第31話 プロポーズと魔物の壁


 順調に配下集めもレベル上げも進み、充実した毎日を送っていた。


 そんなある日、いつもどおりレベル上げと配下集めを終え帰宅すると、配下から重要な報告があると声をかけられた。


 そんなことを言ってくるとは珍しいと思いながら話を聞くと、なんとレバニールの町でメルベル侯爵家の諜報員を捕らえたというのだ。


 とうとう侯爵家に居場所がバレてしまったか・・・

 平和な生活も終わりなのか。俺に平和な暮らしを長く続けるのは難しいのだろうか・・・


 落ち込みながら配下に連れられて倉庫に行くと、猿ぐつわと目隠しをされて縛られている男がいた。

 この男は配下の兵士の友人の諜報員で、口の堅い男であるため、配下アンデッドにして情報を得た方が良いと考え捕らえたそうだ。

 配下にせずに情報をしゃべらせるには、重い後遺症が残るレベルの拷問が必要らしい。怖いよ!

 男は上級アンデッドのことを良く分かっておらず、行方不明になった友人を見つけて話しかけてきた様子だったそうだ。


 捕らえて抵抗できない者を殺すのは精神的にくるものがあるが、俺や仲間が危険になるので、配下にするしかない。心の中で今更な言いわけをしつつ実行する。


 死体収納!取り出し!配下作成!


 暗く光る魔法陣が死体の下に現れ、黒い光が死体を包む。


 男はゆっくりと起き上がった。


 配下になった男の拘束をといて話をきいた。

 男は、この町にピンクブロンドの髪でカイゼル髭の貴族が隠れ住んでいるという情報を得たためやってきたそうだ。侯爵家では、行方不明になった侯爵達の捜索も行っていたらしい。侯爵達は死んだ可能性は高いものの確定ではないと考えたためだ。ピンクブロンドでカイゼル髭の貴族は、知られている範囲ではメルベル侯爵以外いないそうだ。


 ・・・まあ一人だけ派手な色の髪だしな。しかし、一応口止めはしていたが、やはり情報は伝わってしまうようだ。目撃者もそれなりにいるしな。

 侯爵達も身内にはピンクブロンドが多いから失念していたようだ。まあ隠れ住むことに関しては素人だから仕方ない。


 現在レイライン王国では、俺とギルバーンが死霊術士として指名手配されていて、俺のユニークスキルの情報は、混乱を避けるため市民には伏せられているが、上層部や関係者には知られているそうだ。


 それと侯爵家は、上級アンデッドのことをよく分かっていないようだ。俺のステータスに表示されていたことと、そういう種族がいることは知っているが、具体的にどういう存在なのかは知らないらしい。強いアンデッドだろう程度の認識のようだ。

 死霊術士が上級アンデッドを作れるという情報も知られておらず、俺のステータスに表示されていたので作れるだろうと思われているだけだそうだ。アスカさんは配下作成は鑑定していないようだ。

 ギルバーンについても何者なのか把握していなかった。アスカさんはギルバーンと農家軍団も鑑定していなかったようだ。上級アンデッドの可能性も考えてはいるようだが、アンデッドとは思えない言動だったことから、仲間の可能性も高いと考えられていて、ギルバーンも強力な力を持っているのではないかと警戒されているそうだ。実際には無職だが。


 アスカさんは死体収納の詳細と俺のステータスしか見ていないようだ。

 あまり鑑定されていないことを不思議に思ったが、執事長によると、鑑定士は業務で命令された場合と緊急時以外は人間の鑑定をしないよう厳しく言いつけられているので、とっさに鑑定したりできなかったのだろうということだ。職業の有無とユニークスキルの詳細を調べることしか命じていなかったそうだ。


 なるほど。いろいろあるんだな。


 諜報員の男は、行方不明になった友人の兵士を見つけて、しばらく観察していたが、話し方や仕草から間違いなく本人であり操られている様子もないことから、事情を聴くために接触したそうだ。話しかけた後も間違いなく友人本人であったため油断したらしい。


 上級アンデッドが、生前の記憶を持っていることも、生前と同じように振る舞えることも知らなかったそうだ。


 しかしこの男はそれなりに優秀であったため、念のため接触する前に状況報告の手紙を送ったそうだ。


 ・・・もうここが調査されるのは確定か。いやこの諜報員が勘違いだったと報告すればいけるか?


 男によると、勘違いだったと報告しても諜報員が予定どおり戻らなければ確実に疑われるし、戻っても色々アンデッド対策がされているため、すぐバレるだろうということだ。


 スパイとして送り込むのも無理か。時間稼ぎのため偽装報告はさせようかな。


 配下に相談したところ、こちらが高度に人を操れることが見抜かれるため、偽装報告はしない方がよいそうだ。幸いこの諜報員は配下の兵士の話し方や仕草までは細かく報告していない。配下アンデッドが生前の記憶をもつことや生前と同じ振る舞いができることを知られていないのは大きなアドバンテージだそうだ。


 確かにそうだな。死体収納の詳細を知られてしまった今、情報戦で有利なのは上級アンデッドの詳細が知られていないことくらいだ。

 探せば文献や知っている人が見つかる可能性もあるが、普通の死霊術士は上級アンデッドを作るのは大変だから過去の事例は少ないだろうし、生前の記憶があるかどうかなんて鑑定では分からないから、まだ誰にも知られていないかもしれない。普通はアンデッドを見つけたらすぐ浄化するから、記憶の有無なんて調べる余裕はないだろうしな。拷問も効かないし。


 あとは上級アンデッドのことだけじゃなく、ヨゾラさんとユリアさんが仲間になったことも大きいか。特に無敵バリアは強すぎだしな。


 ・・・いやでも、侯爵家から刺客が来ることを伝えても仲間でいてくれるだろうか。内緒にするのは二人が危険すぎるし、内緒にしたら協力を得られないから意味ないしな。


 うーん。話すしかないが、気が重い。見捨てられたらどうしよう・・・泣いちゃうぞ。


 ・・・いや、二人とはうまくやれている。見捨てられる可能性は低いはずだ。問題は二人が狙われるかもしれないことだな。


 とりあえず善は急げだ。二人に話してみるしかない。


 最近は俺の家を待ち合わせ場所にしているので、呼び出す必要はない。

 俺はさっそく翌日家に来た二人に、大事が話があると伝えた。



「何よ話って。また何か変な事考えたの?」 ヨゾラさんは、またしょうもない話を聞かされると思っているような態度だ。ユリアさんは純粋になんだろうと思っているみたいだ。どっちも軽い感じだ。めっちゃ真剣な顔してるのになんでだよ!

「実は・・・侯爵家の諜報員が町に来たんです。」

「え?! ・・・それって前にあなたを殺そうとして返り討ちにしたっていう?」 二人は驚き、真剣な顔になった。

「そうです。配下が諜報員を町で捕らえました。今から説明します。」


 俺は状況を説明した。


「・・・なるほど。・・・それでどうするの?」 ヨゾラさんが睨んでくる。何でだよ。

「えーと。その・・二人が危険になるかもしれなくて・・その・・・」 くそ!睨むなよ!言いづらい!緊張する!

「・・・ここらで潮時ということかしら。危険だからパーティー解散ってことね。」 え!?違う!誤解だ!

「そんな・・・」 ユリアさんまで!?

「待って!見捨てないで!・・・そうじゃなくて! あの・・・」 ヤバい!何言ってんだ混乱してきた。

「見捨て・・って、もう!じゃあ何なのよ!」 ヨゾラさんは赤くなっている。

「落ち着いて・・・」 ユリアさんはオロオロしている。

「僕と一緒にこの家に住んでください!!」

 やべ!プロポーズみたいになった!恥ずかしすぎる!

「え!? ちょ、急に何言ってんの!おかしいでしょ!」 ヨゾラさんが真っ赤になって文句を言う。

「この家に? つのっちちゃん達と一緒に?」 ユリアさんはある意味冷静だ。

「へ、変な意味じゃなくて・・・危険なので・・・安全のために・・・」 やばい変な空気になっちまった。多分俺の顔も赤い。恥ずかしい。

「え? あ!もちろん分かってるわよ!変な言い方するんじゃないわよ!」 怒るなよ。めっちゃ顔赤いぞ。やっぱプロポーズだと勘違いしたのか? 俺の方が恥ずかしいわ!

「まあまあ、落ち着いて。」 ユリアさんは余裕だ。


「・・・コホン。ええーと、それでどうでしょうか。お二人とも。この家も部屋が増えましたし、配下が24時間守るので、町より安全だと思うんですよね。今のところは二人のことは知られていないはずですが、いつ知られるか分かりませんので、えー・・できればこの家に・・一緒に・・・」 やべ、またちょっと思い出して恥ずかしくなってきたぞ。

「・・・どうする?」 赤い顔でヨゾラさんがユリアさんに尋ねる。

「私は良いと思うけど・・・」 ユリアさんが答える。

 やったぜ。ユリアさんは賛成のようだ。

「・・・でもこいつと一緒に住むのよ?」 何かモジモジしている。

 なんだよ今更!しょっちゅう一緒に野営してるじゃんよ!

「私は大丈夫だけど、つのっちちゃん達もいるし・・・」 ユリアさんもちょっと赤くなった。それって俺と住むのが恥ずかしくて赤くなってんの? それともつのっちと住むのが嬉しくて赤くなってんの? ・・・たぶんつのっちだ。


「迷っているヨゾラさんに、良いことを教えましょう。」 仕方ない奥の手だ。これを言えばヨゾラさんも落ちるだろう。焦って言うタイミングを逃していただけだが。

「な、なによ。」 まだ顔が赤いぞ。

「実は、今うちは風呂を作っている最中なんです。」 

「お風呂!!本当に?!」 ヨゾラさんが驚く。

 フフフ。この反応ならいける。よし調子が戻ってきたぞ。

「まだ完成していませんがね。」 まだ完成していないから言ってなかった。

「なんだまだ完成していないのね。・・・でも、住まないと使わせないというのはちょっと卑怯じゃないかしら。仲間としてどうなの?」 いやいやそんなことは言わないよ。

「いえいえ、もちろん完成すれば、家に住まなくても使っていいです。が、しかし・・・」

「しかし何よ?」 睨んでくる。

「住まない場合、お風呂に入ったあと、また汚れた冒険者装備を着て町に帰る必要があります。そんなことがヨゾラさんに耐えられるのでしょうか? どうです?」

「う・・・それは確かに無理かも・・・」 まあ配下に送迎させれば、普段着で帰れるかもしれないが、それは言わない。

「そうでしょう。さあ、決断してください。ユリアさんも説得してください。」 援軍求む。

「え? う、うん。私はつのっちちゃん達と住みたい。」 ユリアさんは、よく分かってなさそうだ。風呂をよく知らないのかもしれない。まあ賛成してくれるなら良いだろう。

「もう!わかったわよ!一緒に住むわよ!でもそういう意味じゃないからね!誤解しないでよね!」 ツンデレみたいなこと言ってるぞ。もっとデレろよ。

「ありがとうございます。歓迎します。」 おれはニッコリほほ笑んだ。計画通り! ・・・いや大分焦り散らかしたが。


 そのあと二人は引っ越し作業をするため、荷物持ちに配下を連れて町に戻っていった。


 いやしかし良かった。

 正直多分OKしてもらえるとは思っていた。ユリアさんはつのっち達を溺愛しているので問題ないと思っていたし、ユリアさんが住むと言えばヨゾラさんもなんだかんだ了承するだろうと予想していた。でも絶対じゃないし、言いづらい内容だったから焦ってしまっただけだ。恥ずかしい。


 でもこれで防衛がしやすいし無敵バリアがいつでも使えるな。これはあくまでも俺の安全と仲間の安全と寿司のためだ。別に一緒に住んで二人に何かしようというわけではない。ラッキースケベを狙っているわけでもない。風呂も別に湯上りの二人を鑑賞したくて作るわけではない。風呂を作れば一緒に住みたいって言うかもなんて、ほんのちょっとしか考えていなかった。俺は紳士だからな。 ・・・べ、別に二人のことなんか好きじゃないんだからね!


 それと未だに手巻き寿司やちらし寿司が食べれていないのも気になる。寿司目当てだと思われたくないので催促はしていない。まだ再現できていないのかもしれないが、一緒に住めば試作品などを食べれるかもしれない。 ・・・忘れてないよな?


 ちなみに今部屋は4部屋あって2つは俺の部屋と侯爵の部屋なので、残りの2つを使ってもらえば良い。ギルバーンの部屋予定だったが、ギルバーンなんてどうでもいい。


 風呂は五右衛門風呂みたいなのを作らせている最中だ。詳しい構造なんて知らないから適当に試作させているところだ。底が金属になっていて下で火を燃やすやつだな。他は木と石だ。

 貴族の家には風呂もあるみたいだが、さすがに執事も風呂の作り方なんて知らなかった。後でヨゾラさんにも何か知っているか聞いてみよう。しかし相変わらず大工は大忙しだ。




 それは良いとして防衛計画を立てよう。


 おそらく侯爵家は、不意打ち等での暗殺を狙って少人数の刺客を送ってくる可能性が高いそうだ。他国に大勢の兵を送るのは難しいためだ。


 まず家の防衛は、今ある柵をそれなりの高さのある隙間の無い塀に変える。そして、外から見えないようにして塀のすぐ内側に魔物配下をびっしり並べて、塀を乗り越え忍び込んできた刺客を不意打ちで即座に撃破する。魔物の壁で家を囲むのだ。

 それですぐ撃破できない相手はノワリンと騎士達と鉄仮面が参戦して撃破する。

 それでダメなら、侯爵と執事長が捕まっているフリをして油断させ一服盛るか、一緒に外に逃げるよう誘導する。

 それも無理なら、ギルバーンだけ倒してもらって俺はいないと思わせ帰ってもらう。

 俺は隠れて、不意打ちができそうなら、どこかのタイミングで死体収納で不意打ちだ。

 見つかってしまったら無敵ドームを使って全力バトルだ。

 全部無理そうならオークや亀で足止めしたり、闇魔法やジミーの粉を使ったりして森の奥に逃げる。逃走ルートも考えておこう。

 こんなところだろう。


 幸い魔物の配下はだいぶ増えているから数は問題ない。魔の森に住む魔法が使えるそこそこ強い猿とか蛇とか狼などが30くらいいる。オークも増えて40くらいいる。もっと増やして強い魔物を隙間なく並べよう。

 塀を作って外から見えないようにするのは、魔物配下を誰かに見られると騒ぎになるからだ。町の人や冒険者がたまたま近くに来たり、様子を見に来たりする可能性がある。来客の可能性もゼロじゃないしな。

 兵士と盗賊は見張りや魔物退治などの通常業務だ。



 これだけ準備すれば家では大丈夫だろう。



 外出する時は、ノワリンと鉄仮面と騎士全員を連れていって、襲われたら全力バトルだ。

 あと、ノワリンとジミーと今回捕まえた諜報員は察知能力が高いので、尾行や不意打ちを防ぐためできるだけそばにおく。家にいるときは、ジミーと諜報員は潜んでいる敵がいないか周囲を調査してもらう。


 やはり外出時が一番危険だな。どうにかしたいが思いつかないから仕方ない。



 死体収納がバレていて、配下の性能がバレていないので、基本配下だよりの作戦だ。

 もう敵が正面から近づいてくることはないだろうから、死体収納のチャンスはこちらから近づかないとほとんど無いだろう。

 あと知られていないのは、仲間の二人だな。特にヨゾラさんだ。

 強敵に対する攻撃手段として、ヨゾラさんを盾にして走って近づいて死体収納することも考えた方がいいかもしれない。女子を盾にするのは気が引けるが、命がかかっている。男女平等だ。適材適所だ。



 メルベル領との距離を考えると刺客が来るまでは、まだ多少時間があるはずだ。しっかり準備をしよう。



 引っ越し作業が終わって、ひと段落したようなので、二人に防衛計画を説明した。二人はちょっと引いていた。


 なぜだ。みんなの安全のためにがんばって考えたのに。やはり魔物の壁は女性に受けが悪いのか? まあ変更はしないが。



 夜は二人の歓迎会を開いた。カニ鍋やステーキを食べながら楽しくお酒を飲む。部屋が気にいったようで、二人も楽しそうだ。もちろんつのっち、ノワリン、グレイも一緒だ。


 ちなみに魔の森の狼は、土属性のせいか無骨な見た目であまりかっこよくかなったので、ランク外だ。今のところランクインする魔物は見つかっていない。



 そうして期待と不安を胸にかかえた初めての夜は、和やかに過ぎていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る