ただし醜女に限る
天津
ただし醜女に限る
ダァァン、という破壊的な音がトイレに響き渡る。
今のは最も入り口に近い個室だった。その向かいは掃除用具入れで、飛ばして真横の個室のドアが次に開かれた。
ダァァンッダンッ。
ドアが個室内の壁に当たって、勢い余って跳ね返ってドア枠に衝突する音がする。
以前から「出る」と噂だったのに、なぜ忘れ物などしてしまったのか。
ドガァァン。
その向かいの個室。
忘れ物を回収して教室を出たあの時、気配を感じて振り返ると俯いた長髪の少女がいて追いかけてきたものだから、私は動転してしまったのだ。
ズドォォォンッ。
まったく、どうしてトイレなんかに逃げ込んでしまったのか。
ドガァァァンダァンダン。
トイレなんて、最も退路がないではないか。袋小路のぶらこうじではないか。
ズダダダダァァン。
ああもう残る個室はひとつだ。それが開かれてしまったら、私は。
音がしない。
ああ、やはりパターンに則って、最後の個室は上から覗いているのだろう。釘付けになっている今、この掃除用具入れから飛び出せば逃げられるかもしれない。……いや待て待て。覗いているということは中の様子が見えるわけであって、中に人がいないことに気づいているということになりはしないか。すると。
はっとして顔を上げると、掃除用具入れを覗き込む少女の顔があった。私は思わず声を上げた。
「……かわいい」
少女は赤面した。
ただし醜女に限る 天津 @am2ky0
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