第15話 ダブルデッキ


俺はその後、ブラックジャックのテーブルに行く。


ブラックジャックにはいくつかバリエーションがあるが、このカジノにはダブルデッキと86デッキがある。


デッキというのはトランプのセットのことだ。6デッキの場合、6組のカードをランダムに混ぜ合わせる。この場合は、今は機械を使う。何回もシャフルして、最後はプレイヤーの一人に、使うカードを選ばせる。具体的には、黄色いカードや赤いを重なったカードの途中に差し込む。そこから下のカードを使うのだ。



6デッキの場合、あまりかけひきはない。単純にディーラーと勝負するだけだ。しかも、だいたいどういうときにはどうする、という基本的な戦略が決まっている。


だから6デッキは「ただの作業」という奴もいるほどだ。

デッキが6つもあると、カードの出る確率もほぼ予定通りだし、また数を数えるのも難しい。



それと比べると、ダブルデッキは違う。

これは、ディーラとだけでなく、ほかのプレイヤーとの駆け引きがあるのだ。


どちらのゲームもディーラーと1対1で戦う。カードを引いて、合計が21以内なら大きいほうが勝ち。絵札は10と数える。Aは1と11のどちらでもいい。二枚でAと10が揃えばブラックジャックとなり、掛け金の1.5倍が返ってくる。 それ以外は勝てば同じ数が支払われる。


そこまでは同じだ。

だが、ダブルデッキは、配られるカードを他人に見せない。

あくまで隠すのだ。


なぜか?ダブルデッキ、つまりカードはたったの2セット。となれば、出たカードを覚えておけば、残りの中からいい数字、悪い数字が出る確率をある程度計算できる。


とくにブラックジャックではAの価値が高い。

Aがあと何枚あるかを覚えておくことは、ゲームの戦略の根幹の一つだ。もう一つは絵札というか10-K の数もだ。10の札は13分の4,つまり3割もある。だが、前に出てなければ出る確率が増えるのだ。



また、テーブルには5-6人が座ることになるが、カードは左から配られる。


つまり、右側のプレイヤーは、カードをカウントしながら勝負に臨むことができるので有利なのだ。



小手調べのつもりで、テーブルに着こうとして気づく。ブタ張りおじさんが左端にいて、

取り巻きしかテーブルにいない。



おっと。俺は座るのをやめ、様子を見る。

ディーラーのカードは、6と伏せたカードだ。


おじさんは手札を見ながらうなったあげく、もう一枚カードを要求した。

カードが場にされされる。8だ。


そして彼は何か叫びながら、手に持っていたカードを投げ出した。 バスト(失敗)した、つまり221を越えたのだ。手の内は8と6とがあった。


(これはひどいな)俺は思った。

セオリーでは、ディーラーの表示カードが6のときには、バストするリスクがある場合、絶対にカードを引いてはいけないのだ。


そんな基本的なセオリーも知らずにハイローラーテーブルに来る。本当に腐った奴だと俺は思う。


プレイするのはいい。

だが、そのために真剣になってほしい。 セオリーを勉強し、それを知ったうえであえて逆張りで行くならわかるが、こいつのは何の知識も戦略もないようだ。


ちなみに、一番左に座るのもよくない。


一番左の人間のカードの数で、後続の連中のカードが変わってしまうからだ。



本来なら勝てていたのに、アホが自分の前にカードを余計に引いたせいで負ける、というのは単に腹立たしいというよりはそいつを許せなくなってしまうのだ。



ほかにダブルデッキのテーブルはオープンしていないが、ディーラーはテーブルで手持無沙汰にしている。


俺はあたりを見回す。それなりにプレイしそうな奴はいると見た。


俺は、ゆっくりと無人のテーブルの一番右側に行き、座る。それを見て、あと二人がテーブルにやってきた。



すでに3人か。悪くない。



それで、ディーラーがシャッフルし、プレイが始まる。


俺は最初、50万パタカ(一千万円)から賭ける。

ハイローラーテーブルではまあ標準的なベットだ。


最後の席というのは、すでに出たカードを勘案できるので、いい席だ。

俺は104枚をすべてカウントすることだできる。



もちろん、実際は最初に二十枚くらいは除けられれるから、104枚をすべて出るまで覚える必要はない。ただ、すでに出た数を数え、残りを考えるだけだ。


3人で二回プレイし、俺はトントンだ。そのあと、三人ってきて、6人のフル・テーブルになった。

シャッフル

これはやりやすい。特にAと絵札が出た数がわかると、最後のプレイヤー、とくに二回目は作戦が立てやすい・


シャッフル後の一回目の俺のカードは、3とKだった。札としては悪い。だが、ディーラーの表示札は6だ。ディーラーは一枚表示し、一枚を伏せるのだ。


俺はセオリー通り、スタンド、つまりそれでカードは終わりだ。

ほかのプレイヤーも、もう一枚引いたやつはいない。


ディーラーはそのあと絵札を二枚出し、バストした。これで50万パタカが100万パタカになり、ディーラーは50万をひっこめて100万パタカチップをよこした。


俺はそのあとその100万パタカチップをベットし、AとQのブラックジャックで、追加の150万パタカをゲットした。


ここでシャッフル。俺の左の席の人間が席を立った。

誰もその後に座らない。


好都合だ。

ここで勝負する。


俺は、2箇所の席で、1000万パタカずつ、合計四億円のチップを賭けた。これはマキシマム・ベットだ。


カードが二枚ずつ、伏せて配られる。

ディーラーの一枚が開かれ、一枚が伏せて置かれる。

ディーラーの数字は6だ。これはチャンスだ。


俺は、まず左の席のカードを見る。エースが二枚だ。

すかさずカードを表側にして、二枚離して並べ、もう1000万パタカを賭ける。


これはスプリットという、同じ数字が二枚あるとき、別々に賭けることができる。Aの場合はまあ問答無用でスプリットだ。


Kが二枚の場合、普通はスプリットはしない。なぜならそのままで20、かなり勝つ確率が高いからだ。一勝一敗だったらチップは増えないのだから。


次に、右側のカードも見る。こちらは7が二枚。これもスプリットした。


ちなみに、ここでスプリットするかどうかは、ディーラーの手によって異なる。

たとえばディーラーが見せているのが絵札のときには、スプリットはしない。

なぜなら、ディーラーのもう一枚が絵札で、20になる可能性が高いからだ。


そんなときスプリットしていると、下手をすると両方で負けてしまうのだ。

今回ディーラーが6.、ここから絵札を二枚引いてバストする可能性が高いので、スプリットして7で勝負できるのだ。


ここで、ディーラーは最初のプレイヤーに札を配る。このプレイヤーは、8と3のカードをさらし、「ダブル」と言って同じ数のチップを賭ける・


自分の数字がいいとき、同じ金額を上乗せすることができる。これをダブルダウンという。倍になる代わり、あと一枚しか引けない。


ディーラーがもう一枚配る。Jだ。これで21になった。ただ、まだ勝負はついていない。ディーラーが21なら引き分けだからだ。



次のプレイヤーはカードをもう一枚要求した。3だ。もう一枚要求した。8だ。これでプレイヤーは札を伏せた。


あと二人は、そのまま札を伏せ、追加はいらなかった。


俺のターンだ。最初のAのところにもう一枚Aが来た。当然再度スプリットだ。


もう一枚引く。何と、またエースだ。4枚エースが並んだ。観客がどよめく。

それぞれのカードに、1000万パタカののチップが賭けられる。


一枚目。Qだ。これはブラックジャックになり、ディーラーはその場で1500万パタカのチップを支払う。

ブラックジャックとなれば勝ちだからだ。ディーラーが3枚で21になったとしても、それはブラックジャックとはいわず、同じ21でもブラックジャックのほうが強いので自動的に勝ちになるのだ。


次のカードは3だった。俺はここでダブルダウンする。引いたカードはKだ。結局14にしかならない。

次のカードは9だ。俺はやはりダブルダウのする。引いたカードはJだ。これで20になった。

最後のカードはまたAだ。5枚目のAだ。俺はまたスプリットする。4を引いてダブルダウンで7。12だ。 最後のカードは8を引いてダブルダウン。2だ。これで21になった。



次は7のスプリット。一枚目は3だ。これもダブルダウン。10が来て、20だ。次は4だ。ダブルダウンでJが来て、21.



派手になった。

俺のテーブルには、ダブルアウンした最初の4組(もう一組はBJなので支払われてカードも片付けられている。)が各2枚、次の二組も各2枚。合計12枚が場に出ている。


ディーラーが伏せた札を開く。Kだ。これで合計16.ディーラーは、16まではもう一枚引かなければいけないのだ。なお17ならスタンド(見送り)しなければいけない。


ディーラーはもう一枚引く。7だった。

これでディーラーはバスト。観客がわっとわいた。


俺には。さっきのBJ分を含め、今回でチップ13.5枚、1億3千500万パタカ、約27

億円を手にしたことになる。



「さすがはスティング・レイだな。」誰かが昔の俺の二つ名を呼ぶ。スティングレイとはエイのことだが、スティングは刺すという意味だ。一発で刺して仕留める。 俺のギャンブルにおける基本方針でもある。 つまり、勝てるときに大きく勝つ、ということだ。


俺は沢山のゴールドブラックの1000万パタカチップを持って、席を立った。

ディーラーが悔しそうな顔をしている。100万だけチップをやった。まあこれでも2000万円だ。ピンはねされても半分くらいは貰えるだろう。


===


ブラックジャック回でした。

ルールがわかりましたかね。



ちなみに、1と6の場合、「ソフト17」といいます。ソフトとはAを11とカウントすることです。ディーラーはソフト17ではスタンドしなければいけませんが、プレイヤーはソフト17でダブルダウンすることもできます。7とかひいたら14になり、数が減るんですけどね。ディーラーがバストすれば問題はありません。



なお、スプリットの回数やスプリット後のブラックジャックの扱い、3枚以上引いてからダブルダウンできるか、などはローカルルールです。


レイはしっかりこの辺も確認していたのです。




「面白い」

「続きが気になる」

「マカオ行きたい」

「カジノ当てたい」

「金がない」

「反応ないと作者がかわいそうだから」

「愛田さん、抱いて!」(女性のみ。人妻可(笑))

など少しでも感じられたかたは、★、コメント、ハート、レビューなどください。



次回はいよいよルーレット編です。








ディーラー「おい、こいつAを五枚もひきやがった…」

観客「レイ、エースをねらえ!」

レイ「俺、お蝶夫人好きなんだよな、高校生には見えなくて。」

ディーラー「おい、27億円も勝って、感想それかよ!」


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