第7話 方向

 映像の中で、章は何かに気付いたのかカメラを設置した場所を離れ、ビルの屋上出口の方に向かった。出口から出てきていたのは田辺雄大だった。


「え、なんで田辺君までいるの?二人して環奈の部屋を覗くつもりなの?」桜は驚いて声をあげる。


「章がそんなことするわけないじゃない。覗いている事だって誰にもばれてないと思ってるみたいだから、自分から雄大に話すとは到底思えない」環奈はモニターからは視線を外さずに桜に向かってそう言った。


 モニターに映った二人は何やら会話をしている風で、その後一緒に三脚に据えたカメラの方へと移動した。それを見て環奈が興奮気味に話す。

「ほらここ!章がカメラの所に戻って向きを上に変えようとしてるでしょう?」彼女の言うとおりだった。章はカメラの角度を変えようとするが、それを雄大が止めているように見える。


「何をしてるのかしら?」桜が言うと環奈が答えた。


「あなたの部屋私の部屋の丁度三階上でしょ?」一瞬環奈の言葉の意味が理解できなかった桜だが、はっと気が付いた様子を見せる。

「え、二人で私の部屋も覗こうとしたって事?」


「いや、章のヤツに限ってそれはないでしょう。章が呼んでもいないのに雄大がここに現れて、その後の二人の行動を見ると…そう雄大はあなたの部屋を見たくてここに現れたって事になる」


 それを聞いて桜は絶句した。


「前から思ってたんだけどさ、桜と雄大ってお似合いじゃないかな?桜は雄大の事どう思っているの?嫌いって事もないでしょ?」桜は考えるまでもなくすぐに答える。

「それは好きよ。でもその好きって言うのは環奈や松代君に対しての好きと一緒だし…」


「恋愛なんてそういう所から始まるもんでしょ。章と一緒で雄大も何も言わなそうだから、桜の方から告っちゃえばいいんじゃない?彼氏がいた方が高校生活は楽しいよきっと」自分のことは棚に上げて、そう言って環奈は笑った。


「うーんそういう問題じゃなくて…ちょっとこれは困ったことになったかもしれないな…」そういう桜の目がちょっと悲しそうに見えたのが環奈には気になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る