第33話 侯爵家の刺客


 侯爵家の刺客に備えながら生活を続けて一か月くらいたった。


 その間に、五右衛門風呂の試作品が完成したり、オーク馬車のプロトタイプMk-Ⅱが完成したりした。ちなみにMk-Ⅰは荷物をたくさん載せて何回か出し入れしたら壊れた。


 Mk-Ⅱは荷物を積んでも問題ない作りだが、キャンピングカーにするには狭い。

 そこで俺は考えを改めた。

 今までは部屋や倉庫など色々な用途に使える馬車を作ることを考えていたが、部屋として使う馬車には荷物は積めなくても良いと気づいたのだ。荷物は使う時に別の馬車から出せばいい。そして収納する時に空にすれば問題ない。どうせ出し入れするのは配下だ。

 広さと居住性だけで荷物を積まない馬車であれば、屋根と壁をつけても四畳半くらいは十分いける。屋根と壁が布張りなら八畳もいけるかもしれない。

 何台あっても良いので、寝室用、食堂用、くつろぎリビング用などと荷物用を用意すればいい。寝室用はちゃんとした壁や屋根があった方が落ち着くだろう。食堂用やリビング用は布張りで広くすれば良いな。荷物用も女性は自分で出し入れしたい物もあるだろうし、共用とは別に一人一台あっても良いな。

 というわけで大工に作るよう指示した。キャラバンみたいな野営になりそうだ。


 ちなみにベッド馬車はもう使っているが、割と快適で仲間たちの評判も良い。やはり野営でベッドに寝れるだけでも大違いだった。オークがくっついていると気になるので、毎回つけはずしが必要になるが、配下がやるから関係ない。そういえば、寝室馬車ができたらベッド馬車を個人用荷物馬車にすれば良いか。


 風呂は、かまどの上に湯舟が乗っている感じだ。十分実用できる物ができた。しいて言うなら、湯加減の調整が難しいのと、試作品なので家の外に設置してあるのが難点といったところだ。井戸と家の中間くらいにあって、まわりにすのこを敷いて、布で張って目隠ししてある。

 湯加減の調整は俺は配下にやらせればいいが、火を焚く場所が風呂場内なので、女性二人は入っている最中は自分たちでやらなければいけない。そのため二人は悪戦苦闘したりしていた。それでも二人には大好評だ。ちなみに覗く勇気はない。

 外にあることについては、空は見えないが上に木々が見えて良い感じの露天風呂みたいで、俺は逆に気に入っている。雨の日はタープのような物を張って使っているので微妙だが、真上に木が見えなくなり解放感が下がるので屋根は作らない方が良いと思っている。

 湯上りで薄着な二人も見ることができたので、俺はもうこのままで良いと思っているが、ヨゾラさんは改良したいらしく、大工に色々注文していた。室内に風呂を作りたいらしい。時代劇にあるような外から火をくべるタイプにするようだ。




 そんな風に順調に生活していたある日、とうとう刺客がやってきた。


 そして数名の刺客たちはあっさり魔物の壁に撃退された。


 拍子抜けしたが完璧だったわけではない。

 7、8名の刺客たちは、当然全員同時に塀を越えたわけもなく、最初の一人が塀を越えた時点で魔物と戦闘が始まったため、半数は不利とみて入らずに撤退してしまった。

 騎士やジミーたちが、追いかけたが数名逃してしまったようだ。これで塀の内側に魔物がいることがバレてしまっただろう。


 騎士団長にきいてみると、元々敵を逃がさないようにするのは難しいと考えていたようだ。拠点防衛とはそういうものらしい。

 逃がさないようにするには、敵を深くまで引き込む必要があるが、リスクが高いし、設備も広さも足りないらしい。

 刺客たちが予想以上に強かったときに備えて、逃がさないことよりも撃退を優先した布陣だそうだ。


 逃がさないつもりだったのは俺だけだったようだ。まあ無理なら仕方ない。防衛自体は余裕で成功だったので良いだろう。


 早速捕まえた刺客を配下にした。


 魔物にやられた三人はゾンビになった。ジミー達が捕まえた二人は上級アンデッドになった。HPをゼロにして殺さずに気絶させて捕まえたそうだ。さすがジミーだ。気が利く男だ。


 できれば全員上級アンデッドにしたかったが、魔物にそこまで細かい指示はできないので仕方がないだろう。


 捕まえた二人の職業は暗殺者だった。若い男と若い女だ。何気に初めての女性配下だ。いやもちろん何もしないが、今は仲間もいるので嫌われるようなことはしないぞ。


 話をきくと、二人はレイライン王国にある暗殺組織に所属していて、依頼者のことはハッキリ知らされていないが、まず間違いなく侯爵家だそうだ。

 依頼内容は、この家を調査して俺かギルバーンがいれば暗殺すること、もし侯爵がいれば救出することだそうだ。

 俺のステータスやユニークスキルのことも知っていた。


 それ以外の情報として、侯爵家は、ゴルドバ商業連合国に対して、俺とギルバーンを指名手配することと、ここに潜んでいる可能性が高いため協力することを要望しているらしい。

 しかし、ゴルドバ商業連合国側の反応が鈍く、指名手配や協力は得られていないらしい。

 これらの情報はおそらくここの町の上層部にも伝わっているそうだ。


 なぜ、ゴルドバ商業連合国は協力しないのか疑問に思ったので、侯爵達に聞いてみた。


 レイライン王国とゴルドバ商業連合国は仲が悪いそうだ。

 レイライン王国は元々横暴な貴族が多いため、商人達から嫌われていて、貴族のいない商人の国であるゴルドバ商業連合国からも嫌われているらしい。レイライン王国も商人を下に見ていて、商人が治めるゴルドバ商業連合国の上層部のことも下にみているそうだ。

 そういうわけで、レイライン王国の貴族が協力要請しても、適当に濁してまともに対応しないらしい。レイライン王国も苦々しく思っているが、ゴルドバ商業連合国は多くの国が拠点を置いているため、各国との関係もあり、攻め込むこともできないので、何もできないそうだ。それが無ければ攻め込んでいただろうと言われているらしい。

 それとレイライン王国は周辺の国すべてと関係が悪いらしい。

 良識派の中心人物だったメルベル侯爵がいなくなり、さらに悪い方向に進む可能性が高いそうだ。


 やはりレイライン王国は馬鹿なのだろうか?


 しかしレバニールの町に知られているのは問題があるな。さすがに死霊術士がいると聞けば警戒するだろう。


 何か対策はないか配下に聞くと、当面は刺激しないように様子見だそうだ。説明を求められた場合は、どうせ知られているので、一方的に討伐されそうになったことを正直に伝えて、犯罪はしないと説明し、認めてもらう方向で考えているそうだ。

 万一町からも討伐隊が来るようなら全力で撃退する方針だ。国レベルの軍がくるようなら森の奥に逃げる。


 現在は配下が町に行く際は、侯爵家の騎士や兵士は鉄仮面をつけて顔を極力見せないようにしている。侯爵家の諜報員に見られないためだ。

 そしてできるだけ白っぽい装備にして、鉄仮面も白く塗った。白仮面とか言われているそうだ。アンデッドを連想しづらいようにだな。

 それと元盗賊の配下達などは顔を見られても良いので町の人に愛想よくして笑顔で対応させている。

 死霊術士のことは町の人には知らされないだろうから、町の人から嫌われなければ何とかなる想定だ。噂になっても町の人が信じなければ問題ない。多分。


 まあ効果の怪しい対策しかないということだな。出たとこ勝負だ。


 ちなみに俺が町に行くときは一応変装している。髪を隠すターバンのようなものと目を隠す変な色のサングラスっぽいものをつけている。サングラスは凄く高かった。高級品のようだ。逆に怪しい気もしているが、似たような恰好の人もたまに見かけるので多分大丈夫だろう。南東の大陸のファッションらしい。




 そうこうしている間に次の刺客がきた。


 そして今回の刺客は塀の前で中の様子を伺っているところを、配下にした暗殺者が発見し、配下の魔物と上位戦力で取り囲んで一網打尽にした。さっそく前回配下にした暗殺者が役に立った形だ。さすが暗殺者、刺客の行動を見抜くのがうまい。

 今回は情報を取られずに済んだと喜んでいると、暗殺者達からおそらく遠くから見ていた敵がいただろうと言われた。 ・・・やはり俺は考えが甘いようだ。


 今回配下にしたのは、暗殺者3、盗賊1、ゾンビ6だった。ゾンビになった刺客には神官や戦士も混ざっていたらしい。アンデッドと魔物対策要員だそうだ。素人がいたから見つかりやすかったようだ。

 浄化されたら負けるかもしれないので、神官は最初に不意打ちキルしたそうだ。配下にしたかったがしょうがない。

 配下にした暗殺者と盗賊に話を聞くと、やはり魔物がいることは知られていて、今回は戦士や神官が魔物やアンデッドと戦って敵の目を引き付けている間に、暗殺者が侵入する作戦だったようだ。

 じゃあ何で一緒にいたんだよと思ったが、まずは塀の中の様子を覗いて情報共有してから別れる予定だったそうだ。なんか雑な気がするが、素人が混ざっているとこんなものなのだろう。




 そしてまたしばらくすると、今度は留守中に侵入者があった。


 その侵入者は、なんと誰にも気づかれずに侵入し、侯爵に接触してきたそうだ。予定通り侯爵と執事長が捕まったフリをして油断させて薬で眠らせて捕らえたらしい。

 方法は、睡眠と麻痺の効果があるお香を準備していて、明かりに火をつけるフリをして明かりと一緒にお香に火をつけて捕らえたそうだ。ちなみにアンデッドには睡眠と麻痺は効かないらしい。


 ギルバーンは首を切られて死んだフリをしていた。HPはゼロだ。ゴブリンの補充に一人で倉庫にいたところを突然首をはねられたらしい。


 俺がいたら俺も気づかない内にやられていたかもしれない。かなり危なかった。いや俺がいれば一緒にいるノワリンや暗殺者が気づいたかもしれないが、かなり不安だ。やはり強力な隠密能力を持っている相手は俺の天敵だ。配下にしてこいつに守ってもらおう。


 さっそく気絶している男を配下にした。


 なんと忍者だった。


 忍者はカゲイチという名前で、大陸の東側出身らしい、濡れ衣を着せられて忍びの里を追われ、大陸の西側に逃げてきたそうだ。

 暗殺組織から悪人の暗殺を請け負って生活していて、近隣諸国では見えない影と言われ恐れられているそうだ。本人談。

 今回、大勢の人間を殺してアンデッドにした悪の死霊術士の暗殺依頼を 受けて、ここにきたそうだ。


 いや間違ってないけども、俺は悪ではないぞ! 正義だ! ・・・嘘です。正当防衛を拡大解釈している自覚はあります。でも悪というほどではないです。


 カゲイチにとっては悪人の暗殺は楽な仕事ばかりで気が抜けていたらしい。生きるためにしていただけで特に仕事熱心だったわけでもなく、今回もギルバーンをあっさり殺せたので油断していたそうだ。

 実際たいした情報も持っていなかった。

 暗殺組織を潰しに行かせるかちょっと悩んだが、さすがに成功するか分からないらしいし、俺の護衛の方が大事なので、そばに置くことにした。

 侵入経路は木の上からだそうだ。確かにうちの真上は木に覆われている。今後は木にも配下を配置しよう。猿の魔物もいるしな。


 ちなみに外出して帰る前には、配下情報のスキルで拠点の配下のHPが減ったりしていないか確認するようにしている。ギルバーンのことは気にしていなかったので気づかなかった。今後はギルバーンも確認するようにしよう。




 そしてまたまた刺客がやってきた。



 侯爵家は諦めが悪いようだ。

 俺はため息を吐きながら、報告に来た執事長の話をきいた。


 


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