第9話 ダラダラ冒険者暮らし


 配下を収納し町に戻り、適当な店に入って昼食をとった。

 太くて平べったいパスタのような料理の店で、大盛を頼んでガツガツ食べて腹を満たしたあと、俺は再び草原に戻ってきた。


 ツノウサギを探し回るのが面倒くさくなった俺は、試しに配下にまかせてみることにした。

 ハイイロオオカミのグレイを収納から出して命じる。


「グレイ。ツノウサギを狩って持ってこい!」

「ウォン!!」

 グレイが町の反対方向へ向かって駆け出していく。


 どうやら命令が通じたようだ。言葉が通じるか不安だったが、このくらいの命令ならいけるようだ。

 オオカミはウサギを食べていたし、狩る能力はあるだろう。

 問題はどのくらい時間がかかるかと、勝手に食べてしまわないかだな。


 つのっちを出して撫でながら待っていると、ふと閃いた。


「つのっち!ツノウサギをここに連れてこい!人間や魔物にやられるなよ!」

「ぶぅ!」

 つのっちが茂みの中に消えていった。


 ウサギってぶぅって鳴くのか・・・


 それはともかく、つのっちが仲間のツノウサギを連れてくることができるか試すことにしたのだ。

 グレイもつのっちも人間や魔物にやられないか不安だが、配下は使ってなんぼだろう。


 逆に俺が一人なことの方が不安だが、死体収納があればこの辺の魔物には負けないだろう。


・・・・・・


 数時間後。結論から言うと大成功だった。

 グレイが2匹、つのっちが3匹で合計5匹のツノウサギを狩ることに成功したのだ。


 俺は大満足で2匹を褒めて撫でた。2匹は特に喜んだりはしなかったが・・・

 アンデッドだからだろうか? 基本的に無感情な感じだ。それでもかっこいいしかわいいから問題ない。


 特に癒し枠のつもりだったつのっちが、こんなに活躍するとは思わなかった。まあつのっちが連れてきたツノウサギは俺を発見すると襲い掛かってきたので倒したのは俺だが、予定どおりなので問題ない。

 つのっちは立派な釣り役として今後も活躍してくれるだろう。

 グレイの方も噛みあとがついていて血を流しているが、ちゃんと食べずに持ってきてくれた。


 しかしつのっちはどうやって仲間を連れてきているのだろうか? つのっちはウサギ界のイケメンだったりするのだろうか? ナンパの達人なのだろうか? いやナンパイケメンだと思うと嫌いになりそうなので、ハニートラップをしている美女だと思うことにしよう。性別は不明だしな。 ・・・ハニトラ女もちょっと嫌だな。かわいすぎて自然に仲間が寄ってきてしまうだけだと思っておこう。実際かわいいし。


 二匹に何かご褒美をあげようかと考えてふと思った。こいつら餌とか必要なんだろうか? アンデッドだから餓死したりしないよな?

 ・・・とりあえずウサギを食べるか試してみるか。


 グレイが狩ってきたツノウサギを出して声をかける。

「これ食べてもいいぞ!」

「ウォン!」「ぶぅ!」

 グレイがツノウサギを3分の1くらい食べた。つのっちはひとかじりだけ食べた。


 餌はやっぱりいるんだな・・・ でも食べる量は少なそうだ。つのっちはアンデッドになって肉食になったのだろうか? ・・・まあいい。食べ残しは収納しておいて腐るか実験しよう。


 よし!町にもどって残った4匹を換金だ!


 俺はウキウキで町に戻り、冒険者ギルドまでやってきた。

 冒険者ギルドの脇の倉庫みたいな建物が素材買取場だ。でかい魔物も搬入できるようにするためか入口もでかい。

 中に入ると目つきの悪いおっさんが声をかけてきた。

「買取か?ものはなんだ?」 無駄話はしない感じだ。

「ツノウサギ4匹です。」

「わかった!そこに持ってこい!」

「はい!」 すぐさまツノウサギを死体収納から出す。

「おぉ・・・今確認するから待ってろ」 少し驚いたようだが何も言わずに仕事を続けている。予想どおり騒ぎになるほどではないようだ。

 しばらく待つと声をかけられる。

「3体は傷がないが。毒は使ってないだろうな?」 そうか、傷がないと毒を疑われるのか。しまったな。

「使ってません。」 とりあえず実際使ってないので答える。

「分かった。これが受取証だ。」

「えっ。あっハイ。」

 おっさんはすぐに次の仕事に向かっていった。


 疑ってたんじゃなかったのか? まあ問題ないなら良いが。・・・何か確認方法があるのかもしれないな。スキルとかで。

 あと問題がなければ余計な詮索はしないルールなのかもな。マナー違反らしいし。


 その後ヤーバンさんに防具屋のお礼を言い、換金してもらって冒険者ギルドを出た。

 傷なしのツノウサギ3匹は1匹20ルクス、グレイが狩ったツノウサギが19ルクス、合計79ルクスになった。ツノウサギは思ったより安いな。まあ肉も少ないし、皮は売れるだろうけど解体手数料とか考えるとそんなものなのかもな。向こうから寄ってくるから普通のウサギより狩りやすいし供給が多いのかもしれない。


・・・・・・・・


 その後俺は、異世界にきてまで毎日あくせく働くのは嫌だったので、曇りの日だけ狩をして雨の日と快晴の日は休んでを繰り返しながら、のんぴりと1か月ほど過ごした。

 狩では1日あたり100~200ルクスほど稼ぎ、いくつか検証も行った。


 まずは死体収納の検証だが、入れておいた死体は腐らなかった。時間停止機能があるようだ。食用に切り出した肉なども収納できた。これで肉の長期保存が可能になった。ありがたい。革製品も試したが、加工品は無理なようだ。


 配下関係は、ゴブリンを配下にしたときに、試しにゴブリンにずっと森で狩をしつづけるよう命令してみた。町にいるだけでレベルアップとかできないか試しつつ、配下が遠くでやられたらどうなるか実験したのだ。

 ゴブリンは弱いし見た目も悪いので、配下としてとっておく気にもならなかったのが一番の理由だけどな。

 結論としては、レベルアップはしなかったし、多分やられたであろうゴブリンは配下に残ったままで、最大MPは戻らなかった。

 これにはちょっと焦ったが、レベル5になったときに「配下解放」というスキルを覚えたので解決した。

 スキルの説明はこうだ

ーーーーー

配下解放

 配下アンデッドを解放し、野良アンデッドにする。最大MPが元にもどる。

ーーーーー

 解放すると死体に戻るわけではなく野良アンデッドとして動くらしい。ネクロマンサーは次々と配下アンデッドを作成し、不要になったらその辺に野良アンデッドとして解き放つわけだ。非常に迷惑な存在である。忌み嫌われても仕方がないと言える。いや今のところ忌み嫌われているという情報は無いけども。

 とりあえず配下解放でゴブリンは配下から消えて最大MPは戻ってきた。


 現在のステータスはこんな感じだ。

ーーーーー

名前 ユージ

種族 人間Lv6

年齢 18

職業 死霊術士Lv6

HP 112/112

MP 239/239

身体能力 15

物理攻撃 15

物理防御 15

魔法攻撃 36

魔法防御 36

ユニークスキル

 死体収納

スキル

 配下作成

 配下解放

配下

 上級アンデッド 2

ーーーーー


 レベルは少ししか上がっていない。ゴブリンとツノウサギを狩っているだけだからだな。

 どちらももう狩っても経験値が入らないので、レベルを上げるには他の魔物を狩る必要があるが、いまいちやる気が出ないのでツノウサギを狩り続けてダラダラしてしまった。

 いまだ配下もグレイとつのっちだけで増やしていない。


 やる気が出ない理由は、冒険者のランクが上げられないためだ。ランクが上がらないと他の魔物を討伐しても報酬がもらえないのでやる気が出ない。

 なぜランクが上げられないかというと、ランクを上げるためには、依頼達成のほかにギルド職員に戦闘技術を見せる必要があるからだ。ずるして金で人を雇って依頼達成してランクを上げたりできないようになっている。

 模擬戦なり魔法試射なりで実力を見せる必要があるが、俺の戦闘方法は配下と死体収納だ。どちらも見せられない。槍の腕を見せられるほど上げなければランクを上げられないのだ。

 ちなみに狩でグレイやつのっちが魔物をつれてくるのを待っている間に筋トレと槍の練習をしている。暇すぎるからな。ただ槍は適当に振っているだけで全然上達していない。俺には指導者なしでは無理な気がする。

 まあ、レベルが上がればステータスゴリ押しでも認められると思うが、いまいち踏ん切りがつかずダラダラしてしまった。ダメ人間である。そろそろオークあたりに挑戦してレベルアップと配下作成をしようかとは一応思っている。 ・・・思っているだけだが。


 よく日本でダメだったやつが異世界で大活躍する話があるが、普通に考えたら日本でダメだったやつは異世界でもダメなやつになるよな。ぶっちゃけ日本はかなり条件の良い場所だし、ちょっと便利な力が手に入ったくらいじゃ、ダメなやつはダメなまま、モテないやつはモテないままだよな。俺みたいに。何なら記憶と一緒にトラウマとかの足かせも引き継ぐから、日本の記憶なんて無いほうが活躍できるまである。 ・・・それは言い過ぎか。 ・・・まあ、のんびりダラダラ生きられるなら俺は満足だ。


 ちなみに休みの日には、資料室で本を読んだり、町を散策したり、食べ歩きをしたり結構充実している。洗濯や武具の手入れも休みの日にしているな。

 ただし、充実はしているが、おっさんとしか交流していない。 ・・・まだ慌てる時間じゃない。 ・・・はずだ。


 資料室で新たに得た情報としては、この世界や国の情報、宗教の情報、近隣の町の情報などがある。

 まず今いる国はレイライン王国という名前の人間の国で、国民のほとんどが人間で、エルフやドワーフ、獣人などは少数しか住んでいないらしい。とはいえ迫害されているわけではなく、エルフはエルフの国、ドワーフはドワーフの国に住むのが当たり前という感じらしい。明確に対立したりはしていないが、何となく自分たちとは違う存在として避けられたりはするそうだ。例外的に東にあるゴルドバ商業連合国というところでは、取引のために様々な種族が滞在しているらしい。ちょっと行ってみたいが、歩きや馬車で行くのは面倒だ。飛行機がほしい。


 ネクロマンサーが関係しそうな宗教関係だが、この国の宗教は、創造神がトップにいて、その下に、太陽の神、月の神、星の神の天神三柱 (かっこいい)がいて、そのしたに火水風土光闇の六大元素神がいて、その下に戦の神とか豊穣の神とか大勢の色々な神々がいるというものらしい。

 町にはいくつか神殿があり、それぞれ複数の神を祀っているのが普通らしい。多神教というやつだな。寛容そうだから万一ばれても即処刑にはならないかもしれない。怖いから神殿には行ってないけども。

 他の国も六大元素神まではだいたい一緒で、その下の神は結構違うので実在が怪しいとお互い思っている状況のようだ。ただ、隣国のひとつであるルディオラ太陽神国では、太陽の神と創造神は同一の神とされていて、闇の神は邪神とされているらしい。何となく処刑されそうなので近づかないようにしようと思う。


 あとは東の方にもっと大きい町があり、この地域を治める侯爵が住んでいるそうだ。貴族はちょっと怖いが図書館があるらしいので大きい町には行ってみたいと思っている。魔王の情報もあるかもしれないしね。



 そんなこんなで平和にダラダラ過ごしていた俺は、完全に油断していた。

 町を歩く時も日本と変わらない感覚で狭い路地にも気にせず探索に行くようになってしまっていたのだ。



 闇の職業である死霊術士としての戦いが始まろうとしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る