第27話
記者として活動する俺はいつまでも赤目達也待ち続けた。
赤目達也はその日最後まで冒険者組合に現れず支所部長の奈良礼二に取材を申し込むが他の記者も同じ考えだったようで共同の記者会見をしてその日を終えた。
赤目達也は高校の入学式で冒険者に復帰すると言った。
だがこなかった。
裏口もビルの屋上も全部見張りそれでも来ない。
待ち伏せする記者が多かったせいなのか、それとも初めからフェイクのつもりだったのか分からない。
とにかくだ、この日赤目達也は来なかった。
辺りが暗闇に包まれオフィスのあるビルに戻ると先輩が声をかける。
「分屋(ブンヤ)、赤目は来なかったやろ?」
「はい、来ませんでした」
肩を落として席に座る俺に先輩が肩を置いた。
「分屋、おまえしゃーないやろ! こうへんモノはこうへん! しゃーないやろ!」
「はい」
記者は実りの無い取材もある。
特に待ち伏せの場合は実りが無い事はよくある。
それでも現場に行くのが俺の仕事だ。
「ほい、コーヒー」
「ありがとうございます」
「ほんでな、明日も同じ場所で取材や」
「え?」
「奈良君おるやろ? 冒険者組合のあのメガネ君の支所、そのホームページや」
「……あ、赤目達也が、来る!」
「そや、まあ、文章を読む限りは、100%やない、でもな、昨日よりは確率が高いとおもわへん?」
「はい!」
「赤目達也の記事は一面を飾れる、なんせ天下のトリプルジョブや、一面に写真を乗っけとくだけでぎょーさん新聞が売れる。とんでもなくでかいモンスターを倒して、ほんで次は警察に捕まって、その次は忘れ形見の入学式でも数が取れた。今の話題は赤目達也一色や。せやからな、今日は帰ってたっぷり眠って疲れを取って明日や」
「すぐに帰ります。データはここに」
「ええで、すぐに帰って休んで遅刻せんといてな」
「目覚ましを3つセットして眠ります!」
「おう、ほな、お疲れさん!」
「お疲れ様です!」
俺は取材のデータを渡してすぐに帰って眠った。
目覚ましで起き、エナジードリンクとコーヒーを飲み、更にコーヒーを持って現場に向かった。
現場には多くの警察がいた。
間違いない、赤目達也は来る!
2時間ほど待つと彼が現れた。
記者が殺到する。
そして赤目達也に無数のシャッターが浴びせられた。
カシャカシャカシャカシャカシャ!
「赤目さん! 今の心境をお願いします」
「ついに冒険者復帰と捉えてよろしいでしょうか?」
「赤目さん、目線をお願いします!」
「決意の言葉をお願いします!」
「赤目さん、取材をさせてください!」
記者の言葉が周囲の音を打ち消す。
警察官が前に出る。
「前に出ないでください! これより冒険者復帰の公開取材が行われます!!」
「道路にはみ出さないでください! 通路を塞がないでください!」
「信号の無い道を通り抜けないようにしてください! 入り口をふさがないでください!! 入り口をふさがないで!!」
警察官が赤目達也の壁になるように道を作る。
そして赤目達也が冒険者組合支所に入って行った。
「記者の皆さんは誘導に従い中に入ってください!」
「このラインから出ないでください!」
建物の中に入ると間に合わせで置かれたような立ち入り禁止のカラーコーンが並び、ロビーにテーブルと椅子、そしてモニターが置かれていた。
奈良礼二をはじめとする冒険者組合のスタッフが並び赤目達也に礼をする。
奈良がマイクを持って言った。
「本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。達也さんにとっては非常に、非常に迷惑になると考えましたが!」
会場が笑いに包まれた。
「今回は公開による冒険者復帰の手続きをさせていただきます。スタッフの皆さんは持ち場に戻ってください」
広い空間に奈良と赤目が座った。
2人はマイクを使いながら会話を進める。
だが赤目が奈良に『部長おめでとう』と言うと奈良の目つきが険しくなっていた。
冒険者組合の出世は罰ゲーム。
赤目は『悪かった、嬉しくないのな』と言って笑う。
この支部を支所扱いにしてしかも支所のトップを部長にしている。
明らかに出世させずに職員の給与をカットする仕組みだ。
国は冒険者組合を安く運用するため無理な仕組みを作り職員を安く使っている。
今の学校教員と同じ安い給与で便利屋をやらせる仕組みに似ている。
「始めます、冒険者制度についていくつか変更があります。仮の措置とはなりますが、ダンジョンの最終ボスをソロ討伐した実績を持つ冒険者でかつ、60才未満の場合冒険者レベル1からの復帰ではなく、冒険者レベルを保持したままの復帰が認められます。他の元冒険者につきましても配信などでボスを倒した証拠をお持ちいただければ同様の復帰が出来ますので優秀な冒険者の方はぜひ復帰をお願いします」
この措置は赤目達也専用の制度だ。
ダンジョンの最終ボスをソロ討伐してしかも動画データも必要となれば適応されるのは赤目達也しかいない。
奈良は俺達を見て言葉を続けた。
「その他、まだ正式な法律の施行ではないものの暫定的に冒険者復帰のルールを緩和しております。更に指定される冒険者組合本部を含む支所では復帰にかかる講習時間の短縮、当日の冒険者資格の発行も可能です」
後ろで国が動いている。
日本は冒険者が不足している。
冒険者登録の条件が厳しい事に対するバッシングを赤目達也の知名度を使って払しょくする魂胆だな。
赤目達也は国を、動かない山を動かした!
赤目は奈良の講習を受け、短い動画を見て冒険者レベル4の資格証をその場で受け取った。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャ!
赤目はシャッターの光を浴びて記者から質問が飛ぶが奈良が記者の質問を止めた。
「これより緊急発表を行います! 椅子の用意をお願いします」
スタッフが椅子を持って来る。
さっきまで講習を受けていたロビーに5つの椅子が並んだ。
そして上の階から人が下りてくる。
「ワンキルだ! ワンキルが来たぞ!」
「白金豪己だ!」
「おいおい、まだ来るぞ!」
「ウエイブウォークだ!」
高校入学式と同じ5人のメンバーが並んだ。
ウエイブウォークが出るだけで数字が取れる。
豪己はそれも狙っている。
奈良がワンキルの豪己にマイクを渡す。
「あー、おし、俺達はデュラハンのいるリビングアーマーのダンジョンに挑む仲間を募集している!」
ざわざわざわざわざわ!
日本でゴーレムよりも、いや、日本で1番モンスターの溢れ出しが多く、国の防衛費の多くを削り取る未攻略ダンジョン。
そして伝説のレベル7パーティー黒矢と白帆を失う事になったあの不人気ダンジョンに挑むのか!
豪己がざっくりとしたプランを発表する。
仲間を集めている間にモンスターの溢れ出しが起こるダンジョンでモンスターを狩る。
それによりダンジョンの周りに配置された自衛隊の配置移動を促す。
つまり冒険者と自衛隊も協力してデュラハンを倒す構想まで打ち出している!
成果が出れば国は動く、いや、世論により動くしかなくなる。
溢れ出しが起きないダンジョンに自衛隊を多く配置したままにすれば国はバッシングを受ける。
国は素早い決断を迫られる。
中々変わらない日本だがその国を動くしかない状況に持って行く気だ。
しかも溢れ出しの起こるダンジョンのモンスターを倒す行為は善だ。
国は豪己を叩けない。
叩いた人間は世論からカウンターのバッシングを受けるだろう。
出来る事をすべてやって本気でデュラハンを倒す気だ!
口だけじゃない!
豪己は国も、世論も、すべてを巻き込んで達也が暴れられる地ならしをしようとしている!
そして豪己の切り札が赤目達也だ!
豪己と達也でデュラハンを倒す、その約束は本当だった!
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