番外編「江崎の魔神達」

本編より少しあとの事。


「やっぱりこうなったね………。」

「ならん方がおかしいだろ。」


圭一と流人は放課後、こっそりと体育館ステージ2階に忍び込んでいた。

今起きている集会が始まる少し前に。


「全軍に告げる!!我らから天使、ゆーちゃん先生を奪った男、元江崎高校生徒会会長であり逆臣、椿奏の討伐作戦をこれより開始する!!」


「「おーーーーーっ!!!!」」


結月が急遽、江崎から聖皇に異動になるという話は今朝方、各クラス毎に教師から生徒へ伝えられた。

最初は急ではあるが、異動であるならば仕方ないと、残念そうにしながらも納得する生徒達だったが、その後何者かが始めた邪推が広がった。


「奏が無理矢理、結月を聖皇へと引き込んだ。」と。

普通に考えれば、一学生である奏にそんな事は出来ないのだが残念ながらその邪推を始めた人物も、今ここで集会を開いている結月の親衛隊らしい男達にもそんな簡単な事を考える脳みそは搭載されていないらしい。

結局、放課後にはそんな馬鹿な話を信じた生徒達が体育館半分埋まるほどの数集まってしまったのだった。


「作戦は30分後、再びここに集まってから行うものとする!各自、それまでに諸々の準備をして備えるように!!」


「まあ、ゆーちゃんが奏目当てで、っていう…奴らからしたら、それ以上に厄介な理由だから、ある意味間違いでもないのがな……。てか、アイツ不在なだけで今もここの生徒会かい……どうした?」

「……いや、何でもないよ。まあ、ゆーちゃんが奏が目的でっていうのは、口にしないほうがいいよ。誰が聞いてるか分からないし。」

「それもそうだな。」


一部の人間は結月が奏の事を好きなのを知っている。アレだけ好意を向けられてる奏は何故か気付いていないのだから、少しだけ結月が不憫ではあるが。


「まあ、ゆーちゃんは先生だからな……。実は気付いてて、知らないフリしててもアイツはおかしくないか。」

「今回のゆーちゃん、割とガチの攻め方してるから、たぶんその辺問題ないと思うよ?」

「奏も大変だな……ナイト様になったり、討伐対象にされてたりと……。まあ、見えないとこの障害くらい、払ってやるのが友達だよな、と。」


流人は立ち上がって、スマホで理科室にいる人体模型のハルト君と連絡をしている。

バラバラにしたのを謝罪した後、今は―何故か―友人として上手くやっている。


「行くのか?」

「ああ、ハルト君に頼んで必要な武器用意してもらってるから行ってくる。そっちは頼んだぞ。」

「心配ないよ。2連絡してる。里桜はどこから嗅ぎつけたのか知らないけど、学園長室で武器見繕ってるって。」

「……危ねえからわざと言わなかったのに。まあ、仕方ないか。簡単にやられるようなタマじゃないし、最悪俺が護ればいいだけだもんな。」


そう言って、流人は部屋を出て、こっそり体育館を抜けた。



◆◆◆


「集まったな……それでは皆の者!進軍開始!後の江崎に、我らの偉業をしかと刻み込むのだ!!」


「「おーーーーーっ!!!」」


指揮官と思しき人物は「続け!!」と前に出た。

流人が言った通り、彼らにもう少し先の事を考える頭があれば………いや、を覚えていれば、こうはならなかったのかもしれない。


指揮官と、後ろに何人かがいる地点が何かで撃たれ、吹き飛んだ。先日校庭を吹き飛ばした、あの一撃だ。


「なんだ!?」


飛んできたであろう地点を全員が見ると、先程の攻撃をした人物が持っている獲物を肩に掛けながら歩み出た。


「何だも何もねえだろ。女一人で他所様に迷惑とか何考えてやがる。」


「……高遠流人!?抜かせ!相手は一人だ、やっち…」


その辺で伸びてる指揮官の代わりの男が指示を飛ばそうとすると、背後から「がっ!?」「痛え!」「うわぁああ!!」と悲鳴が聞こえてくる。

慌てて後ろを見ると……


「…………ひぃっ!?」


「やっほー、淘太さんだよ。」


木刀を片手に制服の上から羽織を肩に掛けた人の良い笑顔で手を振ってる男、椿淘太つばきとうた

そして…


「私の可愛い息子に何をしようとしてるのかしら、貴方達?」


息子の隣で、怒りで笑顔に陰を落とす養護教諭、綾乃。


二人の魔神が佇んでいた。

まるで「覚悟は出来てるだろうな?」と言わんばかりに。




◆◆◆


現在、背後の空間では3人の魔神による蹂躙が始まっていた。悲鳴が次々と消えていく。


「ま、まずい……逃げないと………っっっ!?」


ひっそりと意識を取り戻し、こっそり這って逃げようとした主犯格の男の目の前に薙刀が突き刺さる。


「逃がすと思ってるんですか。みんな気付いてますよ?」


主犯格の男が恐る恐る上を見上げると、小柄な美少女が満面の笑みで見下ろしていた。

これが別のシチュエーションならば、彼は喜んだろうが今回ばかりはそうでもない。

何故なら……


「まあ、先輩とゆーちゃんの邪魔する人なんて……私は逃がすつもりなんて欠片もないんですけどねぇ?」


薄っすらと目を開く小さな魔神りおの笑顔に逃れられない死を見たのだから……。


「うわあぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」



その後…首謀者含め、全員がとっちめられ鎮圧されたのは、その数分後の話だった。



―――――――――――――――――――――


第二章 完

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