第3話 稔侍

 章は雄大の方を振り返って言う。

「お前みたいな気まぐれじゃない。俺はもう小学生の頃からこうして環奈をずっと見ているんだ。…もしこのことを環奈にばらしたら、お前が桜の事を覗こうとしたって彼女にばらすからな!」


「覗きってそんな…」雄大は戸惑った。いや、章の言う通りだった。


「いいか、覗きとストーカーは違う。環奈がカーテンを閉めたならそれは中を見て欲しくないという意志表示だ。それ以上はカーテンの隙間であっても見ることはしない。こうしてカメラを構えていてもファインダーを覗くのは、窓から環奈が顔を出した時だけだ。それは彼女が世間に対して顔を出してもいいと思っている時なんだからな」


「そうは言っても盗撮は良くないだろう?」


「誰が撮影してるなんて言った?たまたまカメラの望遠レンズがあるからそれを使っているだけだ。盗撮なんかされたら環奈が嫌がるだろう?好きな女の嫌がることをするなんて男のする事じゃない!」見るのもダメなんじゃないかと思ったが、章には章のポリシーがあるらしい。


 雄大は桜を通じて環奈が章の事を好きだという事を知っている。お互いに好き同士なんだから付き合えばいいだけという気もするのだが、どうも今の所はそうはなっていない様だ。しかし覗きの様な事をされたら、流石に好きな相手であっても環奈は嫌だと思うのだが、本人に確認のしようもない。


「俺と違ってお前らは学校も一緒で四六時中会う機会があるんだから、それでいいじゃないか」


「別に俺だって毎日こうして眺めているわけじゃない、週に二回だけと決めている。自分の事をしっかりと出来ない人間には環奈のそばにいる資格なんてないからな」週二というのはいかにも数字にきっちりとした章らしいが、そんなに偉そうに言える話なんだろうかと雄大は思った。


「で、どうする?桜の部屋を覗いてみるか?」そう言いながら章はカメラの角度を調整し始めた。


「バカ、やめろよ。そういうんじゃないから」いや、雄大は先ほどまでは確かにそうであったわけだが、自分より一足…いやもっと全然前からそんな感じになっていた章の事を知ってしまうと、急に自分で自分が恥ずかしくなってきた。





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