屋敷調査最終日
「アルム君、本当なの!? 犯人が分かったって……」
「ああ。多分だけど、間違いないよ」
「それは、一体誰なの!?」
犯人の見立てが付いた、とメリナに話したら、案の定彼女は食いついてきた。
それも当然と言えば当然か。何しろ、幼馴染を殺した人物なのだから。
「……残念だけど、まだそれは話せないんだ。まだ、語るには早すぎるんだよ。もっと、証拠を集めないといけない。今犯人を見つけても、納得させられるだけの材料が揃ってないんだ」
「だったら、何で犯人が分かったって……?」
「俺の中で、確信したってだけだよ。だから他の人にも、絶対に言わないでね」
「う、うん……わかった」
約束をして、俺達は屋敷へと乗り込んでいく。
屋敷に入るとさすがに2日目で事態も落ち着いたのか、メイドたちの仕事っぷりも通常通りだった。昨日のように、動揺を隠せない、ということはあまりなさそうだ。
「おはようございます、アルム様」
「セバスチャンさん。ちょっとお願いがあるんですけど」
「何でしょうか? 新館への立ち入りは、申し訳ありませんが……」
警戒しているセバスチャンに、俺は苦笑いしてしまう。昨日聞いたことが、どうやら響いているらしい。
「いや、そうじゃなくて。……先代侯爵について、ちょっと聞きたくて」
「先代侯爵様について、ですか?」
「ええ。先代侯爵の……魔術研究についてなんですけど」
「先代様の……申し訳ありませんが、私めも魔術には疎く。アルム様のご期待に沿えるようなお話ができるかどうか……」
「いや、きっとセバスチャンさんも、僕の期待通りの答えができると思いますよ」
「はい……?」
戸惑うセバスチャンに、俺はにこりと笑う。そんな俺にくっついているリリーも、一緒にニコッと笑っていた。……いや、お前はそうする必要ないんだけどな?
*****
セバスチャンから話を聞いた俺たちが、次にやってきた場所――――――それは。
「……ちょっと君? ダメだよ、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだから!」
じゅうじゅうと肉が香辛料とともに焼ける匂い。魚類も臭みを消すために、調味料に漬け込まれており、その香りもする。
ここはランベルト邸の厨房だ。3人のコックが、調理担当のメイドたちに忙しなく指示を出している。
「あ、ごめんなさい。とってもいい匂いがしたから……って、うちのリリーが」
「えっ!?」
俺の言葉にぎょっとしたリリーがこっちを見る。俺は彼女に、指でサインを出した。「合わせろ」と。
「……う、うーん! いい匂い! お腹空いてきちゃう~!!」
リリーもナイスなノリの良さで、俺の適当な嘘に合わせてくれる。あとで頭を撫でてお菓子をやらないと、へそを曲げてしまうだろうな。
そして、悪魔とはいえ見た目は美女のリリーの言葉に、厨房のコックはうぐ、とたじろぐ。
「……そ、そう? ……何なら、味見していくかい?」
「いいの!? ありがとう!!」
リリーのとろけるような笑顔に、コックのハートはメロメロ。コイツは、悪魔の中でも
「じゃあ、坊やも、なんか食べるかい? 特別だぞ?」
「あ、いいんですか?」
「その代わり、食べたらすぐに出ていくこと! いいね?」
「はーい! じゃあ……」
俺は厨房を一瞥し、そして――――――ある食べ物を指さす。
「僕、あれが食べたい!」
「……ああ、これかい? ちょうどそろそろ廃棄しようと思っていたところだよ」
俺が指さしたのは、皿の上に乗っている、黄色い果実だった。
「これがいいのかい?」
「うん! この果物、パーティーのケーキに入ってた奴だよね? あれ、とっても美味しかったから……」
「ああ、このフルーツを使ったケーキは、マーカス様の好物だったからね。あのパーティーにも、マーカス様のリクエストでケーキを出したんだよ」
「そうなんだー!」
廃棄するからということで、コックは果物を、一粒どころか一房くれた。恐らくリリーに対する点数稼ぎの意味合いもある。多分無駄だけど。
「「ありがとう、おじさん!」」
2人そろってお礼を言うと、俺達は厨房を後にした。
これこれ、俺はこれが欲しかったんだよ。
「ねえパパ、これ、一体何なの? おやつ?」
「それもある。でもこれは、大事な証拠の一つなんだよ」
俺は房から果物を一つ取り出すと、満足げに頬張り、リリーにも一粒あげる。
ほのかな甘みの広がるこの味が、俺は嫌いじゃなかった。
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