春雷。

猫野 尻尾

第1話:その瞬間。

光希みつき侑斗ゆうとが知り合ったのは、理容美容専門学校の保健室だった。


松岡 侑斗まつおか ゆうとはその日体調が悪くて、学校の保健室で休んでいた。

休憩時間、友人の近藤芳樹こんどう よしきくんが様子を見に来てくれた。

近藤芳樹とは馬があってクラスで一番仲がよかった。


「侑斗・・・大丈夫か?」


「ああ・・・少し休んだから多分大丈夫だと思う」

「風邪、引いたのかもな・・・」


そう言いながら侑斗は近藤芳樹の後ろに立っている女性を見た。

それに気づいた芳樹が言った。


「ああ、彼女、中学の時の同級生」

「光希・・・斉藤 光希さいとう みつき


侑斗は光希を一目見て、固まった。

と同時に光希も侑斗を見て、固まった。

その瞬間、ふたりは同時にお互いを好きになっていた。


侑斗は理容師を目指してる学生で、光希のほうが侑斗よりひとつ年上で

インターン生、美容師の卵だった。

美容学校で講習を受けるために学校に来ていた光希は、そこで侑斗に出会った。 ​


侑斗にとって光希は初恋の人だと言ってもよかった。

学生時代には同級生を好きになったことはあったが、いずれも片思いのまま

思いを告白することもなく学校を卒業した。


でも、光希との出会いは、まるで春の雷のように衝撃的なものだった。

光希を一目見て時、侑斗の体に電流が走った。

それほど侑斗にとって光希は心に描いていた理想の女性だったからだ。


光希も、最初に侑斗を見た時、一目で彼に心を奪われた。

侑斗は子供のような純粋な目をしていた。


それから、仕事が終わって、ふたりはデートを重ねるようになった。


侑斗の愛情はまっすぐでブレないなものだった。

光希にとっては、今までのどの男とも違う新鮮なタイプだった。


光希は、物心つく前に母親と父親が離婚していた。

だから母子家庭で育った。

父親は日本人だったが、母親ははフィリピン人だから光希はハーフ。


だが光希が16才の時、母親が病気で亡くなって彼女一人残された。

それから家庭裁判所のお世話になって児童施設に入ることになったが・・・」

光希には施設が馴染めず、外に出て自立したかった。


ちゃんとしたお仕事に就きたかったが、学歴がないから正規では雇って

くれるところは少なく、生きてくために夜の店で働くようになった。・・・

とりあえず食べていかなくちゃいけないから・・・。


そんな店で働いてたから、いろんな男が寄って来るようになる。

砂糖にたかるアリみたいに・・・。

みんな光希の体が目当て・・・最低でクズみたいなヤツばかりだった」


だから光希は男はみんなそんなもんだと思っていた。

そんな世界にいるから心は、荒んで行く一方・・・。

で・・・光希はいつまでもそんな暮らししてたら終わるって思った。


だから、まともな仕事に就かなきゃと思って美容師になることを決心した。

美容師なら住み込みだってできるし学校の学費もお店が出してくれる。


そこで飛び込みで美容室を訪ねた。

インターン生のお給料なんて子供のお小遣いくらいしか貰えなかったけど

それでも元の暮らしに戻るよりマシだった。

インターンをしながら美容室の二階に間借りしてそして無事学校を卒業した。


侑斗と出会ったその日は、たまたま美容師の講習会があって光希は学校に来て

いた時だった。

そして意中の人と出会った。


侑斗はこれまで出会ったどの男とも違っていた。

彼は純粋・・・汚れを知らないと言えば大袈裟だが、以前光希に言い寄って来た

男たちとはまるで違っていた。

光希は、侑斗みたいな人に出会ったことなかったから、とても新鮮で自分の明日に

希望を持った。

これで幸せがつかめると・・・。


つづく。




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