ニート探偵

流子

ニート探偵



「お願いします、カケルが自殺したのではないと証明してください……!」

 ふむ、と相対する男は思案する。

「まあ、請負ってみようじゃないか」



 貧乏大学生のサカシは、その日ある探偵事務所に訪れていた。

「友人が先日、自殺して……だけど、僕は納得できなくて……」

「それでここへ依頼に来た、と」

「はい……。あの、友人は自殺するような感じに思えないし、何となくですけど、引っかかって……」

 今どき自殺は珍しくないし、自殺しそうも無い人だって意外と自殺するんだよなあ。なんて、サカシの話しを聞いていた探偵のニトウは思った。

「……それで、何故この探偵事務所へ?正直、殺人事件の解決実績とかも全く無い、無名の事務所だと自覚しているのですが」

「えっと……俺、学生ですし、お金が……その……」

 言いよどむサカシに、ニトウはピンと来た。

「ああ!ウチは依頼料が激安ですもんね!」

 ニトウは全く気にせず笑顔で言ったが、サカシはバツの悪そうな顔で笑った。


 そう。この事務所、全く実績が無いゆえに激安で依頼を受け付けているのだ。

 ニトウは大卒後、就職活動に失敗し、ニートとなった。金は欲しいが会社勤めは向いていない、さてどうするかとなった時、自分が推理小説好きであることを思い出した。

 よし、探偵になろう。

 好きな事を仕事にと言うのは今のトレンドだし、良いんじゃないだろうかと、ニトウは勢いで探偵事務所を開いた。

 ニトウは友達が多い方では無いし、会社勤めをした事の無い一般的なニートだったので、コネやツテも無い。大々的に宣伝するような金も無い。

 無い無い尽くしな探偵事務所には依頼ももちろん無かった。

 これじゃ仕方ない、とりあえず依頼料を相場より明らかに下げればいいか、と価格競争に乗り出した。そして今どきの若者らしく、ネットでポチポチと宣伝をした。


 それで、やっとこ釣れたのが今回の依頼人であるサカシだった。

「と言ってもなあ……初の依頼が、殺人事件か……」

「エ?! 初の依頼?!?!?!」

 思わず呟かれた言葉を聞き、サカシは不安になった。

「……ああ、すみませんね。探偵なんて小説やアニメと違って、飼い猫探しや浮気調査が主な仕事だと見聞きしたもので」

「あ、いや、たしかそうらしいですけど、エ? 初??」


 困惑するサカシにニトウは

「そう、私は元々ニートでかくかくしかじか」

などと説明をした。

 サカシはやっぱこんな所に依頼するなんて、さすがに血迷ったな…と後悔し始めていた。

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