超調味料戦争

ちびまるフォイ

一番あんまり使わない調味料

みなさんもご存知のように調味料戦争はいまだ続いている。


「ケチャップ民はみなごろしだーー!」

「おのれ鬼畜マヨネーズどもめーー!!」


血なまぐさい戦いが続き、調味料の派閥が弱体化すると

今度は自分の派閥に引き入れる戦争がはじまる。


「君! 一番調味料ではマヨネーズが好きだよね!?」


「無人島にもっていくなら塩でしょう!? 君も塩の民だ!」


「しょうゆは何につけても美味しいから、しょうゆだよね!!」


自分の派閥の戦力となるための青田買いが続く。


これが調味料戦争を長引かせる遠因となり

おおくの調味料の命が失われているにもかかわらず

やはり調味料はけして戦いを終わらせない。


最後の調味料のひとつになるまで、けっして。


「さ、サルサソースーー!!」


「へへ……。もうダメだ……やっぱりマヨネーズには勝てなかったよ……」


「お前が死んだら、今度からタコスに何をかければいいんだ!!」


「ケチャッ……」


最後の言葉をつむごうとしたサルサソースの注ぎ口を、

マヨネーズのフタがふみにじった。


「マ ヨ ネ ー ズ に決まってるよなぁ?」


「ひぃぃ!!」


もっとも新しい派閥でありながらも台風の目であるマヨネーズ。

その侵略速度は他の調味料も太刀打ちできない。


「塩までもマヨネーズにやられたのか!?」

「そうらしい。あの濃ゆい味の前では塩味なんか打ち消されるって」


「やばい! 唐辛子がマヨネーズに飲み込まれた!」

「そんな……いったいどこまで勢力を伸ばすんだ!」


マヨネーズの進行は止まらない。

自身を分割しハーフマヨネーズとなり、さらに勢力圏を広げる。


そして、「しょうゆ」のもとへもマヨネーズはやってきた。


「さて、しょうゆの民よ。マヨに飲まれる覚悟はできているかな?」


「ふ、ふざけんな! 誰がお前らなんかに飲まれるか!

 俺達は和食に残された最後のとりでなんだ!!」


「はっはっは。まるで和食を背負うようないいぐさじゃないか」


「そのとおりだろ! 刺し身があるかぎり、しょうゆは消えない!」


「くくく。ひとつ良いことを教えてやろう」


マヨネーズは注ぎ口の星型をにぃと横に伸ばした。



「 刺 し 身 は マ ヨ ネ ー ズ も 合 う」



「そ、そんな!?」


「漁師もマヨネーズで食べることもあるそうだ!

 いつまでもしょうゆの天下じゃないんだよ!」


マヨネーズの勢いにしょうゆは意気消沈。

そこにしょうゆの王が前へでた。


「ひとつ提案がある。なにもお互いに争うことはない」


「なんだと?」


「手を組まないか。しょうゆとマヨネーズで同盟を結ぶのだ。

 そうすれば刺し身にお醤油つけるときと、

 マヨネーズをつけるときで使い分けができるだろう」


「ふぅん、なるほどなるほど……。いいだろうその条件うけた」


マヨネーズが笑って目配せをした。

そのとき。


「ぐあっ!?」


しょうゆ王の体をマヨネーズのトゲが貫いた。

トゲは王の背中から作られていた。


「き、きさまは……」


王の目線の先には、マヨネーズの分家たちが立っていた。


「おのれ、からしマヨネーズ!! めんたいマヨネーズ!

 お前らは和食としての誇りをわすれたかーー!!」


「古ぃんだよ、しょうゆ王。いまどきマヨネーズに飲み込まれたほうが活躍の場が広がるんだよ」


「う、うらぎりものめ……っ」


吐き捨ててしょうゆの王は倒れてしまった。


「あっはっは! しょうゆが同盟にだって!? するわけねぇだろ!

 なんで俺ら油が、しょうゆの水に混ざらなきゃいけないんだ!」


最初から同盟なんてする気はなかった。

マヨネーズはしょうゆ王の隙を見て命をうばう段取りをしていたにすぎなかった。


王の不意打ちに残されたしょうゆの民は恐怖し、

つぎつぎに自分のラベルをマヨネーズへとはりかえていく。


「ハイル・マヨネーズ! ハイル・マヨネーズ!!」


「そうだ! マヨネーズこそ調味料の頂点!

 万能にして、汎用の究極調味料だ!!」


しかしそれでもしょうゆを捨てきれない民がいた。


「おいお前、さっさとマヨネーズしちまえよ」


「い、いやだ……! 僕は最後まであきらめない……!」


「諦めろ。もうマヨネーズがすべての調味料をぶっ潰した。

 もうしょうゆの生きる道はないんだよ」


「そんなことない!」



「ああそうかよ。じゃあさっさと油と分離しちまいな!!」



マヨネーズが勢いよく放たれた!!

しょうゆが真っ白に塗りつぶされるそのとき!!


雲が晴れ、海が割れて、太陽を背にあらたな調味料が舞い降りた。


「な、なんだあいつは……!? あんなやつしらないぞ!!」



「おろかな戦いを辞めるのです。

 本当の万能調味料なら、戦うのではなく包み込むのです」



「なにものだてめぇは!! 調味料を名乗れ!!」


圧倒的な存在感にマヨネーズはすっかり萎縮。

神にも等しいその調味料は静かに答えた。



「あじのもと わたしこそ究極の調味料です」



現れし万能調味料に全員がひれふした。

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