第46話 魔の森の奥地


 戦いの後始末を終えたあと、念のためしばらく様子を見ていると、ヨーラムさん達が訪ねてきた。

 どうやら太陽の炎の残党はレバニールの町から撤退していったらしく、再びアンデッド事業が再開できることになったそうだ。


 ヨーラムさんは、以前とまったく同じアンデッド労働者と護衛を受け取り、ヨーマ君とヨーコちゃんを置いて町に戻っていった。

 これで完全に元通りの生活だ。


 今回太陽の炎の神官を19名配下にしたが、神官しか職業がない配下は、正直戦闘員としては役に立たないので、ヨーラムさんに貸し出すことを検討していた。

 神官のスキルはアンデッドにとっては死にスキルだし、身体能力と物理攻撃が上がらないため、職業が神官しかないと攻撃力は無職と変わらない。ただのちょっと頑丈な無職なので、戦闘員としては弱い。

 そこで神官アンデッドを使って治療院を開くなど商売に利用してもらおうと思ったのだ。

 しかし、ヨーラムさんは神官のアンデッドを受け取らなかった。理由は、太陽の炎のメンバーを使っていると太陽の炎に狙われる危険が増すためと、神殿との対立を避けるためだ。

 太陽神教ではないがレバニールの町にも神殿がある。この国の神殿は商売の邪魔をしないことが暗黙の了解となっているので、アンデッド労働者に何も言わないが、治療院を開いて神殿の客や収入を奪った場合は別だ。この国では普通に神殿も商売に力を入れているので、神殿の商売の邪魔をすれば、全力で潰しにくるそうだ。普通の商売の邪魔はしないが、神殿の商売の邪魔をしてきた場合は別ということだ。

 今のこの国の法律では、突然アンデッド労働者を浄化されて訴えても罪に問えないそうだ。

 まあ、アンデッドだからな。アンデッドを浄化するのは正しい行いだと言われればその通りかもしれない。

 なので、神官アンデッドは使えない。

 一応護衛の騎士が神官の職業を覚えて回復ができるようになったので、緊急時は使ってくれと言っておいた。


 神官アンデッドは、面接落ちお祈りメールされてしまったので、雑用係として無職の農家軍団に加わった。 ・・・10年修行して神官になったのに無職と同じ扱いとは、世界は残酷だ。



 まあそういうわけでヨーマ君とヨーコちゃんと再会を喜びあい再度プチ祝勝会をしたあと、俺達は準備をして魔の森の奥にレベル上げに向かった。


 ヨーマ君とヨーコちゃんは拠点で留守番だ。二人はこれまでも家にいる間は配下から色々教わっていて、俺達が出かけていても暇したりはしていない。配下は色々な奴がいるから、二人は暇どころか勉強合宿状態だ。ヨーラムさんも子供に勉強させられるし、間接的に貴重な知識を得られるので大喜びだ。

 どうやらこれからは侯爵と執事長から本格的に文官系の勉強を教わることにしたらしい。この国の商業ギルドは役所もかねているから、商業ギルドに出入りしたり就職したりを考えるとかなり役に立つそうだ。



 俺達はぞろぞろと高レベル配下を引き連れ、減ってしまった魔物配下を補充しながら魔の森の奥に進んだ。

 数日かけて、強い魔物が出ると予想されるエリアの少し手前まできたので一旦そこで野営を行う。


 俺達の野営はすっかり様変わりして豪華なものになっていた。

 寝室馬車、食堂馬車、ゆったりリビング馬車、倉庫馬車を並べ、護衛の配下を周囲に並べてキャラバンみたいな野営だ。

 高レベル火魔法使いが仲間になり、お湯も簡単に大量に作れるようになったので、湯舟だけ持ってくれば風呂にも入れるようになった。

 ここより奥で野営すると、野営中に馬車を壊されずに守り切れるか分からないので、当分は毎日この辺まで戻ってくる予定だ。森の奥のAランク魔物の配下を増やせればさらに奥でも問題なくなるだろう。


 ゆったりリビング馬車で風呂上りの二人と話す。

「いや~。やっぱりお風呂に入れると良いわね。気分が全然違うわ。」 ヨゾラさんは野営でお風呂に入れるようになったことに満足気だ。

「そうですね。もうほとんど家にいる時と変わらないですね。」 ユリアさんも喜んでいる。

「寝室やリビングで使う物も大分揃ってきましたし、これなら長期遠征も苦じゃなくなりましたね。」 俺も大満足だ。

「そうね。もはや野営の方が町の宿より絶対良いわ。宿にはお風呂がないし。」

「あとは料理のレベルが町より上になれば完璧ですね。」 うちの料理係は町の料理人より腕が落ちるからな。

「そこまでは贅沢ですよ。今でも十分おいしいです。」 ユリアさんは料理に満足しているようだ。

「毎日の食事はおいしいに越したことはないわよ。食事がおいしいとやる気がでるもの。」 ヨゾラさんはやはり料理のレベルを上げたいようだ。

「料理人の犯罪者がくるのを待つしかないですね。」

「犯罪者になるような料理人は味に期待できないわ。それより料理を習いに行かせたらどうかしら?」

「なるほど。ヨーラムさんに頼めばいけるかもしれませんね。新しい配下にも料理経験があるか今度聞いてみます。料理人を覚えられそうな配下がいたら修行に出しましょう。」

「今の料理係にも試しに私が日本の料理を教えてみるわ。」

「おお!それはありがたい!ぜひお願いします!」

 ヨゾラさんはたまに料理をしている。完全再現には至っていないが、和食っぽい料理を作ってくれるので、俺も楽しみにしている。

 俺もうろ覚えの知識で料理係に日本食を教えていたが、正直味が微妙だった。俺の素人知識じゃうまいものは作れないらしい。


「それより明日からのレベル上げがうまくできるかが問題ね。」

「そうですね。うまく魔物を釣ってこれるか分かりませんからね。もしうまく釣れなかった場合は俺達は戦闘参加せずに配下だけでやらせましょう。」

 Aランクの魔物になると、そもそもレベル上げの状況を作るのが難しい。配下が攻撃を受けると経験値が分散してしまうからだ。そのため、レベル上げをするには、索敵をする配下達は攻撃を受けずに魔物を俺達の前に釣ってくる必要があるし、護衛の配下は敵に狙われないようにする必要がある。

 敵を釣るのは忍者のカゲイチの実力を信じるしかない。

 護衛の配下は、敵が正面から来る場合はドームの裏にいれば良いが、ノワリンのように背後に回り込むタイプだった場合は、護衛をしまっておかなければならないかもしれない。

 魔物の詳細情報が無いので、やってみないと分からない出たとこ勝負だが、1体目で俺達が戦闘参加して失敗すると経験値が激減してしまう。1体目が一番経験値が多いからだ。なので俺達は、うまく釣れなかった相手は戦闘参加せずに配下にまかせる。

「それしかないかしらね。まあ私はスキルでもレベル上げができることが分かったから、二人のレベル上げを優先して良いわ。」

「ありがとうございます。できるだけヨゾラさんもレベル上げができるようがんばりますね。」

 ヨゾラさんのスキルはレベル上げにも使えることが分かった。とはいえ聖騎士と神官をレベル2に上げるのに数日かかっていることから、そこまでレベル上げ効率は高くない。できればヨゾラさんも魔物でレベル上げをした方が良い。まあ長い目で見ればヨゾラさんは最強になることが確定しているので、魔王を誰も倒せなかったら、20年後くらいに最強になったヨゾラさんに魔王を倒してもらおうと思う。それまでがんばって生き延びよう。



 馬車の外ではたまに戦闘音が聞こえる。配下が寄ってきた魔物を倒しているようだ。


 明日にそなえ点検を行ったあと、俺達はそれそれの寝室馬車で眠りについた。



 魔の森の奥深くには、異様な気配がただよっていた。



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