第8話 イグザクタ
目的の6レースの前の5レースでもちょっと遊ぶことにする。
出走馬リストを見て考える。
4番にFunTravelという牝馬、それから7番にGrayPrinceという牡馬が出走する。
4番は4番人気、7番は8番人気だ。
つまり、あまり人気がない。
「小手調べだ。5レースも買うよ。」
俺が言うと、ヴェルは「私はいいわ」という。たぶん、その辺もゲンかつぎだろう。
俺は係員にいう。5レース、4-7、キネラ、と言いながら、100万パタカチップを渡す。
これは2000万円程度だ。単なる小手調べとしては十分だろう。
「豪勢ね。」ヴェルが言う。
「まあ、ヴェルとレイの名前がついてるからな。」
これはキネラ、つまり馬番連勝で、3番と7番の馬が順番問わず一位と二位になれば当たりになる。
係員が買った馬券を持ってくる。5レース、6レース両方だ。
5レースのファンファーレが鳴る。出走だ。
スタートするが、4番、7番とも後方だ。
だいたい10馬身くらい離れている。これはきついか、と思うと、二頭とも中盤で追い上げ、最終コーナー前で4番が前に出てくる。7番はその後にぴったりついている。
最終コーナーを曲がり、最終の直線で4番がするするとトップ集団をごぼう抜きし、いつのまにか並走していた7番もそのままゴールした。3ー7だ。
配当が発表された。53倍になった。5300万パタカになった。2000万円が10億円になったことになる。
「二人の勝利だな。」俺は言う。
「幸先いいわね。」ヴェルも答える。
俺は係員に勝ち馬券を渡し、小切手にしてもらうことにした。
いよいよ第66レースだ。
「勝てそうかい?」俺が聞くと
「いつもそのつもりよ。」ヴェルが答える。
ヴェルズドリームの戦績は、4戦1勝、あと2着、3着、7着だ。
「今のところはコストをカバーしているくらいね。ただ、これから経験豊富なジョッキーに乗ってもらうようにするから、お金はもっとかかるわね。」
「とりあえず今日は勝ってほしいものだね。」
「まったくよ。」
ファンファーレが鳴り、出走だ。
10番が先行する。ヴェルズドリームは中盤だ。
先行馬というのは、だいたい途中でへばる。その意味でちょっと先行するのはよくないのだ。
先行すると向かい風を受ける。それは体力を削るのだ。自動車レースや競輪などでも同じだ。
ちなみに、後ろにつくことを自転車レースではドラフティング、自動車レースではスリップストリームという。
中盤を過ぎると、10番は全体の中に飲まれた。足が伸びなくなったようだ。
3番も中盤の一団に入っている。
いよいよ最終コーナー。馬群が広がる。
皆が鞭を入れ、直線でスパートをかける。
3番、10番はどちらもその集団から抜け出し、1番、6番のトップ二頭に追いすがる。
4頭がゴールに流れこんだが、順位はわからない。
会場のビデオビジョンに映し出されるが、それでもわからない。
なかなか結果が出ない。
「どう思う?」俺が聞くと、
「勝っていてほしいわね。」ヴェルが答える。
かなりの時間がかかり、結局結果としては3-10-1=6となった。
一位はヴェルズドリームだ。3位と4位は同着扱いでどちらも入賞になる。
そして、Winの配当は4倍、イグザクタの配当は15.5倍となった。
「おめでとう。」俺はヴェルに言う。
「あなたもね。」ヴェルが言う。
「次はどうする?」
「残念だけど時間切れね。戻らないと。」
俺は、係員に頼んで配当を持ってこさせた。当然小切手だ。
俺の配当は、こうだ。
最初の勝ちが5300万パタカ、
次の勝ちが1億5500万パタカ。
合計で2億800万パタカだ。
「悪くない勝ちだ。」俺は言う。
「これで悪かったらどうなるのよ。オーナーより儲けてるじゃない。」ヴェルが笑う。
「まあ、たまたまな。」俺は言う。
俺は、二枚めの小切手を裏書すると、ヴェルに渡す。
「何の真似?」
「最初に言ったろ。バースデーっプレゼントだ。それに、これは昨夜にルージュに賭けたゴールドブラックのお礼でもあるから。」
俺は笑う。
もともと、勝ってしまった分をどうやってヴェルのカジノに還元しようか考えていたんだ。
これでまあ大丈夫だろう。
ヴェルのカジノから稼いだのは、1億7000万パタカだ。それプラスヴェルからもらった2000万パタカもあるが。稼いだ分のうち1億5000万パタカを返したら、まあいいだろう。
ほかにチップでリタに払う分もあったが。
ヴェルは満面の笑みで礼を言う。
「本当に素敵なバースデープレゼントをありがとう。」
"My Pleasesure, madomoiselle" 俺は答える。日本語で言えば、「君の笑顔が見られてうれしいよ。」という感じだ。
「ついでに、リタの査定も戻しておくわ。じゃあ、行きましょう。」ヴェルが俺を促す。
「ちょっと待ってくれ。」俺は言い、ここの係員にもう一枚100万パタカのチップを渡す。
「これで、次のレース、トリオで3,10の流しを買っておいてくれ。もし当たったらヴェルに小切手を渡してくれ。」係員はうなずいた。
「今日はいろいろありがとう。」
おれは心付けとして10000パタカチップを渡した。
彼は満面の笑みでそれを受け取った。
いままでの賭けと比べれば少額に見えるが、それでも20万円のチップだ。しっかり働いてくれるだろう。
俺とヴェルは、ヴェルのカイエンでホテルに戻る。だんだん暗くなり始めたくらいだ。
「6時に、最上階のフレンチレストランのバーに来るようにリタに言ってあるわ。」
「何から何までありがとう。」俺は礼を言う。
「こちらこそ、楽しい時間と素敵なプレゼントに感謝するわ。元気でね。まあ、またすぐ会うんでしょうけどね。」
ヴェルはそう言ってウィンクした。
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イグザクタとキネラがあたりました。
ちなみに次のレースは12頭が出走でした。
レイが頼んだのは、3,10とあと一頭について全部の馬を買うということです。
3と10と1,3と10と2,…3と10と12の組み合わせは10通りです。
掛け金が大きいので、賭けられた金額の大部分を二人でさらってしまいました。
小さいレースであれば、全部の売上でも数億円ということもあります。
ヴェルの馬の出たレースは比較的参加者が多かったようです。
小切手を現金化するには、エンドース、すなわち裏書が必要です。
今回の小切手はバンカーズチェック、あるいはキャッシャーズチェックという、必ずすぐ現金化できる小切手です。 それを裏書すると、小切手を持っている人間が銀行にそれを提出することで、現金化する(正確には、預金口座にその金額を入れる)ことができます。
最近ではスマホで小切手入金が可能ですが、まあこの金額であれば、物理的に持ち込むべきですね。
「面白い」
「続きが気になる」
「マカオ行きたい」
「カジノ当てたい」
「金がない」
「反応ないと作者がかわいそうだから」
「愛田さん種付けして」(人間の女性のみ)
「ゴールドブラック一枚、愛田さんに差し上げます。」←大歓迎
など少しでも感じられたかたは、★、コメント、フロー、レ
「こんなに簡単に競馬って当たるものなの?」
「実際、当たる人は必ずいるんだよ。」
「そうね。馬券も宝くじも、買わないと当たらないってことね。」
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