住んでいた星が宇宙人に丸ごと消し飛ばされたけれど死に方が酷かったから転生させてもらえそうな件
静流 譲治
第1話 僕と事故
「こちらの不注意でした。本当に申し訳ない」
「いえいえお気になさらず」
時刻は早朝。
いつもの車通勤の途中、僕は貰い事故に巻き込まれてしまった。
「いえ、あってはならない不手際でした。本当になんとお詫びすれば良いか…」
私、免許を取得したばかりで…。
などと消え入りそうな声で話す相手方を、少し気の毒に思う。
その真っ青な顔をなんだか見ていられなくなって視線を逸らすと、付近の道路は通 勤車両が列をなし、その傍にはスーツを着た野次馬達が群がっていた。
眼下では、僕の愛車だったものが燃えている。
燃え盛る我が愛車を取り囲んでこちらを指差す野次馬達。
興奮したように叫んでいる様は、さながら祭りのようだった。
あーダメだこりゃ。
「コホン」と咳払いが聞こえて視線を戻すと、いつの間にか顔色の悪いものが二人になっていた。
「私の上司です…」
「この度はうちの者がスミマセェン!!」
紹介が終わるや否や、ずいと身を乗り出して上司と呼ばれた者が叫ぶ。
まさに平身低頭、人種は違っても通じるものはあるもんだなどと他人事のように思いつつ、「いえいえこちらこそ失礼いたしました」と型通りのセリフに愛想笑いを添えて返した。
通勤中にUFOに轢かれた僕は、粉微塵になって死んだ。
今こうしている僕は、青い顔の宇宙人により再生されたものらしい。
「ワタクシ、この銀河の消去を担当していますもちゃもちゃと申しますぅ。この度 は、部下のぴにゃぴにゃが前方不注意で貴方の乗用車に突っ込んだとのことでぇ…そのぉ…お詫びを…」
もちゃもちゃと名乗った上司宇宙人は青い顔を一層青くしてこちらに頭?を下げる。
彼らは背丈こそ我々ヒトとそう変わらないが、見た目は人型の海牛だった。
顔面と思しき部位には脳天から胸の辺りまで縦に亀裂が入り、喋るたびにぱくぱくと開閉している。おそらく口に該当する器官だろう。
その口内にはビッシリと小豆ほどの臼歯が敷き詰められていて、上司宇宙人は口角泡を飛ばしながら謝罪を述べている。
「かまいませんよ。助かっていてもああなるんでしょう?」
現在僕たちは事故を起こした宇宙船内にいる。
既に墜落から復旧した船は離陸し、事故現場直上50メートルほどの高さで空中に浮いていた。
僕らの立つ床一面は眼下を見渡せる特殊なモニターだそうで、さながら宙に浮いているかのような気分だ。
観光名所のガラス床ではしゃいでいた幼い頃をぼんやりと思い出す。現実逃避だ。
モニター越しの景色は、酸鼻極まるものであった。
先ほどまで騒いでいた野次馬たちは皆眠りに落ち、体の末端から徐々に泡となり溶けていっている。人だけではない、鳥も、木も、車も、道路も、何もかもが静かに溶け落ちている。
事故直後に部下宇宙人が説明していた消去作業とやらが始まったのだろう。
彼らの仕事は星の消去だそうだ。
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