第9話
「正解が分かった。犯人の犯行方法が。」
長らく続いた沈黙がオレの一声で破られた。
既に空気はオレが犯人と決めつけているようで、苦し紛れの言い訳にうんざりしている。
オレが正解が分かった、と言っても臣下たちの様子は何も変わらず、「また始まった」、と言わんばかりである。
きっと「いいから早く罪を認めてくれ」と思っているに違いない。
「足跡なしでミカンをかまくら内から出し入れする魔法のような方法が?」
煽るように侍所が切り出す。
そんな方法は空飛ぶ魔法でも使うしかないだろうという見解なのだろう。
ついさっきまでオレも同じ思考を辿っていたからその考えは理解できる。
「いや、足跡はつく。」
「足跡は周囲になかったといいませんでしたか?」
問注所が憐れむように言う。オレが馬鹿なことを言っていると思っているのだろう。
存分に思いたまえ。
そのほうがこの推理の快感が増す。
「その周囲というのはどこのことだ?オレが言っているのはこのかまくらの上だ。」
オレは右手の人差し指で約2mの高さがある天井を指さす。
「上?確かに上は高さがありますから確認はしていませんがまさか、上から侵入し、上から脱出したとでも?」
「その通りだ。かまくらの周囲に足跡がないのはかまくらの上を通過してきたからだ。かまくらは公園の角、フェンス沿いに作られている。フェンスを越えてかまくらの上を歩き、入り口から侵入した。高さはあるといっても登れない程の高さじゃない。かまくらは人が乗っても崩れないほど頑丈なんだろ?」
オレは目で政所に訴えかける。
政所は無言でそのことを首肯し、別の角度から反論する。
「でもな、結局それだと、上から着地するときに入口付近に足跡が着くぞ。」
「そうなんだよ。でもそれは足跡がつかない位置に着地することで解決する。」
「足跡がつかない位置?新雪で全体を塗られた公園にそんな場所ないぞ。塗り絵と違って塗り漏らしなんてものはない。確実に足跡はつく。断言していい。それこそかまくらの上っていうのは盲点だったが、このかまくらの上からも、別のかまくらの上からダイレクトにこのかまくらに入るのは物理的に不可能だ。」
「それがあるんだよ。足跡が残らない場所。」
オレは臣下の顔を試すように一瞥し、天井を指していた指でそのまま地面をさした。
「ここだよ。」
かまくら内は新雪が積もっておらず、足跡がつかない。公園内唯一足跡なしで歩ける場所だ。雪が入り込む隙間もないということは先ほどから論じられてきた。
「上から直接かまくら内に滑り込んだと?曲芸業だな。」
侍所が鼻で笑う。
「うん。相当運動神経が良くないと不可能だ。だから犯人は破壊したんだ。かまくらをね。」
「は?」
政所がここぞとばかりに反応した。
かまくらを破壊するという説は政所の発言によって消されたはずだったからこの反応も無理はない。しかし、実際に否定されていたのはかまくらを破壊するという説ではない。かまくらを破壊し、復元するという説だ。かまくらの破壊自体は不可能ではない。それをミスリードして受け取った結果、破壊もしていないと誤認してしまっていたのだ。
「短期間で破壊して再生できるクオリティのかまくらじゃないといったはずだが?」
「そうだな。つまり犯人は破壊だけして再生していないんだ。犯人はかまくらの広さを数十センチ縮めた。かまくらをロールケーキを切るように入口から数十センチ幅で縦に破壊する。するとどうだ。何も雪を新しく加えていないにもかかわらず、数十センチ縮んだ新しいかまくらが誕生するってわけだ。犯人はかまくらの上からかまくらを破壊し、数十センチできた足場に着地する。その足場は破壊前はかまくら内部だから足跡はつかない。出る時も同じ足場を使って上に登ってフェンスの上から公園外に脱出する。破壊して再生は出来ないという証言が不可能犯罪のように見せていたが、”破壊”自体は可能だったんだ。今あるかまくらは既に数十センチ縮んだ姿だったんだよ。一見かまくらに変化がないから再生作業を要するものと認識していたが、実際は変化していて気づかなかった。十分な大きさのかまくらだから数十センチ縮んだところで誰も気づかないのさ。」
渾身の推理が突き刺さる。
否定するものはおらず、執権は感嘆の声を漏らした
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