　俺達の戦いはこれからだ！

　と気合を入れ、打ち切りを回避した俺は、ゴルドバ商業連合国へ向かっていた。

　夜にアンデッド馬のヨカゼに乗って、護衛の黒豹のノワリンとともに東へ走ること数日、いくつか町を通り過ぎ、ある程度メルベル領から離れることができた。

　そろそろ肉以外の食料が少なくなってきたので、偵察と食料補給のため町に寄ることにした。

　そこそこ大きな町についたので、まずは顔が知られていないであろう配下に冒険者ギルドに行ってもらい、俺が指名手配されていないか偵察してもらうことにした。

　ちなみに農家スタイルではない。農家スタイルは人前では見せないようにしている。ギルバーンの部下として見せてしまったからだ。まあその辺の農家も似たような恰好だから大丈夫な気もするが、とりあえず今日は曇っているから大丈夫だ。

　偵察は無事成功した。ギルバーンは指名手配されていたが、俺は指名手配されていないことがわかった。

　アスカさんは俺がやったことだと気づかなかったのだろうか？

　執事長はアスカさんは死体収納の詳細を把握しているようだったと言っていたが、勘違いだったのか？

　侯爵家の配下達に相談してみたところ、俺やアスカさんのユニークスキルについて知っている人が少ないうえに、責任をとれる侯爵家の主要人物がいなくなったため、ユニークスキルの情報を出す決断ができていないだけかもしれないそうだ。責任者が決まれば情報が整理されて指名手配される可能性は十分あるようだ。

　侯爵の跡継ぎは王都にいるので、まだ時間がかかるだろうということだ。

　この国を出た方が良いのは変わらないので、予定どおり食料補給だけして、国外へ向かうことにした。

　しかし俺のユニークスキルの詳細情報が出回る可能性があるのか・・・

　俺のユニークスキルを知っている相手と戦ったことはないが、知られていると対策されてしまうだろうな。やはり遠距離攻撃主体で来るのだろうか？　そうなると基本俺は安全な位置にいて配下で戦って勝つしかないかもな。というかアスカさんは死体収納の射程や視認が必要なことも分かるのだろうか。俺でも検証しないと分からなかったんだが。

　侯爵と執事長にきくと、おそらく分かるそうだ。詳細鑑定パないな。

　とにかくこの国にいるのは危険すぎる。逃げよう。

　そして東へ移動すること数日。レイライン王国とゴルドバ商業連合国の国境付近についた。国境付近には砦のようなものがあったが、長い国境線を封鎖できるはずもなく、念のため配下と相談して巡回の兵士がいないであろう場所を通過して、無事国境を越えることができた。

　ゴルドバ商業連合国は、南に海があり、北にはドワーフ王国、西に俺達がいたレイライン王国、そして東には広大な魔の森が広がっている。

　魔の森は、魔物が強すぎて開拓も通過もできない場所で、この大陸の真ん中にあり、横長の大陸の東西を分断している。

　ゴルドバ商業連合国は大陸の西側地域の一番東の端にあり、なぜ魔の森に隣接している端にある国が商業で栄えているかというと、海路で魔の森の反対側と貿易しているからだ。他にも南東にある別の大陸や、北の山岳地帯にあるドワーフ王国とも貿易していて、西側地域では手に入らない貴重な品、珍しい品が多数集まっている。

　そのため、西側地域の各国はゴルドバ商業連合国に拠点を作り商取引を盛んに行っている。その結果、ゴルドバ商業連合国は、様々な種族、民族が居住、滞在する西側でも非常に珍しい国となっていた。

　俺は、ゴルドバ商業連合国に入ったあとも東へ進み、レイライン王国の国境から離れることにした。

　配下と相談した結果、俺が向かうのは、ゴルドバ商業連合国の首都である大きな港町のさらに東、魔の森に接する地域の海側の小さな港町だ。

　なぜ俺がそこを選んだかというと、レイライン王国の国境から離れるのはレイライン王国からの追手を避けるためだ。首都を避けたのは首都にもレイライン王国の拠点があるので避けるためだ。魔の森に接する地域を選んだのは、魔の森の強い魔物を配下にして戦力増強するためだ。そして、港町を選んだのは魚を食べるためだ。うむ、一番重要なのは魚だな。

　俺はこの世界に来てまだ川魚しか食べていない。それはちょっと日本人には辛すぎたのだ。まあ寿司は無いだろうが魚は食べたい。食中毒の問題がクリアできそうなら試しに自分で寿司を握ってみても良いしな。この国なら米っぽい作物も手に入るらしい。形だけなら素人でも寿司が作れるだろう。10年くらいがんばればうまい寿司ができるかもしれない。うまい寿司のためならがんばれるはずだ。それか寿司職人の転生者はいないだろうか。もしいたら頭を下げて仲間になってもらおう。

　国境を越えて東へ数日進み、そろそろ安全圏というところで大きな町に着いたので、町に入ってみることにした。

　正直野営ばかりするのが嫌になったからだ。配下にまかせっきりの現地人からみれば羨むような楽な野営ではあるが、日本人の俺にはきつかった。いい加減ベッドで寝たいし、うまい物が食べたい。

　かなりの速度で移動してきたので、ここまではまだ俺やギルバーンの情報は届いていないだろうということで、偵察もせずに鉄仮面のメンバーを護衛にして町に入った。

　騎士団長達の方が強いが、護衛にするには目立つので、目立たない装備を買うまではいつもの鉄仮面が護衛だ。・・・鉄仮面も目立つけどな。　まあまだ騎士達には日光対策装備がないからしょうがない。日光対策装備はどっちにしろ目立つしな。

　町はかなり賑わっており、町に入るとまず目に入ったのは、道を歩くエルフだった。

　エルフだよ！獣人っぽい人もいるよ！背の低いごついおっさんはもしやドワーフか？！

　今まで人間しか見たことなかったのに隣の国に来ただけでこれかよ！人間しかいないとかレイライン王国は馬鹿なのか？！

　失礼なことを考えつつハイテンションでキョロキョロしながら歩き、そのへんの屋台の人に聞き、まずはちょっとお高めの宿をとった。大猪10体を売った金貨100枚（１千万円相当）を使う前に逃げたので、懐はあたたかい。

　宿を確保したあと、この町のことを知っているという執事長と副団長に予備の普段着と麦わら帽子をかぶせて出かけ、適当な店で食事をしながらこの町の話を聞くことにした。

　道行く色々な人たちを見ながら、東南アジアっぽい料理を食べて、この町の説明を聞いた。

　この町は首都の港町の北西に位置していて、陸路での貿易の要所で、陸路を使うレイライン王国の商隊と、レイライン王国の北西にあるエルフの国の商隊と、エルフの国のさらに西にある獣人の国の商隊が利用するため、かなり発展している場所だそうだ。

　ちなみにエルフ商隊と獣人商隊はレイライン王国は通らずに、北のドワーフ王国側の国境付近を通過してエルフの国に向かうらしい。レイライン王国を通ると関税がかかるからだそうだ。ドワーフ王国は端を通過するだけならタダらしい。

　やはりレイライン王国は馬鹿なのか？　いや貿易のことなんて知らんけど。

　海路を使う国が多いが、エルフの国と獣人の国は海がないので陸路だそうだ。ドワーフ王国も海はないそうだ。この大陸の北側は険しい山脈なので北側の海は使えないらしい。

　基本南の海側には人間の国があり内陸の山側に他の種族の国があることが多いそうだ。理由はドワーフは山が好きで、エルフと獣人は森が好きなので、海に興味がないからだそうだ。

　・・・本当か？　人間が強欲で貿易とかに有利な場所を無理やりとったとかじゃないのか？　

　聞いてみると、そういう説もあるが人間の国では否定されているらしい。怪しい。

　ちなみにエルフ女性は貧乳スレンダー美人という感じで、ドワーフ女性は背は小さいがロリではなく太めの普通の女性という感じだ。それで良い。それが良い。・・・いや何がだよ。

　しかし、ようやくファンタジーらしい異世界にきた実感が湧いてきたな。まさにラノベ主人公が奴隷ハーレムを作りそうな町だ。

　ちなみにこの世界にラノベのような奴隷制度はない。借金をかたに無理やり働かせたり、軽犯罪の労働刑などはあったりするが、一般人が買えるような奴隷はいない。いや国によっては奴隷はいるらしいが、ステータスが高い人は簡単に脱走、反逆できるため、運用が難しいようだ。

　いわゆる奴隷の首輪みたいなものが無いからだな。いや厳密にはあるらしいが、希少魔道具で国や貴族が厳重管理するレベルだそうだ。まあよく考えたら人を奴隷にして操れるってとんでもない効果だしな。そんなすごい魔道具を奴隷全員に使えるくらい量産できる技術力と工業力があるなら、もっと発展しているはずだ。産業革命前の世界には無理だろう。

　奴隷にするスキルや職業というのも一般に知られている範囲では無いようだ。人を奴隷にして操るスキルなんて死霊術士の配下作成より上位のスキルだろうしな。配下作成は傷つけずに殺す方法がないとゾンビやスケルトンしか作れないし。奴隷スキルはあったとしてもユニークスキルか超レア職業だろう。

　まあ奴隷の首輪やスキルが無いので、ステータスが高い人や特殊なスキルを持つ人は、働かせるどころか捕らえておくことすら大変なようだ。そのため重罪人は基本すぐ殺される。だから俺もすぐ始末されそうだったわけだ。

　奴隷の首輪が無いのも善し悪しだな。

　数日滞在し、米を発見したり醤油っぽい調味料を見つけたりして買い込んでから、東へ向けて再び旅立った。

　俺は良い天気だと思いながらどんよりとした曇り空を見て、すっかりアンデッド基準で考えるようになっていることに気づき苦笑した。

　晴れた空は俺の敵なのだ。