第11話 亡国の末裔
突如現れた遺跡を調べるために二人で外周の散策を始めた。外壁は風化しボロボロになった岩が積み上げられているが、それでも本殿のようなものは材質が違うのか四角い少し光沢のあるどっしりとした岩が積み上げられ、立派な造りで今も佇んでいた。
「動くなっ!!!」
そんな遺跡の調査に夢中になっていると、奥の陰から女性の声が聞こえた。たしかに奥から声が聞こえたはずなのに、僕の視界は真っ白な何かで遮られた。
「っんぐ!!!」
「え、お兄ちゃんっ!?」
すぐさまセリアさんにもらったナイフを抜き放って顔を覆う布のようなものを切り裂いた。
「ぷはぁ! ……はぁはぁ」
呼吸を整えながら引き裂いた布をみると真っ白なテーブルクロスだった、……なぜ? 疑問が頭に浮かんだがその答えはすぐに分かった。ティーポットやカップ、クッキーに皿、しまいにはテーブルが浮いているのである。
「浮遊魔法による牽制? サクラ、周囲を警戒!」
襲撃者は、いつでもモノを飛ばせる準備が整った状態だ。すでに敵が攻撃をしようと思えばすぐにでも行える状況に焦りを覚えつつも、相手の出方を窺う。
「どうやってこの神聖な地に進入してきた!」
相変わらず正面奥の陰から声が聞こえるので相手は移動をしていないようだ。対話の意思があるようなので僕は正直に答えることにした。
「ヴォルスへの街道を進んでいたらここに出たんだ」
「うん。お兄ちゃんと二人で孤児院から今日、旅に出たの。ここはどこなのかな?」
そのはずだ。少なくともサクラが意図的に僕に対して特別な冒険をさせようと仕組んだものではなさそうだ。……それにしても、ここはどこなんだ?
「なに? ここには資格を持つ者以外を惑わす結界が張ってあったはずだ。一般人は辿り着けはしない! とぼけるのをやめるんだな」
「……あれって、―――もしかしたら」
サクラが壁に刻まれた何かに気がついた。サクラが見ているソレは本殿にはっきりと刻み込まれた紋章。その周辺に書かれている文字も読めず、模様の意味もわからない。しかし、それでも高貴な紋章であると僕でもわかった。
「お兄ちゃん、ここは任せて。―――遺跡に刻まれし紋章は亡国 ヴァルホンのモノかとお見受けします。私達は、兄妹で東の端にある集落より旅に出たところ森を抜けたらここに出たのですが、こちらはどのような遺跡なのでしょうか?」
そう言って、ヘージの記憶の中でいつも大事にしていたネックレスを掲げてみせた。―――すると、一瞬の強い殺意が襲ってきたが、サクラの態度の変化、その敬意ある対応によってかその殺意は鳴りを潜め、これまでのピリピリとした空気が少し和らいだ。
「そ、それをどこで……」
「母の形見だそうです。孤児になった私達を助けてくれた方が遺品として見つけた物を渡してくれたんです」
「そうでしたか……。あなたたちがあの方の忘れ形見なのですね」
「はい。父と母に代わり、今は亡き祖国 ヴァルホンへの忠義、大義でした。両親には祖国の事は忘れろと言われて育ちました。私たちは本当に何も知らないのです。ヴァルホン王家の末裔として再度お聞きします。ここはどのような場所なのですか」
……どうやらサクラの話を信用してもらえたようで、宙に浮いていたお茶会セットが元の位置へと戻っていく。
「滅んだはずの王家の血を引くあなた方がここを訪れたのは運命なのでしょうか。ここは、再誕の神殿。魔王や神ですら倒せる力を持つ異界の者の魂を呼び寄せる場所でございます」
急な展開に僕は話に置いて行かれている。しかし、この世界で意識が目覚めた時に、僕たちはとある王家の血筋とサクラは言っていた。話からするにどうやらそれはヴァルホン王国という国で、ここはその国にゆかりのある場所であるようだ。
「旅に出た初日にこれは……、運命に導かれすぎだろ……」
しかし、これは真実への序章であった。
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