第8話

「もう終わりか?」

執権が罪人を見るような蔑んだ双眸でこちらを見つめる。

このままだとオレの築き上げてきた地位が無実の罪で崩壊する。

雪上においてのみ輝くオレが雪上での犯人の謀略に屈するなんて皮肉めいたことがあっていいものか。

沈黙が続けば、場の雰囲気もオレが悪者であるという認識が一層強まる気がする。

弁明の言葉がなければそれは罪を告白したようなものだという暴論がこの空間では成立してしまうほどにオレへの疑いは強いのだ。

それもそのはず。オレからしたら不可能犯罪を立証する名探偵視点なのだが、犯人を除く臣下たちからすればオレが食べて、苦し紛れの言い訳をしているようにしか見えないはずだ。オレが説を唱え、それが否定されていくたびにオレが犯人であるという説が濃くなっていくという構図。

事件を詰めれば詰めるほど自分の首を絞めてしまうというジレンマ。


正直なことを言うと、オレの説が否定されればされるほど、オレのなかでは犯人が臣下以外の可能性と、臣下全員が共謀している可能性が高まっていく。

しかし、前者が真実だった場合、人がいるかまくら内から単なるミカンを盗み食いしたことになり、動機不十分である。将軍失脚を狙う第三者の謀略である可能性も限りなくゼロに等しい。なぜなら、このミカンがクラスのマドンナである政子ちゃんからのものであると知っている人物は臣下たちとオレと政子ちゃんだけだ。そして、後者が真実であった場合、冤罪証明すること自体が無駄である。

そのため、いかに自分の首を絞めることになろうと、臣下に犯人がおり、全員が共謀していることはない、という前提で事件を追及するしかオレには道がない。



なにかないか…。


ドローンや長い竿のようなものを使ってミカンを出し入れすることは…


無理だ。

かまくらの出入り口付近には坂がある。かまくら内のミカンを視界にとらえるには坂をある程度下る必要がある。すると当然坂に足跡が残る。


周囲にない足跡。

短期間で破壊して再生することは不可能。

机付近に溜まったしょっぱい水。




待てよ…。

得体の知れない快感が脳内を支配する。


周囲にない足跡。

短期間で破壊して再生することは不可能。

これこそが解決を妨害するミスリードだったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る