第28話 特別なひとときプラン


 あのあとヨゾラさんは、微妙な顔をして考え、正式な仲間になるかどうかは試しに何回か一緒にレベル上げなどをしてから決めると宣言した。


 とりあえず明日俺の家を見に行く約束をして、今日のところはいったん解散となったので宿を出た。残念ながら懇親会などは無いようだ。2人でよく考えたいのだろう。

 手巻き寿司やちらし寿司は作れるかどうか試してくれると言っていたので、嫌がられているわけではない。・・・多分。



 断られなくてホッとした俺は、鉄仮面のメンバーが待つ向かいの店に入り、スペイン料理っぽいうまい魚介料理を食べながら、上機嫌で酒を飲んだ。


 仲間になってくれるかまだ分からないが、正直今回は大成功である。

 今まで誰にも話せなかったことを色々話して胸のつかえが取れた気がするし、仲間に誘うこともできた。

 手巻き寿司やちらし寿司を食べられる可能性も見えてきたしな。

 それにおそらく俺は寿司のことが無ければ遠慮して二人を誘うことができなかっただろう。そのまま話だけして約束もせずに別れることになった可能性は高い。非モテな俺にはよくある流れだ。やはり寿司は偉大だ。


 



 翌朝、良く晴れていたので、仮面をつけた鉄仮面のメンバーを連れて待ち合わせ場所の町の入口に向かった。


 時計なんて無いから適当だが、ヨゾラさんとユリアさんは時間どおりに待ち合わせ場所に来てくれた。正直ホッとした。後からやっぱり嫌になって来ない可能性もあると思っていたのだ。死霊術士とアンデッドだし。


 二人は、鉄仮面集団を見てドン引きしていた。

 昨日は連れがアンデッドなのは説明したが、鉄仮面のことは言っていなかった。アンデッドは日光に弱いので仕方なくつけていると説明すると納得してくれた。

 ヨゾラさんには、他にもっと良い物は無かったのかと文句を言われた。やはり鉄仮面は女性には受けが悪いようだ。図書館の受付嬢も怖がっていたしな。結構かっこいいと思うんだが。

 それに実用性を考えると鉄仮面より良いものは思いつかない。何か良いのがあったら教えてくれと言っておいた。


 侯爵と執事にまかせている騎士や兵士も、最近は似たような鉄仮面をつけている。やはり鉄仮面より良いものは無いのだろう。野球帽忍者よりは怪しくないし、農家より防御力が高いからな。


 俺の家に着いたので、二人に家を案内した。


 俺の家だが住み始めたときよりも結構変化している。まず広く敷地を囲った木の柵ができた。強い魔物は防げないが、ゴブリンを防げてオークを多少足止めできれば守りやすくなるらしい。


 そして作業場や倉庫、木材置き場など建物が増えた。家と違い見た目を気にせず生木で作った感じで、生えている木を柱代わりにしていて結構でかい。木を切ったら日が差しちゃうからね。あと井戸もできた。

 家より倉庫などを優先したのは、作業効率が上がるので長い目でみれば早いのと、小さい家一つだとこの人数が住んでいるには明らかにおかしいので、とりあえず大きい建物をたてて、そっちに騎士や兵が住んでいると思わせるためだ。それでも怪しいが、まずありえない状況を、怪しいけどありえる状況にしたそうだ。


 そして家も部屋が一つ増えた。増えた部屋は侯爵の部屋という設定の部屋だ。別に豪華ではないけどな。もう一つ部屋が増えたらギルバーンの部屋にする予定だ。表向きの主は侯爵で、裏の主がギルバーンで、真の主が俺という三段構えだ。


 侯爵の部屋は実際には未使用なので、何かあったときに二人を泊めることも可能だ。二人を泊めることも可能だ。大事なことなので二回言った。心の中で。心の中でしか言えない。


 二人に泊まっていけなどとは俺からはとても言えない。ラノベ主人公のように会ったばかりの女性と一緒に住み始めたりするのは俺には無理だ。

 こういう部屋もあるよと匂わせるだけで精一杯だ。


 部屋だけでなく、小さい暖炉もできた。そしてウサギの毛皮の座布団、スリッパ、ラグなどもある。簡単な革製品が作れる兵士がいたので、余っていたウサギの毛皮で作らせたそうだ。家の手伝いでやっていたらしい。

 それと執事長が針仕事ができたので、カーテンやテーブルクロスなどもある。若いころメイドさんの針仕事の手伝いや貴族女性の趣味の刺繍の手伝いなどで覚えたそうだ。女目当てだな。

 おかげで家の中がかなり良い感じに見えるようになった。女性が見ても印象は悪くないだろう。ちなみに全部配下が勝手にやった。俺にこういうセンスは無い。いつの間にかいい感じになっていた。



 配下に建てさせたと言って見せて回ると、二人は感心していた。

 ユリアさんはちょっと配下を見て怖がっていたが。


「あんたの配下めちゃくちゃ便利ね。人間にしか見えないし。」 ヨゾラさんが感想を言った。

「そうでしょう。とはいえ人間の配下は増やすつもりは無いので、増やす予定の魔物の配下はこんなに便利ではないから、これ以上は無理ですけどね。」 ユリアさんがちょっと怖がっているので人間を殺したりしないよアピールもしておく。

 そしてメインイベントだ。

「よし!じゃあ家の案内はここまでにして。俺の自慢の配下を紹介します。」 俺はおもむろに二人に言った。

「え? あの侯爵やら執事やらじゃないの?」

「あんなのはオマケですよ。」

「ひどっ!」 なんか言っているが、無視して進めよう。

「ではお気に入り配下ランキング第三位から!」


「じゃん!」 目の前にグレイが現れた。相変わらずかっこいいぜ。


「わっ!」「ひゃ!」 驚かせてしまったようだ。

「びっくりした!どこから出てきたの?!」 

「死体収納から出しました。ハイイロオオカミで名前はグレイです!」

「おー! へ~。いいじゃん。私犬好きなのよね。触ってもいい?」

「どうぞ。グレイお座り。」 お座りするグレイ。

「お利巧ね!でも毛はゴワゴワだわ。ちゃんと洗ってる?」 ヨゾラさんがグレイを撫でた。ユリアさんも恐る恐る撫でた。

「洗ってもゴワゴワなままですね。シャンプーとか無いんで。」

「まあそうよね。ところでグレイは強いの?」

「いえ弱いです。メンタルケア要員です。」

「ああ・・・お気に入りってそういうこと。」 二人が哀れみの目でこちらを見てくる。いやそんな深刻な状況じゃないからね。


「気を取り直して。続いては、お気に入り配下ランキング第二位!」

「わくわく」 結構期待しているようだ。ノリが良くて助かるな。


「じゃじゃん!」 目の前に黒豹のノワリンが現れた。でかいしかっこいいしかわいいぜ!


「でっか!」「きゃ!」 また驚かせてしまったようだ。

「うわ~。これは見ただけで分かる。めちゃくちゃ強そう。」 ユリアさんはめちゃくちゃ怖がっているが、ヨゾラさんは全然怖がっていない。物怖じしない子だね。

「黒豹のノワリンです!うちの最高戦力ですよ!」

「ノワリンってなんか見た目に反してかわいい名前ね。」「ノワリン・・・?」 なんか二人とも名前に微妙な反応しているな。良い名前だと思うんだが。

「いえいえ、こっちの角度から見るとかわいいんですよ。ぴったりな名前です。」

「そ、そうかしら? まあちょっとかわいい・・・かも?」 まさかノワリンのかわいさが分からないのか? そんな馬鹿な!まあいいノワリンは見た目だけじゃない。

「ノワリンは撫で心地良いですよ!ささっ撫でてみて。」 自慢の毛並みをご堪能あれ!

「そう? じゃあ試しに。・・・おお~!確かにこれは良い触り心地だわ!」 ヨゾラさんは大喜びだ。

「そ、そうなの?・・・じゃあ私も。わぁ。」 怖がっていたユリアさんも笑顔になった。

 やはりノワリンは最強だな。


「それでは最後!いよいよお気に入り配下ランキング第一位!」

「これ以上いったいどんなのが?」 


「じゃじゃじゃ~ん!」 目の前にチョコンとつのっちが現れた。文句なしのかわいさだ!


「きゃ~!」「かわいい・・・」 女子のハートをがっちりキャッチ!さすがつのっちだ!

「ツノウサギのつのっちです!これは皆納得の第一位でしょう!」

「ぶふっ!つのっちって」「つのっち。かわいい。」 ヨゾラさんは名前を聞いて笑っている。なぜだ。ユリアさんは名前を気に入ったようだ。いい名前だよね。

 二人とも俺が何も言わなくても撫でている。

「ぶぅ」 鳴き声もかわいい!


 二人がつのっちに夢中になっている間に、俺はバーベキューの準備状況を確認した。

 この後仲を深めるためバーベキューを行うのだ。


 昨日酒を飲んで帰ってきてから、二人を家に迎えて何をするか何も考えていなかったことに気づき、慌ててこういうのが得意そうな執事2人に相談したのだ。


 そして出した結論が、これだ。



 森の中でかわいい動物たちと戯れながらバーベキューを楽しむ特別なひとときプラン

 シャララ~ン



 そう、今日の主な目的は、二人を接待することだ。二人に仲間になってもらうためだ。


 元々つのっち達は見せるつもりだったので、普通に見せれば良いと思っていたが、執事2人の意見はそれでは弱いというものだった。

 というわけで、かわいい配下を盛り上げながら紹介し一緒にバーベキューをして、配下のかわいさと便利さをアピールするということになった。


 食事がバーベキューなのは、うちの料理係は町の店ほどの腕はないので、普通の料理を出しても印象が弱い。そこで、シンプルで美味しくて特別感のあるバーベキューになったわけだ。バーベキューは準備や後片付けに手間がかかるので普通は特別な時しかやらないが、配下がいれば毎日やっても問題ないというのもアピールポイントだ。


 幸い今日は晴れていて過ごしやすく、森の中も明るいのでバーベキュー日和だ。天気が悪いと寒いし薄暗いからね。念のため寒さと明るさ対策のたき火も用意してある。農家消防隊もいるぞ。森の火事はヤバいからな。まあバケツ消化だが。

 バーベキュー台などという便利なものはないので、建材の石を積んで作った囲いの上に網を乗せている。逆に雰囲気があって良いが、やはり手間がかかる。配下なしではやらないだろう。


 イケメン配下に接待させるという案も考えたが、あからさますぎて逆に嫌われるかもしれないし、俺が見たくないので、イケメンは無しにした。


 その点、かわいいとおいしいは狙いがバレても嫌われないのがポイント高い。つのっちはイケメンより有能なのだ。


 配膳などは主に執事長がやり、焼き加減が難しい魚貝などは料理係が焼く、その他農家軍団がお手伝いだ。イケメン執事は後方で監督だ。イケメンは前に来させない。




 さて準備ができたので、つのっちに夢中になっている二人を呼ぼう。


「お二人さん。バーベキューの準備ができましたよ!」

「えっ!バーベキューやるの?!豪華ね!」「わぁ!」 正気に戻った二人がこちらに来た。

「つのっち、ノワリン、グレイ、こっちにおいで!一緒に食べよう!」

「ぶぅ」「な~う」「ウォン!」

 つのっち達も寄ってくる。

「この子たちも食べるの?」

「はい。肉を食べるとMPが回復するスキルを持っているんです。」 死体喰いをマイルドに説明だ。

「へぇ~。いいわね。一緒に食べましょ!」 ヨゾラさんは喜んでいる。

「すみません。ご馳走になります。」 ユリアさんも笑顔だ。


 わいわいと串に刺した肉や魚貝や野菜を焼きながら食べ、つのっち達を撫でてご満悦なお二人に話しかける。

「ふふふ、どうです? うちの配下たちは、かわいいし便利でしょう。」 ここらで仕掛けよう。

「そうね。何よその笑いは。」 ヨゾラさんが怪しむような目をむけてくる。

「仲間になれば今後もいつでも撫で放題、バーベキューし放題ですよ? 最高でしょう。」 こういうこと言ってみたかったんだよね。

「ちょっと!ずるいわよ!そういうやり方は!」 少し怒ったように言われた。ちょっと早まったか?

「撫で放題・・・かわいい・・・」 つのっちに夢中なユリアさん。フッこっちはあと一息で堕ちるな。 ・・・相手は俺じゃなくつのっちだが。

「ほらほら、ノワリンが肉を食べたがっていますよ。ノワリンおいで~。」「な~う」

 ノワリンが二人にすり寄る。

「わ~」 ユリアさんがうっとりする。

「ちょっとユリア!しっかりして!」 言いながらもノワリンを撫でている。

「ヨゾラ・・・」 どうやらユリアさんは堕ちたようだ。ユリアさんがヨゾラさんをじっと見ている。

「もう!わかったわよ!仲間になるわよ!でもレベル上げがうまくいかなかったら別れるからね!あと変な演技やめなさい!」 ヨゾラさんも堕ちた!


「よっしゃ!!!」 これで念願の仲間と手巻き寿司とちらし寿司を手に入れたぞ!!!

 俺は思わずガッツポーズした。


「あんた喜びすぎでしょ。こっちが恥ずかしくなるわよ。」 顔を赤らめるヨゾラさん。

「ふふふ。つのっちちゃん達もよろしくね。」 ほほ笑むユリアさん。



 こうして俺たちは仲間になった。


 木々の隙間から差す光が、まるで祝福するかのように美しく揺れていた。



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