35
時間的に中途半端だったので、待つことなく席につくことができた。
「深雪ちゃんは何が食べたい?」
俯いたままだ。
そりゃそうだよな。
この状況で母親は不在、父親からは連絡がないんだもんな、そりゃ不安だよ。
「これなんてどうだ? 洋子はこればかりだっただろ?」
父が指さしたメニューは目玉焼き乗せハンバーグだった。
確かに好きだが、父と一緒にファミレスに行った記憶がない。
いや、何度かあったか? まだ小学生だった頃に四人だったような……いや、ばあさんもいたような?
曖昧だ……良心が痛む。
「うん、確かに好きだった。ねえ深雪ちゃん、これにしない?」
深雪ちゃんはチラッとメニューを見て頷いた。
「父さんは?」
「俺はパスタカルボナーラにしよう」
父の口から出たオシャレな単語に、一瞬引いてしまった。
てっきりきつねうどんか肉蕎麦にすると思っていたのだが、どうやら偏見だったようだ。
もしや逆エイジハラスメントか?
私は水のグラスを深雪ちゃんに持たせた。
「お姉ちゃんは大丈夫だから。深雪ちゃんが食べない方が心配かけちゃうよ?」
「うん」
「それにしてもお姉ちゃんもそそっかしいねぇ。階段から落ちたんだって?」
私の言葉に深雪ちゃんがパッと顔を上げた。
「ん? どうした?」
「違うの……落ちたのは落ちたけど……でも、違うの……」
「どういうこと?」
私の言葉を遮るようにホールスタッフが声を掛けてきた。
「お待たせしました。ハンバーグアンドフライドエッグとパスタカルボナーラです」
目玉焼きと言わずにフライドエッグというところも気に障るのだが、こういう些細なことで腹が立つのは空腹のせいだろうか。
「さあ、食べよっか」
ナイフとフォークを渡してやると、器用にちゃんと切り分けている。
ハンバーグと一緒に切った目玉焼きから溢れ出た黄身が、いい感じに食欲をそそった。
「お前の旨そうだな」
父らしからぬ言葉に、深雪ちゃんへの気遣いを感じる。
深雪ちゃんは切り分けたハンバーグをフォークに刺したまま、手は動いていなかった。
「食べようね。頑張って食べなきゃ」
「うん」
なんとか口に入れたはいいが、相当熱かったようで目を白黒させている。
「ゆっくりでいいからね」
水を渡してやるとコクコクと飲んだ。
やはり幼い子は可愛いものだ。
「お前がそうやって年下の子の面倒をみているっていうのは、なんと言うか不思議な感じだなぁ。俺としては優紀にひたすら世話を焼かれているという印象しかないんだが」
「お兄ちゃんは面倒見が良かったもんね。もしかしたらシスコン?」
冗談交じりに言うと、父が真顔で頷いた。
「それは間違いないだろう」
ゲッ……まさかのシスコン認定! まあ、私も相当なブラコン自覚はあるが。
「洋子ちゃんはお兄ちゃんがいるの?」
「うん、一つ上のお兄ちゃんがいるよ」
「おうちで勉強してるの?」
「今は北海道に行ってるの。大学生でね、動物のお医者さんになりたいんだって」
「北海道? じゃあ離れて暮らしてるんだね」
「そうだね」
「ケンカとかする?」
「ケンカ……うん、何度かはあると思うけれど、あまり覚えてないかな」
「お母さんとは? お母さんともケンカする?」
「お母さんとはしたことないと思う。まあ意見の違いとか、態度の悪さで注意されたことはあるけど、そういうのはケンカじゃないもんねぇ。どっちかって言うと一方的な反抗?」
父が軽く吹き出した。
「突き飛ばしたり、階段を降りてる時に、上から物を投げたりは?」
「深雪ちゃん?」
たたみ掛けようとした私を父が止めた。
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