少年賢者の推理:高度で緻密な爆発トリック

【宝石魔術】は、魔術研究の中でも、特に属性と強く結びついた学問である。


 何せ、一部の宝石には、魔力をため込む性質があるのだ。それも、流し込まれた魔力の属性に関わらず、となる。


 魔力をため込んだ宝石は、当然【魔法陣】の触媒としても利用可能。

 つまり、魔力をため込んだ宝石を【魔法陣】に置けば、魔法は発動する。


 ―――――そして、とある【宝石魔術】の学者は、このような歌を遺している。


 ……紅なる石ルビーは、輝きとともに、陽炎かげろうが笑う。


 ……蒼なる石サファイアは、輝きとともに、波紋はもん揺蕩たゆたう。


 ……金なる石トパーズは、輝きとともに、紫電しでんが走る。


 ……碧なる石エメラルドは、輝きとともに、木洩こもが歌う。


「【トパーズ】は、流し込まれた魔力を雷属性に変換してため込む性質がある。……貴方はこの性質を利用して、マーカスさんに【雷魔法】を仕掛けて、殺害した」


 そして、その後、部屋を爆破し、彼の死を爆死として偽装したのだ。


「……ここまで言えば、俺の言わんとしていることはわかるよね? 【爆発魔法陣炎属性の魔法】の触媒として、何が使われたのか!」


 俺の言葉に、学者たちは一斉に、ダリアの方を見やった。


 何日も経ったが忘れる者はいない。彼女はあのパーティーの前半の時、大きな大きな、【ルビーのブローチ】を着けていたではないか!!


「……ま、まさか……!?」

「あの時のルビーが、爆発に使われたというの!?」

「そう。【宝石魔術】に詳しいダリア夫人なら、その手段を思いついたはずだ」


「……で、でも、あの現場には【ルビーなんてなかった】んでしょう? ルビーを使って爆破したなんて、本当に言えるのかしら?」

「言えるさ」


 反論するダリアに、俺は大量に書きなぐった計算式をダリアに向かって突きつける。


「――――――もう、証明は終わってるんだよ、ダリア夫人。そこで重要になるのが、【角度】と【距離】なんだ」

「な、何ですって?」

「遠隔操作で爆発させるのに必要なもの。それはルビーと……あとはそうだな、その辺で売っている魔法薬マジックポーションでいい。ルビーに魔力を与えられれば、元の属性は関係ないからね」


 俺の推理はこの通り。


 ダリアはどこかでマーカスを【雷魔法】で殺害後、彼の衣装を脱がせた。

 マーカスを書斎に運ばなかったのは、単純に運べなかったのだろう。大の男の死体を女の細腕で運ぶのは相当大変だろうし、人目につくわけにもいかない。


「――――――貴方は、お色直しの短い時間で、殺害と爆破の偽装トリックを仕込んだんだ。そのタイミングならルビーがなくなっていても、誰も違和感を覚えない」


 書斎にダリアが持ってきたのは、恐らくマーカスの衣装と、殺害に使った【雷魔法の魔法陣】、そして【トパーズ】だ。あとは、魔法薬マジックポーションもこの時かもしれない。


「マーカスさんの書斎にも、あらかじめ細工をしていたんじゃないかな? 屋敷の人間、しかも貴方なら、マーカスさんの書斎に理由を着けて入ることもできるだろうし。恐らくその時に、【爆発魔法陣】を書斎に用意しておいた。本の間に挟んだりして置けば、ただの紙切れだからね」


 そして、【爆発魔法陣】の上に、自分が着けている【ルビーのブローチ】を置く。ただし、この時はルビーに魔力は込められていない。そのまま爆発してしまいかねないし。


「そして貴方は、この時ブローチに【強化魔法】をかけたんだ。爆発で、【ルビーが壊れないように】」

「それは、何故……?」

「【ルビーと爆発で、宝石魔術の可能性に気づかれたくなかった】からさ。賓客には学者も大勢いる、当然【宝石魔術】だって知っている人もいるだろう」


 だから、そもそも【宝石魔術】という発想に持っていかれないよう、ルビーを隠すためのトリックを仕組んだ。【トパーズ】は破片があっても、爆発との関連性は気づかれないだろう。それこそ、マーカスの属性を知りでもしない限りは。


「そして、魔法薬マジックポーションを時間差で垂らす仕掛けを作れば、ルビーに魔力がたまる時間も調節できる。きっと貴方は、それも綿密に計算したんだろう。見事計算通り、【貴方が広間でみんなといる間に、ルビーに魔力が満ちて爆発が起こった】ってわけさ!」


 そして爆発が起こるときにも、工夫がされていた。それは、【魔法陣】に設置されていた【ルビーの角度】。


「どんな位置から魔力を【魔法陣】に送り込んでも、魔法は【魔法陣】の中心から発生する。つまり、爆発も中心――――――つまり内側から外側へ力が働く。貴方はそれを利用して、【ルビーそのものを書斎から吹き飛ばした】んだ!」


 そして、吹き飛んだルビーは、屋敷後方の森の中へと落ちていく。爆発に注意が行っていた俺たちは、その存在に気づくことはなく、まんまと引っかかってしまったというわけだ。


「――――――ちなみにですが、そのルビーは現場検証で見つけておりますよ」


 アインハルトが、懐から汚れた【ルビーのブローチ】を取り出して見せる。


 それは間違いなく、俺達が屋敷に来た時にダリア夫人が着けていたものだった。

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