駆け付けてきた幼馴染

 新館から出て中庭に戻ると、すでに学者たちが集まって事件の事を話していた。


「えー、ただいま我々が現場を見てまいりましたが、あれは【爆発魔法陣】の暴発による事故であると、断定いたしました」

「……事故。では、マーカスは……」

「ああ、マーカス……!!」


 学者の見解を聞くランベルト侯爵夫妻は、がっくりと肩を落としている。夫人に至っては、泣いてしまって立ち上がることができずにいた。


「お、奥様。お気を、確かに……!」


 そんな彼女を、メイドたち数人が何とかして立ち上がらせている。


「……えー、コホン。それでは、皆さん。あくまでこれは事故ということですが、領主たる侯爵の屋敷での事件ということで、これから憲兵の調査が参ります。大変恐れ入りますが、憲兵からの聞き取りがあると思いますので、それまではこの屋敷に逗留いただきたい」

「……我々は構わないよ。そうなると、現場保存が必要だね?」

「もちろんです。これからは新館は、憲兵が来るまで何人たりとも立ち入り禁止です。また爆発が起きるとも限りませんからな。侯爵も、それでよろしいですか?」

「あ……ああ。我々も、当面は旧館で生活しよう。ダリアも。いいな?」

「はい……」


 侯爵の言葉に、ようやく立ち上がれた夫人は、力なく答える。新館は建てたものの、旧館でも十分に生活できるスペースは確保できているらしい。


「では、皆さま。お部屋にご案内を――――――」

「はあ、はあ、はあ、はあっ……!!」


 セバスチャンに案内されて部屋に戻る中、一人の村娘が中庭へと駆けこんできた。その胸の大きい村娘に、俺は目を丸くする。ついさっきまで、違う姿でこの屋敷にいた女性だ。


「……メリナさん!?」

「メリナ、どうしてここに……」

「屋敷から凄い音がして、マーカス様の部屋が爆発したって聞いて……!!」


 どうやら、仕事が終わって家に帰った後だったらしい。その後、駐在が屋敷へと向かったのを見て、ただ事ではないと走って来たそうだ。

 そして焼け焦げたマーカスの書斎を外から見上げ、口元を手で押さえる。


「そ、そんな……!」

「メリナ……残念だが、マーカス様は、事故で……」


 その場にへたり込んでしまうメリナを見て、リリーは「あれ?」と首を傾げる。


「あのマーカスって人、あの女の人の事、怒鳴ってなかったっけ?」

「あの2人、幼馴染だったみたいだぞ」


 ……にしても、ちょっと気になるな。ちらりとリリーを見やると、彼女もコクリと頷く。


「……あの、セバスチャンさん。俺たちの部屋なんだけど」

「はい?」

「下の村に泊めてもらうってできないかな? ほら、新館の人も来るなら、部屋が足りなくなるだろ?」

「え? いや、しかし……」

「あー、リリー、悪魔だから夜中に暴れちゃうかもな~~~!! シュッシュッ!!」


 リリーの風を切るシャドーボクシングの仕草に、セバスチャンは一瞬怯んでしまう。そこで、すかさず。


「メリナさん。少しの間、お宅に泊めてもらえませんか?」

「え? 私の家……?」

「マーカスさんのお話を聞きたいんです。もちろん、ただでとは言いません」


 俺はタッパーに入れた料理を、彼女にコッソリ見せつけた。


「ご馳走しますから。ね?」


 目の前に突然現れたご馳走に、彼女は目を丸くする。

 一介の使用人では、この豪華な料理は食べられなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る