第34話 高ランク冒険者


 ある日、リビングで寛いでいると執事長が報告にきた。


「ユージ様、冒険者らしき一団が正面から襲撃してきました。かなり強いようなので、念のためノワリンにも出撃準備させてよろしいでしょうか。」

「何?!また刺客か?!負けそうなのか?!」 

「いえ、現在魔物達と交戦中ですが、魔物達だけでも何とか倒せるかもしれない程度です。ただ神官もいるので念のためです。」 何だよあせらすなよ。

 そうだ!

「ギルバーンのスキルを使わせてみよう。できれば反応を直接見たいな。」

「分かりました。ギルバーンを呼んでおきます。門にいる騎士団長のところへ行ってください。念のため武装もお願いします。」

「何? 襲撃を見に行くの?」 ヨゾラさんが聞いてきた。

「はい。隠れて見てみるつもりです。一緒に来ますか?」

「行くわ。」 ヨゾラさんも来るようだ。

「ちょっと大丈夫?」 ユリアさんは心配そうだ。

「魔物だけで勝てそうなら大丈夫でしょ。ユリアも来なさいよ。一人でいる方が心配だわ。」

「う、うん。わかった。」 ユリアさんも来るようだ。


 俺達は武装して念のため顔を見られないよう仮面をかぶった。

 そして騎士団長とギルバーンと合流し、塀の上から隠れて様子を伺った。


 見てみると、魔物達と冒険者らしき一団が戦っている。

 冒険者の構成は、ごつい鎧を着て大きな盾を持った男、斧を持ったドワーフ、剣を持った犬っぽい獣人の男、槍を持った人間の男、斥候っぽい黒猫獣人の女、神官っぽいエルフの男、魔法使いっぽいエルフの女の7人だった。多種族連合だな。珍しい。

 こちら側は、魔物軍団の後ろで騎士が指揮していて、やられそうになった魔物は後ろに下がってゴブリンを食べて回復しているようだ。

 大量の魔物相手に、互角に戦っていて、かなり強いように見える。剣士の剣が燃えているし、魔法使いが小さい竜巻出しているし、良く分からない聖域みたいなのを展開していて後衛には近づけないみたいだ。まあ魔物も魔法攻撃しまくっているけども。

 見ていると神官が光を放ち何体かの魔物がまとめて消滅した。

 あれが浄化ってやつか?!

「うわ! ちょっとヤバくない?」 ヨゾラさんが声を上げる。ユリアさんも心配そうだ。

「予想以上に簡単に消滅してますね。これはちょっとノワリンや騎士達は前に出せませんね。」 ノワリンや上位陣が消滅したら大損害だ。


 俺はすぐノワリンや人間配下達は前に出さないよう指示した。


 しかし、これは魔物だけで勝てるかギリギリだな。魔物がやられても負けることはないと思うが・・・

 よし!ここで今まで考えていたことを試そう。ちょっと危険だが、負けそうになって初めて使うより勝てる状況で試しておきたい。


「ヨゾラさん。ユリアさん。例の作戦試してもいいですか?」 俺は二人を見る。

「私が盾になるやつね。いいわ。まかせて。」 ヨゾラさんが力強くうなずく。

「わかりました。ノワリンちゃんのためにもがんばります。」 ユリアさんもうなずく。

「ありがとうございます。」


 よし!まずはギルバーン!スキルでゾンビの大群の幻を見せろ!

 なに? 姿を見せて相手に話しかけないと効果がない? そうなの? 配下達を騙して実験した? そうか、結構制限が多いんだな。しかしよく騙せたな。こいつ人を騙す才能がもともとあったのか? まあいい。

 それって遠くから大声で話しかけてもいいのか? 多分大丈夫? んじゃ亀に乗って大声で話しかけろ。


 皆で戦場に近づいて正面の位置に亀を出す。

 ギルバーンが亀に登っている間に俺達は敵の左側に回り込む。


 敵の声が聞こえてきた。

「情報よりはるかに魔物が多いぞ!」「撤退も考えた方が良いんじゃない?!」「いや、できるだけ倒すように言われている!」「余裕があるうちは戦うぞ!」「チッ!わかったよ!オラ!」

 まだまだ余裕があるようだ。

 しかしこいつらもしかして陽動なんじゃないか? また暗殺者が別にいるのかも・・・ カゲイチはどこだ? ちゃんと護衛しているんだろうな? ちょっと不安になってきた。


 とにかく今は戦いに集中しよう。

「ヨゾラさん!ナイトビジョンを!」

「わかったわ!」 ヨゾラさんが真剣な顔で答える。

 ヨゾラさんが俺達三人にナイトビジョンをかけた。三人の体の前に暗く光る小さい魔法陣が浮き上がり、体が一瞬黒く光る。俺の配下作成や配下回復と近い演出だ。



 そうこうしているうちにギルバーンが声を上げた。


「フハハハハ!」

「何だ?!」「あいつはもしや!?」

「我こそは闇の王ギルバーン!我がゾンビたちの餌になりにくるとは愚かな者どもよ!後悔して死ぬがいい!」

「あいつがギルバーンか!」「ノコノコ出てきやがって!あいつを倒せば終わりだ!」

「出でよ!闇の軍勢よ!」

「うわ!」「くそ!ゾンビがあんなに!」


 どうやらゾンビ軍団の幻影を見せることに成功したようだ。


「よし!じゃあユリアさんお願いします!」

「はい!」 ユリアさんが真剣な顔で杖を構える。落雷の魔法を撃ってもらうのだ。

 黄色く光る1.5メートルくらいの魔法陣が現れる。結構目立つが敵はギルバーンと魔物達に気を取られいるので気づかれていない。


 ユリアさんのそばに壁役の亀と護衛の騎士団長を残して、魔物の影から敵に近づいていく。

 ヨゾラさんを盾にして、次が俺、念のためノワリンを後ろからついてこさせる。


 ピシャーン ドーン

「ぐあ!」「うわ!」「雷魔法か!?」「どこから?」

「くっ体が動かない!エリアス!回復を!」


 落雷の魔法が敵に当たり何人か痺れたようだ。落雷の魔法は直撃した相手だけでなく周囲にいる敵にもダメージと麻痺が入る範囲魔法だ。中心に近いほど効果が高い。


「エリアキュア!」 敵の神官が魔法を使う。


「ダークを使うわ!」 立ち止まってヨゾラさんがダークを使う。

 頭上に掲げた手の上に黒い魔法陣が現れ、周囲に闇が広がっていく。俺たちはナイトビジョンで良く見える。


「今度はなんだ?!」「くそ!急に暗く!」「敵の魔法だ!」「エリアス!ライトを!」


 今だ!

 一気に近づき、気づいていない槍使いの男を死体収納!成功!

 次は神官だ!


「ライト!」 神官が魔法を使う。仲間の治療をしていたが収納前にライトを使われてしまった。

 チッ!ダークが打ち消された!亀を敵の真ん中に取り出し!


「うわ!」「くそ!どこから!」「ケルトどこ?!あいつは!」


「な?!」 俺を見て驚愕するエルフの神官。

 死体収納!成功!


「くっ!この!」

「させないわよ!」

 ガガギン!

 後ろから切りつけてきた黒猫獣人の女の連撃をヨゾラさんが剣と体で防ぐ。

「切れない?!」

 あわてて女獣人を見る。死体収納!成功!

 危なかった!


「エリアス!?エイナ!?」 女エルフが叫ぶ!

「邪魔だ!」 ドガッ! ドワーフが亀を吹き飛ばす!

 隙だらけのドワーフに走って近づく。

 死体収納!成功!


「くっ!エアプレッシャー!」 女エルフが魔法を使った!

「ガウ!」 魔法陣が出ている最中にノワリンが攻撃!

「キャッ!」 女エルフが転倒して魔法がキャンセルされる!

 死体収納!成功!

 ちょっと危なかった!


「マズい!クソ!邪魔だ!」 魔物が犬獣人の男に襲い掛かる。

 逃げようとして焦っている犬獣人の男を死体収納!成功!


「そんな!まっ・・」

 恐怖に顔を歪ませる鎧の男を死体収納!成功!



「よし!終わった!もういないか?!」 周囲を見るがヨゾラさんと配下達しかいない。

「大丈夫みたいね。」 ヨゾラさんは相変わらず余裕だ。無敵の女だからな。

「無事ですか?」 ユリアさんが心配そうに近づいてくる。

「二人のおかげで助かりました。ありがとうございます。」 緊張したけど作戦はうまくいったな。よかった。


「ユージ様。」 突然忍者のカゲイチが現れた。

「うわっ! 急に出てくるなよ。なんだ?」

「別動隊の暗殺者達を捕らえました。」

「ああ。やっぱり別動隊がいたのか。じゃあそっちも収納しよう。」 カゲイチはちゃんと仕事していたらしい。


 カゲイチについていき、別動隊の暗殺者達も収納した。


 忘れないうちに二人に意見をきいておこう。

「今回の作戦はうまくいきましたけど、改善点や気になった点とかありましたか?」

「私は最初に雷魔法をうった後やることがなかったのが気になりました。何かできることはないでしょうか?」 ユリアさんが意見を言った。

 何かやってもらうことあるかな? 

「うーん。そうですね。今回は敵が少数だから1発でしたが、敵が多い場合は味方がいない場所に攻撃を継続してもらうので、やることはあると思います。今回のように敵が少ない場合は、周囲警戒ですかね。援軍がきたらそっちに攻撃してもらえると助かります。でも無理そうなら早めに撤退してください。やられない事の方が大事なので。」

「なるほど。わかりました。」 ユリアさんは納得してくれたようだ。

「私は、敵に近づいたときに、敵が近すぎたり動きまわりすぎたりでドームを張れなかったのが気になったわね。あんたを守り切れるか不安だわ。」 ヨゾラさんからも意見が出た。

 そうか。ちょっとヒヤッとした場面もあったしな。俺も近づくことばかり考えすぎていたかもな。ドームを張ってもらって落ち着いて倒すという手もあるか。

「わかりました。敵に近づきすぎないようにと、落ち着いて行動するように気をつけます。ドームを張る判断はヨゾラさんにおまかせしますので。」

「わかったわ。あんたは何かないの?」

「そうですね。今回亀を敵の真ん中に出したのが結構効果があったので、オークを使って亀を敵に投げ込めないか試そうと思います。」 

「・・・また変なことを言って。まったく。」 ヨゾラさんはあきれている。

「あはは・・・」 ユリアさんも苦笑いだ。

「いや、良いアイデアだと思うんですけど。」 

 亀は浄化以外ではなかなか死なないからすごく邪魔だったと思うんだよね。移動は遅いけど攻撃もできるし。敵に亀を投げ込めば簡単に陣形を乱すことができそうだ。

「好きにしてちょうだい。」 まったく投げやりだな。ちゃんと考えようよ。まあいいか。



 二人の意見も聞いたし、収納した刺客を配下にしよう。


 今回死体収納できたのは、冒険者7人と暗殺者6人だ。さっそく配下作成だ。


 取り出し!配下作成! × 13


 死体の下に暗く光る魔法陣が次々と現れ、黒い光が死体を包む。


 冒険者達と暗殺者達が起き上がる。

 

 とりあえず話をきいた。

 冒険者達は色々な国をまわって依頼を受けている運命の集いというAランクパーティーだそうだ。

 大柄な盾士がリーダーで、斧士、剣士、槍士、斥候、神官、風魔法使いの7名だ。


 Aランクだったのか。確かに強かったしな。落雷魔法をくらっても痺れてはいたが死にそうにはなっていなかった。レベルも30後半ある。騎士団長より高いぞ。でもノワリンを倒せるかは怪しい気がするな。 ・・・俺の目が愛で曇っているだけだろうか。


 しかしエルフとドワーフと獣人ですよ。お客さん。

 特にエルフ。スレンダー美人だ。彼氏いるの?


 ・・・エルフ神官と夫婦だそうだ。 ・・・ですよね。エルフ同士美男美女でお似合いですね。


 神官がちょっと気になったので、聞いてみた。光魔法の回復と防御系バフなどが使えるが、アンデッドはバフも回復もダメージを受けるだけで効果がないそうだ。


 ・・・ダメじゃん。いやでも俺と仲間には使えるか。俺とユリアさんの回復と物理防御アップをしてもらおう。ヨゾラさんには多分不要だ。無敵の女だからな。


 そういえば剣が燃えていたけどあれ何? 魔法剣だと!


 詳しく聞くと、火の魔法剣で、攻撃に魔法攻撃のステータスものるので魔法使いが使っても強いらしい。犬獣人の剣士は魔法使いじゃないので魔法攻撃は低いらしい。それでも火ダメージがある程度加算されるので普通の剣よりはだいぶ強いから使っていたそうだ。


 うん。没収で。ヨゾラさんに使ってもらおう。ヨゾラさんは魔法攻撃力も高いからかなり強くなるはずだ。防御無敵の女が攻撃もめちゃつよになって最強になるぞ。ヤバいな。


 他に魔法の装備ない?


 エルフの夫婦が物理防御が100上がる魔法の腕輪を装備しているらしい。


 そういうのだよ!これで俺の物理防御が上がる!神官の魔法と合わせれば結構良いんじゃないか? よし!没収だ!二つあるから一つはユリアさんに渡そう。


 エルフの夫婦からお揃いの腕輪を奪った。


 ・・・何か凄く酷いことをしている気がする。でも命優先だしな。もしかして思い出の品とか結婚指輪的なものじゃないよな。・・・聞くと使いづらいから聞かないでおこう。

 俺はユリアさんとお揃いの腕輪を付けるんだ!気にするな!


 他には・・・槍男の槍と鎧が俺より良さそうだな。でも俺は槍をほぼ使わないんだよな。カツアゲしてくる不良への威嚇用でしかない。 ・・・槍はそのまま使わせよう。

 女エルフの杖は風属性用みたいだから不要だな。

 他は仲間二人の防具だけど、女性の防具はサイズとか良く分からんから本人に聞こう。


 さっそく装備を持って行った。


「ヨゾラさん!ユリアさん!」寛いでいた二人に声をかけた。

「何?」「何ですか?」

「さっきの冒険者が良い装備を持っていたので、使ってください。」

「え? なになに?」

「ヨゾラさんには、火の魔法剣です!攻撃に魔法攻撃のステータスものるらしいですよ!多分ヨゾラさんが使えばかなり強いんじゃないですかね?」

「魔法剣!それは凄そうね!使ってみるわ!」 喜んでいるようだ。

「ユリアさんには、物理防御が100上がる魔法の腕輪です!俺とお揃いですよ!」

「いいんですか? ありがとうございます。」 ユリアさんも喜んでいる。

「お揃いって何よ。どういう意味かしら。」 ヨゾラさんがジト目で見てくる。

「え、いや・・・ 深い意味はないです。はい。たまたま二つあったんで、物理防御が低いユリアさんと俺がつけるだけです・・・」 

「ふーん。そう・・・ ユリアを狙っているわけじゃないのね?」 

「そ、そんなんじゃありませんよ。あはは。」 な、ななな何を言っているんだ。意味がわからんよ。

「うふふ。」 ユリアさんは楽しそうにほほ笑んでいる。どういう意味だ。


 とりあえず女エルフと女猫獣人の装備も見せてみたが、いらないそうだ。



 そういえば今回の被害を聞いていなかったな。

 確認したところ、浄化された魔物が17体、魔石を砕かれた魔物が6体だった。人間配下の被害はなかったようだ。良かった。

 魔物はもっとやられた気がしたが、体が真っ二つになっても死なないからやられたように見えても生きていた魔物が多かったのだろう。

 これなら防衛戦力は落ちていないな。冒険者が強かったからむしろ上がっただろう。


 配下情報を見ると、浄化された魔物は一覧から消えていて最大MPも戻っているようだ。しかし、魔石を砕かれた魔物はHP0のまま一覧に残っていた。復活する方法でもあるのだろうか?

 砕かれた魔石を見つけて配下回復をかけてみたが復活しなかった。分からんから様子見だな。


 浄化された魔物の魔石も落ちていた。配下にきくと普通の魔石だそうだ。売るしかないらしい。アンデッドの魔石は汚染されていて、そのままだと復活することがあるらしい。浄化すると普通の魔石になるそうだ。浄化されていなければ復活できたのかもな。使えなさそうなので売らせた。



 しかしいつまで刺客が続くのだろうか。

 ちょっとどうにかした方が良い気がしてきたな。

 まあ撃退するたびに戦力増強になっているから良い気もするが、配下たちと相談しよう。



 戦力も整いつつある。そろそろ反撃も考えよう。

 俺はニヤリと悪そうな笑みを浮かべ、悪役ムーブを楽しんだ。


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