気になっていた女の子が私のことを好きだったみたい
タイロク
第1話 これは、私たちの物語
――私には、気になっている女の子がいる。
唇が離れたとき、私の息は大きく乱れていた。
動揺しているのが自分でも分かる。でも――
夕暮れの教室。彼女は、じっと私を見つめている。
あとに残されたのは、微かな温もりと、今までにない感情。
まさかこんなことになるなんて、だれが予想できただろうか……
いや、これは予想外過ぎる。
目のまえで起こっていることを見て、私は目を瞬く。
もとはと言えば、
「やー、ごめんごめん。今日カレとデートあるんだわ」
「じつは私もなんだ~。ごめんね
という、友人たちの言葉を発端とした気まぐれだった。
彼氏いない歴=年齢(十六歳)の私は、一人で帰路につくことになった。
「綾崎もカレシ作ったら?」
そんな一言も貰った。
余計なお世話だ。私にだって気になっているやつくらいいる。
……まあ、その子は男子じゃなくて女子なんだけれども。友達になりたいなーと思いつつ、まだろくに話したこともない。
一人で遊びに行ってもアレだし、さっさと帰ってお菓子でも食べよう。そう思って近道をして帰ることにした。
それで裏路地に入ると、
「あーー、もうムカつくっ!!」
そんな怒声と共に、ガァンッ、となにかを蹴るような音が聞こえてきた。
な、なに? 何事?
反射的に身がすくむ。物陰に隠れ、声のした方を窺うと……
「どーしてみんな私にばっかりあれもこれも押し付けるのよ!? 私をなんだと思ってるの!? 私はあんたたちのお手伝いさんじゃないっつーのっ!!」
言いながらなおもゴミ箱を蹴るのは、私とおなじ制服を着た少女だ。
腰まで伸びた艶やかな黒髪は、私の金色に染めた髪とは異なった美しさだ。
小づくりな顔にアーモンド形の大きな瞳。きめ細かな白い肌。身長が高いと言うわけではないけれど、背筋がピンと伸びている。
彼女のことはよく知っている。
私とおなじクラスで、クラス委員長を務めている女子だ。そして――
私が気になっている女子でもある。
教室では、いつも感情の読めない無表情。ミステリアスな雰囲気に、なんでもそつなくこなすその姿に、秘かに憧れてもいる。
そんな各務原だけど、
「もうっ! なんで蹴っただけで倒れるのよ! おかげでゴミが散らばっちゃったじゃないっ!!」
……いや、誰コレ。
いつもとイメージが違い過ぎる。ひょっとして人違い……なわけないか。
ていうか、結構よくない場面に遭遇しちゃったっぽい? 見なかったことにして、近道はあきらめて帰ろうかな……
「あ~~~~面倒くさい!!」
なんて言いつつも、キチンと片付けている各務原。……もう、仕方ないなあ。
「い、委員長? なにしてるのこんなとこで」
さも今来ましたみたいな感じで出て行く私。各務原はといえば、
ビクッ
大きく体を震わせて、大きな瞳を大きく見開き、ビックリした顔で私を見てくる。
「あ、綾崎さん……?」
微妙に上ずった声。さらに強張った表情。
マズい場面を見られた、と思っているらしい。ムリもないけど。
「ゴミ片付けてるの? 私も手伝うよ」
「え? でも……」
「やー、委員長は偉いね。散らかったゴミを片付けるなんて。私だったら知らんぷりしちゃうよ」
「え、ええ。そう……」
各務原は気まずそうに言った。どうやら罪悪感があるらしい。
「ありがとう、綾崎さん。助かったわ」
「いいよ。気にしないで」
ゴミを片付けて裏路地から出たあと、改めてお礼を言われた。各務原は、もういつもの無表情に戻っていた。
それで解散と思われたけど、各務原はなにか言いたげに私を見てくる。そして、意を決してといった様子で口を開いた。
「ねぇ、もしかして……見てた?」
「えっ? な、なにをっ?」
なにを訊いているのか分かって、声が上擦ってしまう。
「……いえ、やっぱりなんでもないわ。ごめんなさい、忘れて」
各務原はひとまず安心した様子で、私も安心する。
や、だって「見てたよ。めっちゃ切れ散らかしてゴミ箱蹴り倒してたね」とは言えないし。
「今日はありがとう、綾崎さん。じゃあ、また明日学校でね」
そう言って、各務原は人ごみの中に消えていった。
私はといえば……
「お、ぉおおおおおおおおお~~……っ」
これは歓喜の声です。ほかの人の迷惑にならないよう、低い声でお送りしています。
ど、どうしよう……各務原と話しちゃった!
ずっと気になっていた各務原。話したいと思ってたけど、いっつもクールで、人を寄せ付けない雰囲気だから、話しかけられなかったんだよね。
でもついに話せた! こ、これはもしかして……
各務原と友達になれちゃうかもっ!?
これをキッカケにして、ずっと友達になりたかった各務原と仲良くなれるかも!
そう考えると、妙に嬉しくて、無意味にその場で足踏みをしてしまった。
それにしても……
各務原もあんなふうに怒るんだ。教室ではいっつも無表情だから、なんだか意外だ。
でも、自分で散らかしたごみはキチンと片付けるんだから、やっぱりいいやつだなー。
いいことあった、近道してよかった。
そう思いながら、私は帰路についた。
――私は胸の高鳴りを隠すように、速足で帰路についていた。
うあああああっ! うああああああああっ! ど、どうしよう……綾崎さんと話しちゃった!
ずっと気になっていた綾崎さん。明るくてやさしくて、ちょっと派手な見た目で、スカートも短く穿いている。
いつもお友達と一緒にいて、人見知りの私は用もないのに人に話しかけるなんてできない。
友達なんてできたことないし、人との接し方もいまいちよく分からない。おかげで、みんな私のことを冷たい人と思ってるみたいだし。
でも……でも、ついに話せた。こ、これはもしかして……
綾崎さんと恋人になれちゃうかもっ!?
これをキッカケにして、ずっと好きだった綾崎さんと恋人になれちゃうかも!
もしそうなれたら、してみたいことがたくさんある。アレとかコレとか……えへへへへへへへっ!
「いたっ」
急に頭に衝撃が。
考え事に夢中になったせいで目のまえがお留守になっていたらしい。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて謝る。そしてバッチリ目があった。
電柱に貼られた、選挙ポスターのおじさんと。
顔が熱くなるのが分かる。周りを見ることができず、私はうつむきながら歩きだす。うぅ、だれにも見られていませんように。
でも、結局顔はすぐに緩んでしまう。
綾崎さん、やっぱりやさしいな。いっしょにゴミを片づけてくれるなんて。
もっともっと、仲良くなりたいわ。
そのためには、私もがんばって素直にならなきゃ。
とりあえず、明日は一言でもいいから綾崎さんと会話する!
私は決意を新たに、帰路についたのだった。
これは、私たちの物語。
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