第6話 桜と環奈
桜が環奈の家のインターホンを押すと、環奈ではなく彼女の母親が応答した。
「あ、桜ちゃん?ごめんね今、環奈お手洗いに行ったみたい。今玄関開けるから待っててね」
玄関扉が開いて、環奈の母親が顔を見せた。
「おばさんご無沙汰です。これ母の実家から送られて来た夏ミカンのお裾分けだそうです」
「いっつもありがとうね。もう晩御飯も終わったんでしょう?たまにはちょっと上がって行ったら?」
そう言われて桜は遠慮しようと思ったが、ここまで来て環奈に顔も見せずに帰るのは何だか気が引けるので、折角なのでお邪魔する事にした。環奈の母親はダイニングテーブルに冷えた麦茶を出すと、キッチンで冷蔵庫に夏ミカンを入れ始めた。程なく環奈も現れる。
「ごめんごめん。待たせちゃった?」
「全然全然。私、夏ミカン届けに来ただけだから、久々に環奈の顔を見れたし直ぐ帰るよ」
そう言ってから麦茶に口をつけて慌てて飲もうとする桜に、ちょっと考えてから環奈が話しかける。
「久々なんだしちょっと部屋に寄って行きなよ。…ちょっと見てもらいたいものがあるの」そう言って環奈が意味ありげに笑う。
彼女は自分の部屋の電気をつけると窓の所へ行って、それまでレースだけだったところにメインのカーテンも引いて閉じた。彼女の部屋はとても殺風景だった。ちょっと女の子の部屋らしくは無い。机の上には液晶モニターが二台と、机の下では今どき珍しいデスクトップパソコンがうなりを上げている。
「ちょっとね、面白いものがあるから見せようかなと思って…」そういって環奈がマウスを少し動かすと、すぐに液晶画面にはOSの初期画面が表示された。どうもパソコンの方はずっとスイッチが入ったままの様だ。
パソコンのモニターには、向かいのビルの屋上の風景が映し出された。先日雄大と章が鉢合わせをしたビルの屋上だ。そこには望遠レンズを嵌めたカメラに向かう松代章の姿があった。環奈はそんな前時代的なものではなく、窓の上部に望遠も利く超小型のカメラを取り付けているのだ。もちろん章はそれには気が付いていない。
「環奈、まだ覗きをしている松代君を覗き返すなんて悪趣味な事してるの?しかも録画までして…大体お互い好き同士なんだからこんなことしてないで付き合っちゃえばいいのに」
環奈は桜の方を振り返って言う。
「いやよ私から告白するなんて…向こうから告白してこない限り絶対に付き合ったりしないわ。あ、普段は録画を残したりはしてないの。すぐ消してるんだけど、先週はちょっと面白いものが映ってたのよね…」そう言って彼女はまたモニターの方を見た。桜も一緒になって覗き込む。
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