56
葛城の家に着くとカレーの匂いがした。
例の冷凍がまだあったのかと驚いたが、静香さんは食べきったと言っていたので葛城が作っているのだろうか。
「洋子ちゃん! あっ、おばさんも、いらっしゃいませ」
母がきちんと挨拶ができた深雪ちゃんの頭を撫でた。
「深雪ちゃん、沙也ちゃんと二人なの?」
「うん、お父さんはお母さんのところに行ってるから二人だよ」
私は頷いて靴を脱ぎ、台所に向かった。
「葛城、大丈夫?」
「あっ、洋子ちゃん! 来てくれたんだ~」
「先生に聞いたよ。当分休むんだって?」
「うん、深雪ちゃんが不安がっちゃって。1人で留守番ができそうにないの。それにお父さんも機嫌が悪くて」
「あんなクソオヤジは放っておけばいいけど、深雪ちゃんがね……」
後ろから母の声がした。
「深雪ちゃんはうちで預かろうか? 学校からうちに直接来てもらって、沙也ちゃんがお迎えに来るなら問題ないんじゃない?」
葛城の顔が一瞬明るくなったが、困った表情を浮かべながら口を開いた。
「有難いですが、お父さんがどう言うか……」
「そうよね、今夜にでも聞いてみたら? うちは全然大丈夫だから」
「はい、そうします。父の帰りは遅いので、明日ご連絡しますね」
「ええ……わかったわ。ご飯は? 何か困ったことはない?」
「ご飯は炊けるようになったので。あっ、そうだ。今ね、カレー作ってるの。洋子ちゃん知ってた? カレールーの箱の裏に作り方が書いてあるんだよ」
知っとるわ!
「まあね。で? チャレンジ中?」
「うん、ちょっと見て?」
私が鍋を覗くと、大小さまざまな形に切られた野菜がゴロゴロと入っている。
「葛城、ちょっとこのジャガイモはデカすぎないか?」
「そう?」
そう言うと葛城はカレールーの箱裏をじっくりと見直している。
「書いてある通りにしたつもりなんだけど」
なるほど、お前は『乱切り』の意味がわかってないんだな?
うんうん、そうに違いない。
見事な乱れっぷりだ。
「味に代わりは無いさ。火の通り具合にバラツキが出るかもしれないが、まあ……経験ということだね」
葛城が嬉しそうに頷いた。
深雪ちゃんがいそいそとカレー皿を並べ始めた。
いやいや、まだ早すぎないか?
「顔を見たら安心したよ。今日は帰るね」
「えっ? そうなの?」
「うん、私も帰ってご飯作らなきゃ。一応授業のノートはとってるから、登校できるようになったら補習大会再開だね」
「ありがとう。頑張るから」
母と一緒に買い物をしてから家に戻った。
風呂を準備している間に、母が買い物を並べている。
こうやって普通に会話をする家族になってほぼ1年が経過した。
なぜ今までうまく言ってなかったのだろうかと思ってしまうほど、普通に家族だ。
葛城のところも一年あれば落ち着くだろうか。
静香さんが双子にかかりきりになるとしたら、葛城が家を出るのは難しいかもしれない。
そうなると……
「葛城、やっぱりお祓いに行くぞ」
私はバススポンジを握りしめて、声に出して誓った。
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