第24話

 俺はもう30代だ。

 俺は年を取り、沙雪はその分立派になっていく。


 今日から沙雪は寮生活だ。

 黒矢、白帆、沙雪は立派に育ったぞ。


 


 俺は両親を交通事故で無くし高校に通いながら冒険者になる事を決めた。


 才能は無かった。

 きれいな三角形のレーダーチャートを見て俺がどのジョブにも向いていないことが分かった。


 最初に面倒を見てくれたのはごうだった。

 あいつは見た目に似合わず面倒見が良くて良い奴だ。

 そして凄い奴だ。


 モンスターをたくさん倒せるようになると父さんの言葉が思い浮かんだ。


『達也、調子に乗ってはいけない。世の中何が起こるか分からない。急に景気が悪くなることも、俺が急に死ぬ事だってある。調子に乗ればそれは下りのエスカレーターに黙って立つ事を決めるようなものだ』


 くたびれて痩せた父さんの言った言葉通り父さんも母さんも本当に死んだ。

 本当に死ぬとは思っていなかった。


 調子に乗ってはいけない。

 人はあっけなく死ぬ。

 俺より先に行っていた冒険者が次の日には死んでいる事だってあった。

 調子に乗ってはいけない。


 たくさんのモンスターを倒せるようになっても油断をしてはいけない。

 俺より冒険者レベルの高い先輩が少しずつ死ぬ、冒険者はそういう世界だ。


 ごうのアドバイスで剣士になる事を決めたし黒矢と白帆を紹介してくれたのもごうだった。

 才能が無い俺を引率してくれると聞いて驚いた。


「達也、ウエイブライドの2人だ」

「私はウエイブライドの市川白帆よ、白魔導士をしているわ。よろしくね」


 白帆が俺と握手をする。


「俺は市川黒矢だ。達也、これからよろしくな」


 黒矢と握手をする。


 その時ごうと黒矢、白帆がとても大きく見えた。


 俺は2人に連れられて何度もダンジョンに行った。

 知らないモンスターをたくさん倒した。

 倒し方やモンスターの癖を教えてくれた。

 剣がボロボロになり使い込むほどモンスターを倒している事を実感する。

 だが才能の差を思い知った。


 黒矢がツインハンドでショットゴーレムを一瞬で倒していく。

 黒い弾丸の一発一発が強力で撃ったモンスターを貫いて後ろのモンスターや壁まで破壊していた。


「達也、私の後ろにいて、動かないでね」


 白帆はピンポイントバリアでショットゴーレムの魔法弾をすべて受け止めていた。

 そしてギアゴーレムが俺と白帆に迫ってきてもピンポイントバリアで動きを止める。

 攻撃に向かない白魔法の魔法弾を撃って強引にモンスターを倒していく。

 白帆は一歩も動かずにモンスターを倒した。


 黒矢の圧倒的な黒魔法の出力。

 白帆の圧倒的な白魔法の出力。


 2人はとても大きかった。



 ある日冒険者組合に行くと黒矢と白帆が大きなプレゼント箱の置かれたテーブルに俺を案内した。


「達也、プレゼントだ」

「これは?」

「ふふふ、開けて見て」


 俺はありえないほど大きなプレゼント箱を開けた。

 中には最新型のバトルスーツと剣が入っていた。


「達也ならその剣でも使いこなせると思う、と言ってもごうのアドバイスを聞いただけだ」

「黒矢は剣士じゃないもの、豪己のアドバイスを聞くのが一番よ」

「これを、おれに?」


「そうだ、プレゼントだ」

「似合うといいわね、サイズは合うはずだけど着てみないと分からないわ、着てみましょう」


 俺は装備を着て2人の所に戻る。


「おお、似合ってるじゃないか」


 黒矢が俺の頭を撫でた。


「剣も思ったより大きくなさそうね」


 白帆が俺の背中をさすった。

 それだけで安心できた。

 そこで初めて自分が泣いている事を知った。


「俺、こんなに、うううう、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 白帆が俺の背中をさすった。

 それだけで安心できた。


 2人はとても心強くて、俺は守られている事を実感できた。


 俺はたくさんのモンスターを倒した。

 倒しても倒しても2人に追いつける気がしない。


 魔眼を覚えて五感を鍛えて魔力感知を覚えて鍛えてそれでも追いつけない。

 いや、2人の力を感じられるようになればなるほど2人を遠くに感じた。

 父さんの言葉を思い出して基礎訓練を続ける。

 

 戦士の身体強化、その出力に限界を感じていた、いくら基礎訓練を積んでも魔力の容量が伸びるだけで出力が伸びない。

 そして身体強化の魔力出力が全く、伸びない事をはっきりと自覚した。

 俺は才能が無い。


 俺は黒矢に黒魔法を教えてもらうようになった。

 これが意味のある事か分からない、ダブルジョブの実用化はされていない。

 でも、他に出来る事が思いつかなかった。

 2人の隣にいる為に、俺はそれしか出来る事が思いつかなかった。


 俺が高校を卒業すると黒矢がパーティーに誘ってくれた。

 ウエイブライドは3人になったがその時2人の赤ちゃんがいた。

 俺と黒矢、2人でダンジョンに潜った。

 ダンジョンに潜りながら黒魔法の基礎訓練を積み重ねた。


 戦士の強化魔法を使いつつ黒魔法を使うのは難しい。

 だが同時使用が出来なければ効率が悪い。

 白帆がパーティーに復帰してからも俺の芽は出ない。


 2系統の魔力を同時に使うのは難しく時間をかけなければモノに出来ない。

 呼吸をするように魔力を操れなければ2つの魔力を操作する事は出来ない。

 その事を痛感していた。


 俺は高校に入ってから訓練を始めた。

 前から冒険者になると決めていた人は先を行っている。

 俺は始めるのが遅すぎた。

 俺がもっと強くなるには普通では追いつけない。


 高校に入るまでの分を取り戻す必要がある。

 ごうも、白帆も、黒矢も、大きすぎる。

 

 魔法の基礎訓練に打ち込むためパーティーを抜ける決意を固めた。

 2人は引き留めてくれたが俺の意思は変わらない。

 俺は何年も訓練を続けた。


 

 ◇



 たまにモンスターを倒すと強くなっている事を実感できた。

 才能が無くても基礎訓練で伸びる。

 希望が出てきた。


 ある日、スマホが鳴り続けていた。

 それでも訓練に集中していた。


 訓練が終わりスマホを開くとごうから何度も連絡が来ていた。

 黒矢と白帆の死を知った。


 ごうと3人でダンジョンに潜り奴が現れた。

 あんなに強かった黒矢がモンスターに簡単に殺された。

 そしてごうは血を流しながら白帆を担いで逃げた。


 ごうが撮った動画を見る。

 白帆の腹からあり得ないほどの血が流れる。

 助からないことが分かるほどに傷は深かった。


『お願い! 達也! 沙雪を守って! お願い!』


 そして白帆は息を引き取った。

 

 2つ、目標が出来た。


 ・沙雪を立派に育てる事


 ・沙雪の両親を殺したモンスターを殺す事


 沙雪を引き取り挨拶をすると目を逸らされた。


 ご飯を作ると「お腹空いてない!」と言われショックを受けた。


 幼くして両親を失った沙雪に何をしてやれるだろう?


 傷ついてどうしたらいいか分からないでいる沙雪。

 何をすればいいのか、どうすればいいのか本当に分からなかった。


 思いつくことは何でもした。


 市に子育て相談に行った。


 ママに混じって講習を受けた。


 良いと勧められた子育ての本は全部読んだ。


 縁あっておばあちゃんと会い一緒に暮らすようになってからは本当に楽になった。


 それでも親としての無能を痛感する。

 何度も父さんの言葉を思い出す。


『調子に乗ってはいけない』


 俺は沙雪を立派に育て沙雪の両親を殺したモンスターを殺す事以外切り捨ててきた。


 冒険者をやめて、本当なら育てられたかもしれないダブル候補生も切り捨てた。


 沙雪は立派に育った。


 育ってくれた。


 2つの目標の内1つは達成だ。


 俺は年を取り、沙雪は立派になった。


 もう1つの目標、黒矢と白帆を殺した奴を倒す。


 時間がかかった。


 訓練に時間がかかり過ぎた。


 もう、俺は30代だ。


 何度も奴の動画を見返した。


 それでも焦ってはいけない。


 調子に乗ってはいけない。


 1歩1歩前に進もう。


 まずは冒険者に復帰する。

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