけ方〉という本を買ってしまったのはオタクあるあるだと思いたい。

 プロ野球も観るが住んでいる地域は球団の無い県なのでテレビ中継も少ない。それに野球漫画は高校野球を題材にすることが多い為、高校野球の方が好きなのだ。大会シーズンになると近場の球場へ嬉々として高校野球を観に行く。応援するのは始めのうちこそ母校だけだったが、観戦試合累計数が増えていくにつれ強豪校の虜となっていった。

 野球はいい。まだハマったばかりなので具体的にここが良いというのは上手く言えないが、女の私でも野球をしてみたくなる。それだけ選手達は楽しそうにプレイをするところが野球の魅力のうちの一つではないかと思う。

 思えば、初恋の相手も小学から高校まで野球をしていた。あれはなかなかどうして長い片想いだったなぁ。叶わなかったけれど。あの頃から野球にハマっていれば、高校は野球部のマネージャーにでもなっただろうか。あるいはもっと早いうちからだったなら、私自身も野球が出来たかもしれない。小学生の頃、少年野球チームの男子達が口を開けば野球野球、と言っていたのを思い出す。小学生かぁ。やり直せたら最高だけど、きっとやり直しても同じ人生を辿ることになるんだろうな。やり直しとはつまるところリセットするということ。それは多次元的存在であれば経験の持ち越しが出来るが、当事者からすれば記憶も経験も無い状態に元通りになるということ。それなら、同じ選択と行動を取るに決まっている。もしも記憶の持ち越しが出来れば────いや、有り得ないことを考えるのはむなしいだけだ。よそう。


 気分を上げたい時は、野球アニメに限る。

「キャーッ! カッコイイイイ……! 足速いっ」

 何度も観たアニメを何十目かの周回でもこれだけ興奮出来るのだから素晴らしい作品だ。この作品で私が今特に熱を上げているキャラクターは、守備が上手く足の速い選手だ。攻走守揃った頼れる男子高校生。私は彼にガチ恋している。元来惚れっぽい性分なので学生時代は恋に忙しい毎日を過ごしていたが、大人になって出会いが減ってからは二次元からときめきを供給しているオタクに成り果てた次第だ。日本のどこにでもいるようなオタク女の一人である。


「あー。早く球場行きたいなー。夏が待ち遠しいよー」

 夏より先に訪れる誰も祝ってくれない誕生日など意に介さず、私が待ち焦がれるのはジリジリと肌を焦がす青春の季節だ。私は夏が好きなのだ。

 梅雨がこれからだというのに気が早い奴も居たもので、一週間しか寿命がないというミンミンゼミがもうその羽音を鳴り響かせている。七月上旬、フライングした夏の風物詩のせいで、私の胸は期待に踊り高鳴っていた。


 もうすぐ夏の大会が始まるのだ。俗に言う、甲子園予選である。



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