第16話 神田の思惑
「ごめんなさいね。わざわざ家まで送ってくれて」
「いいですよ。一人だったら可哀想だし」
満田は真にもたれかかりながら、ずっとブツブツと呟いている。どうやら半分意識があるようで、「社長ごめんなはい」と、流暢ではないが、謝罪の言葉を述べていた。
満田の家は市営住宅の三階だった。エレベーターが設置されていたので、それを使い、真は送ったのだ。
インターホンを押して、最初幸恵は出てこなかったが、満田の声を聞いた時にようやく顔を出してくれたのだ。
幸恵はどこにでもいる五十近い女性だった。パーマを当てた髪型、目は細目で、顔と口が大きく、明るく多弁な印象に見えた。
彼女はパジャマ姿だった。これから眠ろうとしたのだろうか。真は自分の腕時計を見ると、午後十時半に時計の針が差していることに今気づいた。
満田は家路につくと、玄関から居間に続く、床のフローリングにへばりつくように倒れ込んだ。「もう、しましぇーん」相変わらず、謝罪の文言を呟いている。
幸恵と真はその一部始終を見て、互いに微笑ましく笑うと、真は幸恵に言った。
「どうして、こんなことをしたんですか?」
幸恵はもう真が理解してしまっているだろうと思っていたのだろう。「私はただ旦那に言われた通りにしただけで、別にあなたに対して悪意があったわけじゃないわよ」
「社長の指示だったんでしょうか?」
「そうね。社長から電話が何回か掛かってきて、旦那はそれを出なかったから家に電話が掛かって来たけれど、前日までは旦那と社長はやり取りしてたんじゃないかなと、思うわよ」
「それはどんなやり取りだったかは、分かりますか?」
「分からないわね。ごめんなさい」幸恵は右手に顎を乗せて考えた素振りを見せた。
その時、真のスマートフォンから着信音が鳴りだした。
真はポケットから取り出すと、画面は笹井探偵事務所からだった。
すっかり、あかねのことを忘れていた。報告も全然できていないので、怒っている可能性がある。
真は電話に出た。
「もしもし」
「あ、飯野さんですか?」
「そうですけど……」聞きなれた声だった。「つむぎさん?」
「はい、そうです。実はお姉ちゃんがさらわれたんです」
「さらわれた? 誰に?」
「分かりません。でも、向こうがいうには知ってる人かもしれないなということは言ってたんですが……」
「知ってる人?」
真は考えた。この件は神田が何を目的に自分をターゲットにしたのかは分からないけれど、もしかしたら、あかねも……。
そういえば、今朝満田の話を聞いているときに、スーツ姿の男も現れたよな。何かスポーツをやっているんじゃないかというくらいがっしりとした男が……。あいつは何か目的があってお金ではなく、もっと違う目的があったのではないのか。
しかし、つむぎとは顔見知りだろうか。あかねも初対面の感じがしたが……。
「でも、向こうはそれほど真剣に言った感じではないので、もしかしたら適当に言ったのかもしれないです」
「なるほど……。とにかく、そっちに行った方が良さそうだね。探偵事務所の方に行くよ」
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