第26話 魔の森の死霊術士


 アンデッド馬のヨカゼに乗って東へ向かって走ること10日あまり。


 レイライン王国から逃げている時とは違い、雨が降ったら1日中寝ていたり、町に寄って不味い名物を食べたりしながら、気楽に旅をした。



 そして目的地である小さな港町に到着した。町の名前はレバニールというそうだ。遠くから見た町は思っていたより発展していて生活に不便することはなさそうだ。


 初めて見る異世界の海は美しく、キラキラと輝く薄いブルー海の上に漁船らしい小さい船が動いていて、遠くには大きな帆船が東に向かうのも見える。


 さっそく俺は町に入り、すぐに適当な食堂で魚を食べた。

 普通の焼き魚セットのようなものだったが、久しぶりに食べた海の魚に大満足だった。


 そのあと俺は、一旦町を出て、配下達と作戦会議をすることにした。


 この町に来るまでに考えていたことがある。それは、



 町ではなく森に住もう



 ということだ。


 どういうことかというと、この町に来た主な理由は魚と魔の森の強い魔物を配下にすることではあるが、それ以外にも、刺客や討伐隊が現れた場合に日の差さない森の中であれば晴れた日でも全力で戦闘できること、万一勝てない場合は魔の森の奥に逃げれば見つかりにくいことなどの理由がある。

 そして、ここに来るまでの旅の野営で、配下が充実した今なら、森の中で安全に寝泊りできることに気づいたのだ。

 むしろ配下を出しづらい町の中より安全かもしれない。今まで町で人間に襲われたことを考えれば町は意外と危険だからな。

 それに町で大勢の配下を出して住もうと思ったら、お金もかかるし、集団で日光を避けていたらすぐバレるだろう。

 これらの理由から森に住んだ方が良いと判断した。


 もはや俺は誰も来ない人里離れた森の中で暮らすことも可能なレベルだ。その方が安全かもしれない。だが、さすがに俺もたまにはうまい物を食いたいし、買い物したり遊んだり酒飲んだりしたいので、町から離れるのは嫌だ。


 それと俺は、配下がいればもう働かなくて良いということに気づいたのだ。いやレベルアップや強い配下を増やす作業はまだするが、お金は俺が稼ぐ必要は無いという意味だ。配下にやらせる。

 本格的な冒険者活動や町で働かせるのは配下だけでは不安だが、森で倒した魔物を売りに行くだけなら配下にまかせておいても何も問題ないと思う。


 というわけで、俺は町に近い魔の森の適当な場所に勝手に家を建てて住もうと思った。


 材料を町で買って大工に建てさせよう。いや大工が常駐するならその辺の生木で建てて歪んだら修復しながら住んでもいいかもな。その方が金がかからなそうだし。


 家が完成するまでは、野営したり宿に泊まったりしてダラダラしよう。



 そう決めて一応配下に相談したら、侯爵家の配下たちから一部修正意見が出た。


 意見の内容は、町に森に住む許可を取るべきだということだ。


 なぜかというと、勝手に住んだ場合、町に都合が悪い位置だったり、冒険者の通り道だったりした場合にトラブルになるし、町を統治する側からすると謎の集団が町の近くに住み着くのは見逃せるものではないので、必ず調べにくるそうだ。

 町と接触しないのであれば、見つからない場所に住むことで回避できるが、町で売買をするなら見つからないのは不可能なので、突然調べにこられるより事前に説明して許可を取った方が良いということだ。


 なるほどな。統治者側の視点というやつだ。しかし問題は許可がとれるのか、怪しまれて問題が起きないかということだが、侯爵達にまかせれば多分何とかなるらしい。


 作戦はこうだ。

・執事長が騎士を何名かつれて役所に行く。

・とある高貴なお方が森の中に家を建てて住むことを希望しているので許可を出すよう要請する。

・当然理由は言えないが、町に迷惑をかけることはない。

・何も起きないと思うが万一何か起きたとしても町の外なので町は関係ないという対応で問題ない。

・当然このことは広めないように。詮索もしないように。

 みたいな説明をして、その後、侯爵が高級宿で町の責任者と面会する。という感じだ。


 ・・・すごく貴族的です。


 そんなんでうまくいくのか不安に思ったが、この国は商売に悪影響がなければうるさく言わない国風なので大丈夫だろうとのことだ。

 死霊術士についても、バレれば警戒はされるが、商売に関係する能力でもないので、大人しくしていれば最悪バレても問題ない可能性は十分あるそうだ。


 うまくやる自信があるようなので、配下にまかせて送り出した。気になるが俺は足を引っぱるのでついて行かない。上級貴族と上級貴族に仕えるエリートの実力を信じることにした。



 ちなみにこの国は商業連合国なので、役所は商業ギルドで町の長は商業ギルド長だ。国は大商人達の議会が治めているらしい。日々利権争いにいそしんでいるようだ。それでいて不正はそれほど無いらしい。国の関係者はみんな金持ちだからはした金では言うことをきかないからだそうだ。

 国の上層部は合法的に儲けているから不正はしない良い国らしい。まあ法律を決めるのが自分たちだから全部合法にできるというだけだろう。



 どうやらうまくいったようで、家を建てて良い範囲を教えてもらい、倒した魔物の買い取りの約束もしてきてくれた。冒険者登録しなくても許可証を見せれば冒険者ギルドで買い取ってくれるそうだ。



 その後数日かけて、家を建てる場所を決めたり、建材を購入して運んだりして家を建てる準備をした。

 家を建てる場所は昼間でも日がほとんど差さない巨木が生い茂っている場所だ。あえて木を切らずに木と木の間に家を建てる。

 建材は自分たちで運べば以外と安かったので、小さい家一軒分くらいを購入し、資金の様子を見て増築していくことにした。


 そして24時間働き続けるアンデッド大工とアンデッド無職で編成した大工隊によって、1人用の小さい家は建て始めてから3日くらいで完成した。


 ・・・早すぎだろ。まあ一人用だしな。


 さっそく俺はできた家でのんびりダラダラ生活を開始した。人目を気にせずつのっち、ノワリン、グレイと戯れながらの夢の生活のスタートだ。


 警備とお金稼ぎについては、戦闘員の人間配下を常時全員家の防衛に出しておき、配下が普通に倒した魔物は売るよう指示した。普通に倒した魔物はゾンビにしかならないからだ。俺が出かけるときは上位陣を何名か護衛として連れていく。

 さっそく襲ってきた魔物を配下が倒して売ってきていて、収入は問題がなさそうなので、俺は好きな時に狩に行ったり町に行ったりすればいいだけだ。


 あとこの家は1LDKで俺一人が住むには問題ないが、建前上は貴族が住んでいることになっているので、このままだと来客があったときに明らかにおかしい。町には家には来ないよう言ってあるが、念のためゆくゆくは貴族と護衛がお忍びで住んでいても不自然じゃない家にする必要がある。

 なので、侯爵と執事2人と大工隊は常時家に出しておき、残りの金の半分と配下が稼いだ金の半分を自由に使って、自分たちで判断して増築等をしておくよう指示した。十分な資金とは言えないが、その辺の木を切って乾燥させれば木材は買う必要がないので何とかなるだろう。まあ乾燥はかなり時間がかかるらしいから買った方が早いかもしれないが。

 それと人間配下の日光対策装備も適当に買っておくよう指示した。



 こうして俺は魔の森の死霊術士となった。物語に出てきそうな役柄だ。たいてい悪役だけどな。



 魔の森の名は、強い魔物が多いというだけでなく魔法を使ってくる魔物が多く生息していることに由来する。とはいえ浅い場所では、オークなど普通の魔物が多い。しかし、少し奥に行くと、水魔法を使うウォーターモンキー、風魔法を使うウインドスネーク、土魔法を使うグランドウルフなどがいるらしい。さらに奥にいけばシャドウベアやアイスタイガーなどの非常に強力な魔物がひしめいているそうだ。

 冒険者ランクでいうと、日帰り~1泊圏内はCランク、2~5泊圏内はBランク、それ以上は不明というところらしい。


 ようやく俺も魔法を使える配下が手に入るわけだが、問題は魔法で遠距離攻撃してくる相手は俺ではソロ討伐が難しいということだ。

 まあレベル上げより安全を優先してパーティー討伐しながら配下を増やすしかないと思っている。

 しかしレベルが低い状態で遠距離攻撃を受けるのは不安なので、配下にレベル上げに良い、強くて遅い近接パワー型な魔物はいないか調べてもらった。


 すると魔の森ではなく海岸に、割と強いカニの魔物と亀の魔物がいるらしい。こいつらは硬くてパワーがあるため結構強いが、遠距離攻撃はしてこないので、俺のレベル上げにはちょうど良いそうだ。あとカニはうまいらしい。


 さっそく曇りの日に騎士団長、副団長、アックス、ジミーを護衛にして海岸に向かった。青髪はパーティーメンバーから家の門番に降格だ。自宅警備員だ。

 ちなみに他の人間配下は家に置いてきたが、ノワリンやオークなどの魔物配下はいざという時のために常に収納して持ち歩いている。ノワリンは出しているときも多いけどな。つのっちとグレイももちろん常時持ち歩いている。休憩時に毎回出して癒されている。


 海岸をうろついたが弱いヤドカリの魔物とゴブリンばかりで、目的の魔物はなかなか見つからなかった。


 しかしゴブリンはどこにでもいるな。海岸にまでいるとは思わなかった。俺にとってもはやゴブリンはゴミだ。冒険者はやめたので討伐報酬もない。しいて言うなら配下のMP回復アイテムだが、魔法を使う配下がいないので配下のMP消費は基本少ない。強敵にはスラッシュ的な攻撃スキルを使うので多少MPを消費したりするようだが、普通の敵には何も使わないからな。普段はジミーが索敵スキルで少し消費するだけだからゴブリンの死体はあまりまくりだ。ゴミだ。

 ヤドカリの魔物は食えるが、その辺の店でも食えるので1匹だけ食料にして残りは配下に売りに行かせる。


 結局1日探し回って倒せたのは、カニが1匹・・・1杯?と亀が2体だけだった。数は少ないらしい。それでも2レベル上がりレベルは18になったので、十分順調だ。急いでいるわけでもないので、いったん終了し、続きはまた後日にして帰宅した。

 経験値が入る10体までは、休み休み続ける予定だ。まあ、最初の1体目が特に経験値が多いので、両方10体まで倒してもあと2レベルも上がれば良い方だろう。


 ちなみにカニの魔物はでかくて結構動きも速く、挟まれたら胴体を真っ二つにされて即死しそうなハサミもあり、甲羅も硬いらしいので、まともに戦ったらかなり強そうだった。横歩きで隙だらけだったけどな。


 亀の魔物はゾウガメっぽいやつで、甲羅のてっぺんが俺の目線よりちょい上にくるくらいでかいが動きが遅く、強そうな感じは全然しなかった。本当に強いのか聞いてみると、とにかく硬いらしい。物理防御も魔法防御も高いうえにHPも多く、物理で戦うと武器が傷むし、魔法で戦うとMPが足りないし、やられそうになると海に逃げるし、倒すのが面倒らしい。物理攻撃も高く油断しているとHPがかなり持っていかれるそうだ。動きが遅いので人間が殺されることはほぼないため、あまり倒そうとする人はいないらしい。


 とりあえずカニは食べるとして、亀はどうするかな。・・・一応配下にしておくか。

 壁役としてオークより高性能みたいだしな。一応海を浮いて泳げるらしいので、最悪海に逃げる時に使うかもしれない。しかしこんなのに乗って海を泳いでいたら海の魔物に襲われてすぐやられそうだな。海で戦える配下はいないし。こいつに乗るのは本当に最後の手段だな。


 俺はさっそく家に帰ってカニを食べた。焼きガニだ。やはりカニはうまい。夢中で食べたが、でかすぎて足先ひとつで満腹になった。10杯も狩ったら一生カニに困らないな。



 季節は秋も終わりもうすぐ冬らしい。

 この辺は冬でもあまり寒くない地域らしく、魔の森も葉が生い茂ったままだ。葉が落ちて日が差さなくてよかった。

 ステータスが上がると暑さ寒さにも多少強くなることもあり、外に出るのも苦にならない。



 俺は家の前の庭に出て、椅子とテーブルをおいた。

 木漏れ日のもと、配下達が働くのを眺めながらのんびりあたたかいお茶を飲んだ。


 魔の森の死霊術士はのんびり暮らすのだ。


 

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