夜にいなくなる鳥
笹川短冊
#1 黒服の男と引きこもりの少女
「お疲れ様でした。全て終わりました。アナタはこの世界での人生をクリアしたのです。おめでとうございます!」
突然のことで、その黒服の男が何を言っているのか理解できなかった。
男は大柄な体躯をまげて、もう一度言う。
「クリアおめでとうございます!EDのテーマソングは流れましたか?泣けたでしょう。特にあのサビ前のBメロがまた……」
「ちょ、ちょっと待って!クリアって何、ゲーム!?何言ってるの!?」
男の永遠にしゃべり続けそうな雰囲気を察知し、ワタシは精一杯声を上げて中断を試みた。ピタっと、アニメの1コマのように急停止する男に、得体のしれない気色悪さを感じながらも、状況を把握しなければならない。
「ここは……あの世?ワタシは死んだんでしょ?」
思い返せばワタシにはこれまでの記憶があった。
氏名は墨碕緋音(すみさき あかね)。中学1年生で登校拒否になり、自室に引きこもりながら日々を貪っていた。
クラスメイトや先生、学校そのものに何の興味もわかなかったので、悠々自適な引きこもり生活だったが、欲しい新作ゲームを買う小遣いがないため親にねだるしかないのがネックだった。
以前にパソコンゲームサイト「STEEM」で海外のゲームを購入する際、親のクレジットカードを勝手に使ったことがバレてからは、よりセキュリティが厳しくなったことでより面倒になった。
仕方がないから新作は今度まとめてゲーム実況で観賞よう。
スマホのショート動画配信アプリ、ピンクの豚マークが特徴的な「PIGPOKE」を開くと、大好きなダンスグループが楽しそうにライブをしていて、ワタシもその空間にいたいなぁと羨んでは、スナック菓子を口に放り投げる。炭酸飲料を一気に飲んで、次の動画に縦スライドすると推しのアイドルが春もののファッションに着替えていたので思わず動画をダウンロードした。
退屈で、怠惰で、不意に空しくなる瞬間があった。
だからかもしれない。気が付くとワタシはマンション9階のベランダに出ていて、柵を越え、そこからあっさりと飛び降りてしまった。
感情はなかった。いや、正確に言えば、嘘になるかもしれないが、感情らしきものを感じることができなかった。ただ、なんとなく「もう、ワタシはいらないかな」と、諦めのような感覚だけが脳裏によぎっていた。
強い衝撃が走れば終了。想像を絶する痛みの次に、命は終わる。
墨碕緋音の肉体は損壊し、血液がじわっと広がっていく。
そのはずだった。
「……いえ、●んで…ん」
「…いいえ、死んでませんよ~」
黒服の男の言葉を理解するのには時間が必要だった。
何度も繰り返し、男はワタシが死んでないことを強調している。
「もし死んでいたらバッドエンドでしたよ!あぶないところでした~。よかったですね。<ハハハハハハハ」
「マンションの9階から飛び降りたのよ。死んでないわけないじゃない。それに【この状況】を現実だとは明らかに思えない」
異常なのは男の容姿だけではなかった。
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