第15話 鉄仮面と冒険者パーティー
領都メルベルに足を踏み入れた俺たちは、まずは防具屋に行くことにした。晴れた日でも外を歩ける装備を探すためだ、それと俺以外ヘルメットをつけていないのでそれも買いに行く。前衛が町の外でヘルメットをつけていないと馬鹿にされるらしいからな。
青髪がこの町には来た事があるそうなので、青髪に案内してもらう。防具屋はギルド前にあるそうだ。ギルド前の防具屋は特に安くはないが品質は問題ないらしい。安くて良い防具屋は地元の人に聞かないと分からないそうだ。知り合いもいないので、ギルド前で良いだろう。
防具屋に入ると営業スマイルのおっさんが出迎えてくれた。鎧は全員装備しているので、まずはヘルメットをみる。普通のヘルメットでは日光が顔にあたってしまうので、光を遮れるような形のものがないか探していると、金属の仮面がついた革の兜があった。顔部分だけ金属で頭全体を覆う部分は革のようだ。仮面部分は上にあげることができるバイザーのようになっていて顔を出して食事もできるようだ。
仮面をしていれば日光を防げるし、隙間から光が入って少し焼けても外からは見えないだろう。威圧感のある見た目も気に入ったので、4人分買うことにした。
パーティー名は鉄仮面にしよう!
つづいて配下3人の手袋を見る。今は手が隠れていないからだ。斧男は革の小手にして、青髪とジミーは革手袋にした。
さっそく物陰でATM君からお金をおろして購入する。割と高い仮面付き兜を4つも買ったので、店員のおっさんもニコニコだ。
よくこんな仮面の在庫が4つもあったな。以外と人気があるのだろうか?
すべて装備して冒険者ギルドに向かう。
斧男とジミーは冒険者登録をする必要がある。斧男とジミーは犯罪者になる前は冒険者だったがその時のカードは捨ててしまってもう無いし、再発行するとバレるので使えない。
再登録してバレないのか聞くと、偽名を使えば大丈夫だそうだ。登録時に謎の装置に手を置いて何か登録していたが、バレないか聞くと、よほどの賞金首でないとわざわざ他の領地のデータと照合することはないそうなので、問題ないらしい。
しかしやっぱりあの装置は指紋だか手形だか個人を特定する情報を記録する装置なんだな。以外とハイテクだ。
4人で鉄仮面をかぶって冒険者ギルドに向かい二人に冒険者登録をさせた。斧男の偽名はアックスで、ジミーの偽名はジミーだ。そのまんまだ。ジミーなんて俺のつけたあだ名をそのまま偽名にしている。 ・・・まあいいか。
その後、一番ランクが高い青髪をリーダーにしてパーティー登録をした。もちろんパーティー名は「鉄仮面」だ。
パーティーのトレードマークみたいにすれば顔を隠したい時に自然に顔を隠せるというメリットもある。
しかしさすがに受付では顔は見せる必要があるようで全員仮面を上に上げて顔を見せた。まあ外に出た時に日光が防げれば問題ない。
特に問題なく登録は完了した。やはり犯罪捜査はザルなようだ。
ちなみに美人受付嬢はいなかった。あたりまえの以下略存在証明QEDだ。
あとヤーバンさんのように俺の直観にビビッとくるおっさんもいなかった。非常に残念だ。しかし人脈作りはどうするかな。
そういえば「俺はヤーバンさんの知り合いだぞ作戦」はすっかり忘れていたな。青髪にからまれた時に言ったらどうなっていたか聞いてみた。
手を出す前なら調べて考えたかもしれないが、出した後言われてもやめなかっただろうとのことだ。言っても駄目だったらしい。
まあ緊急時にそんな冗談みたいな作戦を試す余裕もないしな。
どうせまた逃げるかもしれないし、人脈は面倒だから適当に成り行きまかせでいいか。
今日のところは一旦宿をとって情報収集でもしようと冒険者ギルドを出ようとした時だった。
「変な仮面かぶりやがって。おかしな奴らだ。」呆れたような声が聞こえたと思ったとたん。
ドカン!バキバキ! ・・・斧男が男を殴り飛ばしていた。
「喧嘩売ってんのか!ゴミ野郎!」 斧男が怒鳴る。
唖然とする俺。
ヤレヤレという顔をする青髪。
ニヤニヤするジミー。
立ち上がった仲間らしき男たちも豪快に殴り飛ばす斧男。圧勝のようだ。
こんなことをして捕まらないか心配したが、特に大事になることもなく、周囲もちょっと迷惑そうな顔をしていたり、面白がったりしているだけだった。
やっぱり冒険者は荒くれものの不良ばかりなようだ。偏見なんて無かった。
その後、適当な宿へ行き、ちょっともったいないが4人部屋をとった。誰が見ているか分からないから疑われないようにするためだ。
配下に食事は必要ないが、俺一人だけ食事付きにするのも不自然なので、全員食事付きにして4人で夕食をとった。
食事はシンプルなステーキとスープとパンだったが、普通に美味い。
配下達も雑談しながら美味そうに食べている。誰が見ているか分からないので常に人間らしく振る舞うよう指示したためだ。場所によって急に態度が変わったら俺もやりにくいしな。
配下は演じているだけのはずだが、とても演技とは思えない。やっぱりこちらが本性なんじゃないか? 非常に疑わしい。 ・・・まあ逆らわないなら別にいいが。
それと斧男のことは今後は偽名のとおりアックスと呼ぶことにした。下っ端ポーターがパーティーの主力を舐めたあだ名で呼ぶのは不自然だからだ。
ジミーはそのままで良いとして、青髪はどうするかな・・・
青髪はなんだかんだ俺の右腕みたいなポジションになっているが、正直俺は青髪のことが嫌いだ。俺が逃亡生活を送る原因を作った男だし、グレイを斬ったからだ。
生前とは別人らしいが、どうも好きになれない。俺は根に持つタイプなのだ。器が小さい人間なのだ。おっさんになると自分の器の小ささも受け入れ肯定できるようになるのだ。若僧とは違うのだよ。いや今は若僧だが。
というわけで青髪は青髪のままで良いだろ。多少なら怪しまれても問題ない。そこまで悪い感じのあだ名じゃないしな。白ヒゲみたいなもんだ。
そんなこんなで、ひさしぶりに美味い食事をとり、まともなベッドに入った俺は、つのっちを撫でながら大満足で眠りにつくのだった。
ちなみに配下は寝る必要がないので、宿でも夜襲警戒だ。俺はもう町なかでも油断しないと決めたのだ。
翌朝、危機が去ったことでやる気や行動力が低下した俺は、午前中をダラダラ過ごした。
命の危機で一時的にがんばったが、ダメ人間はそう簡単には変わらない。とはいえ碌な娯楽もなく暇だ。昼頃にはダラダラすることにも飽き、腹も減ったので、外に食事に行くついでに午後は情報収集をすることにした。
適当な店に入り、スープパスタっぽい料理で腹を満たしたあと、まずはギルドの資料室に向かった。
ギルドの資料室は、ガストークよりちょっと広いだけでおいてある資料は大した違いはなかったので、周辺の魔物情報だけ確認した。
この辺にはツノウサギはほとんどいないらしい。ガストークが特別ツノウサギが多い地域だったようだ。つのっちとグレイを使った楽な狩はできないな。残念。
その代り森の奥にはそれなりの種類の魔物がいるようだ。ただし、まともに稼ぐには基本日帰りは難しいようだ。ちょっと面倒だな。まあ今の俺なら野営も苦じゃないから問題ないだろう。
魔物情報の確認を終え、ギルドから出る際にまたもやアックスが誰かを殴っていた。だが、もはやどうでも良いという心境になっていたので、気にせず次の目的地に向かった。
アックスがでかいうえに4人全員同じ鉄仮面を被っている俺たちは、ギルドでも町なかでもめちゃくちゃ目立っていた。目立たないようにとは何だったのか。確かに俺は4人の中では目立っていないが、普通の冒険者より明らかに目立っている。アックスは早くも不良冒険者として名前が売れつつあるような気がしているし、もはや手遅れなので、気にせず好きにさせることにした。
鉄仮面達は次の目的地である図書館についた。怖がっている受付のきれいなお姉さんに利用方法をきいてみた。
そう、ここに来てこの世界で初めての美人受付嬢登場である。 ・・・しかし鉄仮面集団にめちゃくちゃビビッている。好感度どころではない。それどころか説明中に男性職員が助けに来て途中で説明者が交代になった。 ・・・悲しい。
説明によると、利用にはギルドの身分証が必要で、利用料は1人30ルクス(銀貨3枚)。万一破損等があった場合は、ギルド経由で請求されるとのこと。一度出ると再度利用料がかかるので注意するようにとのことだった。
あと、できれば仮面は被らず大きな武器も持たずに来てほしいそうだ。
・・・ですよね。仮面はもちろん槍や斧を持ってくる場所ではない。
できればなのは、帯剣した騎士なども利用するので、武器の持ち込みは禁止ではないらしい。
もう微妙な時間だったし、とても入れる空気ではなかったので今日は帰ることにした。完全に自業自得であるが、美人受付嬢を怖がらせただけになってしまった。
図書館の衛兵も入ってから出るまでずっとこちらを鋭い目で見ていた。アックスが殴らないかヒヤヒヤした。
ちなみに文明度の低さの割に立派な図書館があるのは、この国の上級貴族は図書館を建てる風習があるかららしい。良く分からん。図書館を自慢しあったり嫌味を言いあったりするのだろうか?
上級貴族の運営なので、図書館内の治安はすごく良いらしい。何かしたら処刑されるからだ。
すぐにアックスに図書館では大人しくするよう指示した。
・・・危ないところだった。青髪にからまれた時以上の危機だったな!
しかし、やはりこういう場所でないと美人受付嬢は存在できないのだろう。せっかくの数少ない出会いを台無しにしてしまった・・・泣きたい。
とりあえず図書館訪問用の普段着を4人分購入し、時間が余ったので、料理係を出して食材や調味料を買わせたり、買い食いしたりして宿に帰った。
西日がまぶしい宿の窓から町を眺めながら、少し汗ばんだ体を休める。
季節は夏に差し掛かりじわじわと暑さを増していた。
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