第12話 盗賊と馬車


 目が覚めてテントから出ると今日もよく晴れた気持ちの良い朝だった。

 朝日に目を細めながら周囲を見ると見張りが青髪しかいなくなっていた。


 あわててグレイと他2人はどうしたのか青髪に聞くと、テントの裏で日光を避けていると言われた。


 テントの裏にまわると、オオカミと男2人が縮こまっていた・・・・


 ・・・・今度から朝日が避けられる場所で野営する必要があるな。


 二人とグレイを収納し、テントの中のつのっちも収納してから、青髪に荷物をまとめるよう指示した。


 青髪がテントを片付けているのを見ながら不味い保存食の朝食をとる。

 フード付きマントを着ていても横から差す朝日を完全に避けるのは面倒なようで、青髪は不自然な動きで片づけをしていた。


 やはり晴れた日用の服はちょっと考えた方が良いな。


 そんなことを思いながらも準備が終わったので、少し歩いた先にあった木陰で手下に荷物を渡して、今日も青髪から情報を聞きながら東にある貴族の住むおおきな町に向けて歩く。


 この辺りはメルベル領という地域で、治めている貴族はメルベル侯爵で、町は領都メルベルらしい、そのまんまだな。全部メルベルだ。分かりやすいからいいが、町の名前を呼んだら貴族を呼び捨てにしたとか勘違いされないか心配になるな。まあ大丈夫なのだろう。


 しばらく歩くと小さな町があった。ガストークと領都メルベルの間には宿場町が2つあり、この町はガストークを朝一に出れば夕方につくので、普通は一泊目はここに泊まるらしい、俺がガストークを出たのは昼過ぎだったからな。まあしょうがない。


 まだ昼頃だったので、町で全員分のマントと食料の追加分だけ買って、宿泊せずに出発した。

 弁当は売っていなかったので、多少マシなあまり日持ちしない普通のパンを買った。収納しておけば長期保存できるからね。


 そして途中でまた野営をして、一泊した。もちろん朝日が差し込まない場所を選んだ。





 次の日、曇り空の良い天気 (アンデッドにとって良い天気)の下、順調に道を進み昼前くらいのことだった。


 例のごとく青髪と2人で歩いていると、遠くに馬車が止まっているのが見えた。

 馬車の周囲には何人か人が集まっていた。


 特に争っているわけでも無いようなので、通過しようと気にせず近づいていくと、馬車のまわりに立っている人たちは、全員汚らしい服を着てマスクで顔を隠し武器を抜いていることに気づいた。


 見た感じどうやら盗賊のようだ。


 すでに向こうもこちらに気づいていて、斧を持った大男を先頭に10人くらいが、こちらに近づいてくる。


 横をみるとすでに青髪は剣を抜いていた。慌てて俺も槍を構える。

 盗賊なんて見たことないので、念のため青髪に聞くと盗賊で間違いないらしい。

 ちょっと油断していたようだ。すでに逃げられるか怪しい距離なので、戦う覚悟を決める。


 正直、盗賊討伐依頼などを見たときから、こんな展開もあるんじゃないかと想像はしていた。なので、盗賊を殺す覚悟はできている。すでに三人殺している俺に迷いはない。

 油断なく盗賊の持っている武器を確認し、誰も弓を持っていないことに少し安堵する。


 遠距離攻撃がないなら負ける気はしない。


 とはいえ、スキルや魔法がある異世界なので、油断せずに射程に入ったら全力でしかけよう。漫画やアニメのようにのんきに敵と会話をするつもりはない。盗賊と会話は不要だ。

 敵と長々と会話するなんてリスク高すぎだよな。


 槍を構え静かに待つ。


 斧を持った大男が射程に入った!

 大男が何かを言いかけた瞬間に手下2人を収納から出す!

「俺を護衛しろ!」手下に指示を出し、急に人が出てきて驚いて動きが止まった盗賊にしかける!



 死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!



 4人収納!残りはまだ射程外だが、急に人が出てきたり仲間が消えたりして、驚いて動きが止まっている!こちらから近づこう!

 敵に向かって素早く近づき念じる!



 死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!死体収納!



 ・・・・・よし!



 目の前の敵は全員収納した。盗賊は全部で9人だった。

 見える範囲には敵はいない。

 さすがに緊張したが、思いのほかうまくいったな。手下を急に出して驚かせたのが 良かったのかもしれない。 

 ・・・いやまだ油断するな。隠れている敵がいるかもしれない。


 馬車の影や中に敵がいないか、慎重に警戒しながら馬車に近づく。


 ・・・馬車の周囲には何人かの死体が転がっていた。


 死んでいるのは、商人っぽいおっさんが1人、護衛の冒険者っぽい男が3人、盗賊っぽい男が2人だ。生きている人はいない。


 とうやら、盗賊の被害者を助けることはできなかったようだ。

 現実は物語のようにタイミング良く助けることもできないし、美女がいたりもしないということか。世知辛いな。 ・・・いや、初めての旅で盗賊に出会うだけでも十分レアケースで物語っぽいかな。

 そんなことを考えながら現実逃避をすること数分。


 正気にもどり、青髪にこういう場合は普通は死体と馬車はどうするのか聞いてみた。


 盗賊の持ち物は討伐した人がもらって良いらしい。次の町に報告したり死体を運んだりすれば後日謝礼や情報料がもらえる可能性はあるが、面倒なら放置してもいいらしい。 ・・・異世界っぽいな。

 今回の馬車と荷物は、襲われたばかりなので盗賊の持ち物なのか微妙に思ったが、もらって問題ないそうだ。


 とりあえず死体は収納することにした。

 馬車はどうするかな。

 他人の馬車に乗っていたら俺が盗賊だと勘違いされないだろうか? 目撃者もいないし、例のごとく取り調べを受けるのはマズいしな。

 取り調べを受けるのがマズいとなると、被害者の死体も提出できないな。困った。


 馬車を見てみる。馬車は一頭立ての簡素な作りの幌馬車だ。馬は普通に生きている。黒い馬で、特に良い馬という訳ではないのかもしれないが、素人目には十分かっこいい。馬車は邪魔だが馬の配下は欲しいな。乗馬なんてできないが配下なら簡単に乗りこなすことができるのではないだろうか。

 でも配下にするということは殺すということなんだよな。日本人的には食べない動物を殺すのは抵抗があるな。害獣でもないし。 ・・・いや積極的に魔物を殺して有効利用しているし今更か。あまり思いつかないが、おそらく日本でも食べない生物を殺して有効利用は普通にしているだろう。 ・・・蚕とかカブトガニとか?


 まあいい!馬の配下は必要だ!死体収納!



 馬と馬車が消えた。



 ・・・馬車も消えるの? 馬車は馬の装備扱いなのだろうか? おかしくね?


 いや!とにかくこれはすごいことだ!馬車をたくさんそろえれば大量の荷物を運べるし、何ならベッドを馬車に設置して寝室馬車を作れば、野営でも快適に寝られるぞ!キャンピングカー風にして住んでも良いな!夢が広がる!

 どこまで装備扱いで収納できるか余裕ができたら検証しよう!


 とりあえず落ちていた武器も配下に持たせて収納し、周囲には何もなくなったので、出発した。


 少し歩いて気づいたが、そういえば盗賊のアジトとか無いのだろうか?

 どこかで読んだが盗賊は資源らしいからな。アジトに資源があるなら資源採取に行った方が良いのではないだろうか。世界経済のためにも大量の金銭が行方不明になるのは避けなければならないしな!いいわけ完了!


 思い立ったら行動!ということで道から見えない位置まで移動し配下作成だ!

 盗賊を配下にしてアジトの場所を聞くのだ。


 まずはステータスを確認だ。


ーーーーー

名前 ユージ

種族 人間Lv9

年齢 18

職業 死霊術士Lv9

HP 162/190

MP 399/485

身体能力 18

物理攻撃 18

物理防御 18

魔法攻撃 63

魔法防御 63

ユニークスキル

 死体収納

スキル

 配下作成

 配下解放

配下

 上級アンデッド 5

ーーーーー


 レベルが1上がったな。あれだけ倒したのに1だけか。ソロじゃないからか? いや配下は何も手出ししていないから全部俺に経験値が入ったはずだ。やはり同じ種族を倒すたびに経験値が減る仕様は人間にも有効なのだろう。俺は今回で累計10人以上殺したからもう人間を殺しても経験値は入らないだろうな。まあ人間でレベル上げする気は無いので別にいいが。


 とりあえずMPもたくさんあるし、俺が死体収納で倒した9人を全員配下にしてしまおう。あと馬も配下にしてしまおう。

 今日は曇っているので適当に配下を出しても問題ない。


 取り出し!配下作成!取り出し!配下作成!・・・以下略!


 9人と1頭の死体の下に暗く光る魔法陣が次々と現れ、黒い光が死体を包む。

 

 まとめてやると闇の魔法陣がたくさん出てきてすごい光景だな・・・・


 一応ステータスを確認すると最大MPが30減っていた。やはり全員上級アンデッドで一人あたり最大MPが3減るようだ。


 馬とバンダナマスクを付けた盗賊集団が起き上がる。

 ステータスとか色々聞きたいこともあるが、とりあえずアジトについて聞いてみよう。

 ボスっぽい斧を持った大男に話しかける。


「おまえら盗賊だよな?盗賊のアジトはあるのか?」

「へい。俺らは盗賊です。アジトもありやす。」 やっぱりあるようだ。

「金とか蓄えているのか? 何がどのくらいあるんだ?」 無駄足にならないよう聞いてみる。

「数えてないからわかりやせんが、金貨が数十枚ありやす。他には小銭と酒と食料と奪った物資が多少ありやす。」 金貨数十枚か、結構あるんだな。

「アジトに他の仲間はいるのか?」

「見張りが二人残ってやす。」 二人なら問題なさそうだな。


 しかし無表情でほとんど動かず下っ端みたいなしゃべり方をされると違和感がすごいな。

 というか何でこいつは下っ端みたいなしゃべり方なんだ? 盗賊だからか? 似たような犯罪者の青髪とその手下は普通の敬語だったぞ。アンデッドにも個性があるのだろうか? 


 気になって聞いてみると。敬語をよく知らないかららしい。青髪は元は真面目に各地を回っていたし、手下はそれなりの大きさの町育ちだったから敬語を使えたが、村育ちの碌に教育を受けていない奴らは敬語を知らないことが多いそうだ。

 どうやらアンデッドは生前の知識をもとに、知っている範囲でできるだけ丁寧にしゃべっているようだ。


 ・・・まあいいか。盗賊のアジトへ向かおう。


 軽く荷物整理を行い、すぐ使わない荷物を馬車に積み込んで収納したあと、盗賊達の案内でアジトに向かって歩き出した。アジトは森の中にあるらしい。


 歩きながら聞くとやはり斧男がボスらしい。斧士と盗賊の職業を持っていて青髪より強いようだ。

 なんで盗賊になったか聞くと喧嘩で何人か殺してしまったから遠くの町から盗賊をやりながら逃げてきたらしい。仲間は途中で他の盗賊を手下にしたそうだ。

 町に入ったら捕まるのか聞いたところ、かなり遠くの別の領地から来たのでこの辺では顔や名前は知られていないらしい。

 盗賊になってからは顔も隠しているし目撃者は全員殺しているから、盗賊としては手配されていないそうだ。町にも何度か酒や女を買いに行ったが大丈夫だったらしい。

 とんでもないな! 盗賊だから分かっていたけど極悪人じゃないか! ・・・極悪人を配下にしているなんて俺まで極悪人みたいじゃないか。 ・・・死んで別人になったと思っておこう。


 配下が悪人ばかりなことに気づき微妙な顔をしながら森を歩いていると、アジトについたようだ。


 アジトは小さな谷になっている場所にある洞窟で、周囲から見えにくい場所になっていた。

 盗賊のアジトとしては、見つかりにくくて良い場所なのではないだろうか。

 盗賊達と一緒に近づき、ボスの斧男に挨拶している二人の見張りをサクっと収納して仕留めた。

 護衛に殺されていた盗賊も含めて13人が暮らしていただけあり、中は結構広く、汚いがテーブルや椅子などもあり、それなりの暮らしをしていたようだ。

 その辺で野営をするよりはマシそうなので、今日は盗賊たちの能力確認と盗賊資源の採取と今後のことをゆっくり考えるために、ここに泊まっていくことにした。


 汚いので、配下に掃除するよう命令して、つのっちを撫でながら休憩する。


 万一犯罪者として追われたら、ここを隠れ家のひとつにしようと思う。 ・・・そんなヘマはしないが。念のためだ。


 つのっちの白と茶色のまだら模様のかわいいボディに癒されながら、先行き不安な今後のことを考え俺は大きなため息をついた。


 

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