第39話 迫る脅威
ヨーラムさんが突然やってきた。
貸し出していたアンデッドも全員連れて来たみたいだ。
緊急事態らしいので、さっそく話を聞くことにした。
全員食堂に集めて、主要な配下も一緒に話を聞かせた。
「ヨーラムさん。何があったんですか。」
「突然申し訳ありません。非常に危険な状況になったので、避難と報告にきました。」
「危険な状況?」 嫌な予感がする。
「はい。ルディオラ太陽神国のアンデッド討伐部隊がこちらに向かっているそうです。」
「アンデッド討伐部隊?!」「ええ!?」「そんな・・・」 皆驚いている。
確かルディオラ太陽神国は西にある闇の神を邪神扱いしているヤバい国だ。
「はい。私は最近この国の首都にも人を配置しているのですが、首都からの緊急連絡で、首都に聖女と100人を超えるアンデッド討伐部隊がやってきていて、このアベニールに向かう手続きをしているそうです。おそらく数日後にはここに来るでしょう。」
聖女?! もしかして日本人か? 日本人なら何とか交渉できないだろうか?
「その聖女やアンデッド討伐隊とは交渉はできないのでしょうか?」
「交渉は恐らく難しいでしょう。来ているのは「太陽の炎」という有名なアンデッド討伐部隊で、様々な国からアンデッドに恨みを持つ者達が集まっているそうです。聖女は分かりませんが、太陽の炎は恐らく問答無用で攻撃してくると思われます。」
・・・アンデッドに恨みを持つ者達か・・・ 当然アンデッドを生み出す死霊術士も憎んでいるだろうな・・・
「聖女もこちらに来るのかは分っていません。聖女がアンデッドを討伐してまわっているとは聞いていませんので、聖女は首都に外交に来ているだけの可能性もあります。」
「・・・そうですか。」 聖女が来ないなら交渉できないし、聖女と討伐部隊が別なら、聖女と交渉できてもアンデッド討伐部隊は来てしまうかもな。一緒に行動していた場合は、そもそも接触が難しいしな。もう討伐部隊が来る前提で動くしかないか。
そうなると迎撃するか逃げるかだが・・・迎撃して勝てるかが問題だな・・・皆と相談しよう。
考えているとヨーラムさんが話を続けた。
「国側で討伐隊を断ってもらえれば良かったのですが、まだ私達もそこまで根回しができていません。レバニールの町の上層部も慌てていました。とりあえず町で討伐隊に暴れられては困るということで、作業を中止してアンデッドを全員連れてきました。」
なるほど、町にアンデッドがいると町なかで戦闘になるから一旦返すことにしたんだな。
とりあえずヨーラムさん達には隠れていてもらうか。
「わかりました。ヨーラムさんとヨーマ君とヨーコちゃんは、ここにいると危険なので、どこかに隠れていてください。貸し出しているアンデッドは連れて行ってもかまいません。隠れるのに邪魔なら置いていってもいいです。」
「・・・分かりました。私達がここにいてもお邪魔でしょう。町で見つからない様に隠れていることにします。少しでも戦力はあった方が良いでしょうし、町まで送っていただければアンデッドは一旦すべてお返しします。」
「わかりました。」 護衛のアンデッドも返してくれるようだ。ありがたい。まあアンデッドと一緒にいると見つかった時に俺の仲間扱いされて逆に危険だしな。
「うまく解決できたら、またアンデッドをお借りしてよろしいでしょうか?」 ヨーラムさんはアンデッド事業を止める気はないようだ。
「はい。もちろんです。」
「ありがとうございます。皆さんのご無事をお祈りしております。」
「ユージさん。ヨゾラさん。ユリアさん。またここに戻れるって信じてるっすからね。ご武運を。」 ヨーマ君も激励してくれた。
「皆さん凄く強いですからね!皆さんなら大丈夫ですよ!がんばってください!」 ヨーコちゃんはこんな時でも元気いっぱいだ。
ヨーラムさん親子は町に戻っていった。
さっそく皆で作戦会議だ。
まずは、ルディオラ太陽神国の聖女とアンデッド討伐部隊「太陽の炎」について配下達に知っていることを聞いてみた。
分かったことは
ルディオラ太陽神国は太陽神教を国教とする宗教国家で、太陽神教の教義では闇の神は邪神とされていてアンデッドは闇の神の眷属とされている。そのため、アンデッドの撲滅を国家事業として行っている。
教義で敵と定められているので、太陽神教の聖女が、死霊術士と交渉したり見逃したりすることはまずありえない。少なくとも国を捨てるつもりがなければこちらの話を聞くことはないだろう。聖女の能力の詳細は不明だが、神官を強力にしたような能力と言われている。
アンデッド討伐部隊「太陽の炎」は太陽神教の教義に基づき設立された部隊で、ルディオラ太陽神国の国家事業として運営されている。様々な国から人材を受け入れており、アンデッドに恨みを持つ者や、アンデッド討伐のエキスパートが多数所属している。
こんな感じだ。
やはり交渉は無理だと思っておいた方がいいな。いくら日本人といえど、見ず知らずの他人だ。国や地位を捨ててまで助けてくれるとは思えない。日本人じゃない可能性もあるしな。
戦った場合の勝敗予想も配下達に聞いてみた。
敵の編制や聖女の能力の情報が無いため正確なことは判断できないが、知っている範囲の情報とこの世界の一般的な軍隊等の戦力から考えて予想した場合。
敵が100から150程度の人数だとして、大半の兵はBランク魔物よりも弱いと思われるので、純粋な戦力ではこちらが圧倒的に上だが、アンデッド討伐のエキスパートであり、神官が大勢いると考えると簡単には勝てないと思われる。
何の策もなく正面からアンデッドのみで戦った場合は負ける可能性もある。
しっかり策を立てて当たればアンデッドのみでもおそらく勝てるが、主要戦力が浄化されるなど被害が大きくなる可能性が高い。
しっかり策を立てた上で、俺とヨゾラさんが突入する作戦を使えば、リスクはあるが被害を抑えて勝利できる可能性が高い。
というのが配下達の予想だった。
となると俺達が選べる選択肢は3つだ。
1つ目は、戦力激減を覚悟のうえで俺達は安全な場所に避難して配下にまかせる。
2つ目は、リスク覚悟で俺達も参加し完全勝利を目指して全力戦闘を行う。
3つ目は、この拠点を捨てて全員で逃げる。
このどれかだ。
ヨゾラさん達の意見も聞こう。
「というわけで、俺達が選べる選択肢は3つですが、ヨゾラさんとユリアさんは何か意見ありますか?」
「そうね。逃げる場合あてはあるの?」 ヨゾラさんが聞いてきた。
「討伐隊が来れないくらい森の奥に逃げることを考えています。森で生活することも可能なので。そして討伐隊が諦めて帰ったらまた戻ってこようかと。」
「でも私達は森の奥に行くのは危険だから迷っていたわよね。逃げてもかなり危険なんじゃないの? それに逃げた場合、ヨーコちゃんやヨーマ君やヨーラムさんはどうなるの?」
うっ 確かにそのとおりだ。森の奥も戦うのと同じくらい危険だし、ヨーラムさん達が捕まったら拷問とかされかねない。
「・・・確かにそうですね。森の奥も危険ですし、ヨーラムさん達が酷い目にあう可能性がありますね。連れていくのも難しいでしょうし・・・」
「じゃあダメよ。ヨーコちゃん達を見捨てられないわ。」 ヨゾラさんがきっぱり言った。男前だ。
国内を逃げ回るという手もあるが、ヨーラムさん達が危険なのは同じだな。・・・仕方ない戦うか。
「わかりました。戦いましょう。それで、配下に任せるか、俺達も全力で戦うかですが・・・ 一応配下に任せた方が安全ではあります。」
「でもそれで本当に勝てるのかしら? 聖女もいるのよね?」
「そうなんですよね。聖女が予想以上の力を持っていて配下が負けた場合、かなり危険な状況になります。最初から全力で戦った方がマシだったということもあり得ますね。まあ聖女が来ない可能性もありますが・・・」 正直配下に任せる方が絶対安全というわけでも無い気がする。
「それだったら最初から全力で戦った方が良いわ。コソコソするのは性に合わないし。後で後悔なんてしたくないわ。」 ヨゾラさんは、またもや男前である。
よし!俺も腹をくくろう!
「分かりました。全力で戦いましょう。」
二人を見てうなずく。
・・・そういえば二人は一緒に戦ってくれるんだよね? いや話の流れ的に一緒に戦ってくれると思うけど、こういう大事なことはちゃんと確認しておかないとマズい気がする。勘違いだったら致命的だ。
「今更こんなことを聞くのもあれですが、お二人とも一緒に戦ってくれますよね?」
一応確認したらヨゾラさんに睨まれた。え? 戦ってくれないの? いや俺一人じゃ死んじゃうよ!
「見捨てないでください!!二人がいてくれないと俺ダメなんです!!お願いします!!」 あわてて頭を下げる。
「もう!何言っているのよ!戦うに決まってるでしょ!」 ヨゾラさんは怒っているが戦ってくれるらしい。
「私ももちろん戦いますよ。」 ユリアさんは笑顔で答えてくれた。
「良かった!ありがとうございます!」 良かったびっくりした。
「お互い頷いたんだから聞かなくても分かるでしょ!情けない声出すんじゃないわよ!締まらないわね!」 ヨゾラさんは赤い顔して怒っている。
いやだってさ。命かかってるんだよ。確認って大事じゃん。
俺達は絆を確かめ合った。多分そんなこと思っているのは俺だけだが。
ともかく気を取り直して具体的な作戦会議を行うことにした。
少しずつ戦場の気配が迫ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます