第4話 雄大と桜

 翌朝も部活の朝練があるので雄大は朝の6時半には家を出た。そうして珍しくこれから登校する桜と出くわした。


「おはよう。珍しいねこんなに早く?」特にいつもと変わらずに雄大は桜に声をかける。


「うん、おはよう」普通に挨拶を返してくれる桜に対して、昨日の事もあって雄大は少し後ろめたさを感じていた。


「ちょっとね文化祭の準備があるんだ。田辺君はいっつもこんなに早いんだよね」ニッコリと微笑む桜を見て、後ろめたさはどこかに飛んで行ってしまった。どうして中学生の頃はこの気持ちに気が付かなかったんだろうか?中学のうちに告白なりをしておけば、同じ高校に通うという可能性もあったかもしれない。


 昨晩あれから、章の行動を環奈に言うべきかどうかを少しだけ考えた。結論はすぐに出た。自分があの屋上に行って桜の部屋を見ようとしていたことを、彼女に知られるなんて事はあってはいけない。章と環奈は好き同士なのにすれ違っているだけだから、特に問題という程の問題ではないだろう。まかり間違って将来同棲や結婚という事にでもなれば、プライバシーも何もあったもんじゃない。でもやっぱり良くないような気もしていた。


「どうしたの?なんか悩み事でもあるの?」桜は雄大の心の内など全く分からない様子で、屈託のない笑顔で彼に問いかける。


 雄大は平静を装って答える。

「何?俺そんなに悩んでいるような顔してる?そういえばさ、章と環奈って高校に入って付き合ってるのかと思ってたけど、違うみたいだな」咄嗟に出た言葉だったが、結構昨日の出来事の影響を引きずっている気がし無くもない。


「うん。私が見ている限りでは付き合ってるって言うのとはちょっと違うみたいだね。早くくっついちゃえばいいのにね」そう言って桜はくすくすと笑う。その笑顔があまりに魅力的過ぎて雄大は一瞬見とれてしまったが、すぐに気を取り直して、

「じゃ、俺部活の朝練遅れちゃうからもう行くね」と言ってその場を後にした。

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