サクラ舞い散るヤヨイの空に

志波 連

プロローグ

「じゃあ葛城、もう行くよ。元気でね」


「うん、洋子ちゃんも元気で頑張って。私、絶対に追いついてみせるから」


「待ってるよ。手紙も書くし、電話もする」


「ありがとう。待ってるから」


「あの家から出ないの?」


「……もう少し頑張ってみようと思うんだ。今のまま出て行ったら家族がバラバラになりそうな気がする。私は大丈夫だから」


「そうか。葛城がそう決めたのなら、私は応援するだけだね。でも無理はしないで、ダメなら逃げてこい。匿ってやる」


「心強い! さすが洋子ちゃん」


 飯田洋子が腕時計を見る。


「やばっ! マジでもう本当に行くね」


 地下鉄の駅に金属と金属が擦れ合う音が響く。

 大きなトランクを引き摺って改札を抜けた飯田洋子に、葛城沙也が手を差し出した。


「今までありがとう、洋子ちゃん」


「こちらこそ」


 二人は固く握手を交わした。

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